1ー13 少女たちの騎士

デイビッドとホープソンとの激闘から三週間後、二人は町長室にいた。


「いやー、非常に助かりました。これが今回の報酬です」

「……はい、確かに全額確認しました。これで契約した仕事は終了とさせていただきます」

「ありがとうございました」

「ところで……十五年前の元町長の襲撃事件に関することなんですけども」

「!!」


アルフレッドが事件について話し出すとロバートは震えだし、脂汗をかき始めた。


「あれ……あなたが町の住人を誑かしてやらせたんですよね?」

「は、はい?……あなたが何を言っているのか分かりませんなあ?よ、用がないならとっとと帰ってくれませ……」

「ゴチャゴチャぬかすんじゃねえよ、このクソ野郎が」


アルフレッドの隣にいたデイビッドが腰に隠していた拳銃を抜き、ロバートの眉間に銃口を向ける。


「これからはボディーチェックぐらいした方がいいですよ?」

「こ、こんなことしてタダで済むと思っているのか!?」

「おー、いかにも小物が言うようなセリフだな」

「知っていることをすべて吐け」


アルフレッドが促すとロバートはよく脂が乗った舌で喋りだした。


「し、仕方なかったんだ!都市部で汚職がばれて、ばらされたくなかったらゴウイラッドの資源の交渉をうまくいくように裏で動けって言われたんだ!そしたら、あの頑固な町長に何度もダメだ、ダメだ言われて……。お、俺だって贅沢がしたかったんだよぅ。ウッ……ウッ。そしたら今度は都市部の奴らは発展してきたら、自家発電し始めたからもう資源はいらないって言ってきたんだ!こんな理不尽なことってあるかよ!だから、森に道路を作ってあっちの国に資源を買ってもらうことにしたんだ!そしたら、なんだ!あのクソロボットが邪魔してきてきたんだ!町の猟師もつかえなかったよ!この町の奴らもクソだな!!あんなに街が良くなったときには感謝してたくせに、自分たちが汚染で影響が出始めたら、手の平ひっくり返して俺に昔は良かった、畑を返せ、自然を返せって言ってきたんだ!俺は何にも悪くないのに!!」


全部吐き出したのかロバートは話をやめ、はあはあと深呼吸をする。


「結局お前の自業自得じゃねえか。そんなくだらないことに手を貸したかと思うと自分が情けなくなる。おい、デイビッド」

「おう、じゃあな」


デイビッドが引き金に指を引っ掛ける。


「ま、待て、お前ら!金ならいくらでも出す!だから命だけは……」

「言ったでしょ。契約は終了したって」


パァン!


デイビッドが引き金を引き、銃弾が銃口出てロバートの横を通り抜け壁にめり込む。


「今すぐにお前を殺しても意味がない。この沈みゆく町とともに真綿で締められるように少しづつ命を削りながら苦しんで死ね」


言いたいことは言い終わった二人は町長室を出て行く。


「しかし、こんな古い銃をよく持ってるな」

「趣味だよ、趣味」


そして二週間後、夜逃げをしようとしたロバートは町の住人に見つかって殺されてしまった。


・・・・・・


コン、コン


アルフレッドがドアをノックすると、初老の男性が出迎えてくれる。


「ダニエルさんですか?」

「はい?そうですが」

「ホープソンの最後をお伝えにきました」

「!! ……お入りください」


アルフレッドは勧められた椅子に座り、自分の身の上、軍にいたこと、ホープソンに襲われたこと、ホープソンが町を襲撃しようとして相棒が阻止したことを話した。


「そういえば二人の娘さんがいらっしゃるんですよね?今はどこに」

「二人とも嫁いでしまいました。今日は二人とも遊びには来ているんですが、一緒に買い物に行ってしまいました」

「そうですか、残念です。ホープソンから伝えて欲しいと伝言を預かっているんですが、お父さんから伝えてもらえますか?」

「はい、わかりました」

「申し訳なかった。そしてありがとうと」


それを聞いたダニエルは目に涙を浮かべる。


「……ホープソンは優しいやつでした。あいつがこの国に家族を連れてきてくれなかったら私たちはあの町で死んでいました」

「やはりそうだったんですか」

「一つ分からないことがあるんです。なんでホープソンは私たちと離れて森に潜伏していたんですか?」

「……これは私の推測なんですが彼は自分の誇りを守りたかったんじゃないでしょうか」

「誇り?」

「ホープソンが二人をマスターと認めた時にどんなときも守るみたいな誓いを立てたでしょう」


ダニエルは記憶を探るため、少し目を閉じる。しばらくすると思い出して目を開けた。


「確かにそのようなことを言っていました」

「ホープソンはその誓いを守れなかったからあなたたちから離れて、今度こそ誓いを守るためにあの町からの襲撃がないか監視していたんではないでしょうか」

「そんなにあの誓いが大切だったんですか?」

「気付いたら右も左も分からないところに置いてきぼりにされ、さまよった末にあなたたちに会ったんです。自分の命を落とすよりもあなたたちを守りたい……そんな気持ちがあの誓いには込められたんでしょう。その誓いを破った自分もあなたたちの命を奪おうとした住民たちも許せなかったんですよ」


出されていたお茶を飲み、喉を潤す。


「先生に会いましたか?」

「ええ、私たちよりも元気でしたよ。……では私はこれで失礼しようと思います」

「ホープソンの最後を伝えてくださってありがとうございました」

「いいえ、そんな礼を言われる程のことはしていません。彼はある意味私たちの仲間なので。……そうだ。ここに来る途中で、あなたたちの元の家に行ったんですが、そこでこれを見つけたのでお渡しします」

「これは……」


アルフレッドが手渡してきたのは一枚の写真だった。自分とエマに幼い時のエイシアとソフィー、そしてホープソン。みんなが笑顔で写っていた。


「……グスッ。ありがとうございます」


アルフレッドは写真を手渡すとダニエルの家を後にする。家の前に駐車していたオープンカーの中にデイビッドが待っていた。


「どうだった?」

「ああ、写真は喜ばれたぞ。お前も来ればよかったのに」


元々写真を持って行こうと言ったのはデイビッドだった。


「俺はダメだ。あんなしんみりした空気は耐えられない」

「そうか」


鍵を挿してエンジンをかけるがうまくかからない。


「なんだ、ついに壊れたか?」

「ああ、大丈夫だよ」


アルフレッドは車から出ると車の脇腹を思いっきり蹴った。


ブロロローーーーー


殴るとエンジンがかかった。


「……お前、この前愛車ちゃんとか言ってなかったけ?」

「動かなければゴミも同じだろ」


アルフレッドは車を動かし、整備がされている道路を走っていく。


「しかし、お前の会った黒い女ってのは誰なんだ」

「俺も知らねえよ。ただ……」

「ただ?」

「マントの上からでもわかるくらいバインバインだった」

「マジか!どうしよ、会いたいんだけどお前呼べる?」

「知らねえよ!敵かもしれない奴をナンパするつもりか!?」

「もう俺は女であれば敵でもなんでもいいんだよ〜〜〜!!」


二人が道路を走っていると歩道に笑い合いながら歩いているエイシアとソフィーがいた。

二人の車が通り過ぎるとエイシアはびっくりしたような顔をして車に振り向いた。


「どうしたの?お姉ちゃん」

「いや、今そこにホープソンが私たちに手を振っていたような気がして……」

「どこにもいないよ?」

「……そうね。気のせいよね」


再びエイシアとソフィーは父が待っている家に向かって歩き出した。いつか帰ってくるかもしれない自分たちの騎士の帰りを待つために。


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