1ー12 決着と新たな始まり
森の中をホープソンは疾走していた。
もう我慢はできない。何回も森の中に銃を持った男たちが入ってくるなんて尋常じゃない。間違いなくあの家族をまた狙っている。
今日、あの町の住人を残らず殺してやる。
「そんなに急いでどこに行くんですか?先輩」
「!」
風のように走るホープソンの右側に並走する影が現れる。反射的に右腕で迎撃するが当たらない。
止まって相手の確認をしようとすると影も同じように止まる。
全身を黒ずくめのスーツを着込み、顔すら見えない。
「ダレだ?」
「わからない?昨日あんなに俺の顔をボコボコにしたクセに」
「! ナンデイキテイル!?」
「あんたとお仲間だからね〜。そうそう死なないんだ」
「オマエもアノセンソウをイキノコッタのか?」
「そうだよ。あんたよりも後の世代だけどな」
「ナカマダトオモウナラソコをドケ!」
ホープソンの怒声がとぶが、デイビッドは反応をしない。
「こっちも仕事できているからな。ここを退くわけにもいかないんだよ。それにしてもあんたがあの町に手を出す意味がわからない。汚染はもう死者が出るほどに酷いものになっている。もうあの町は終わりなんだぞ?」
「ダカラだ!オレはオレのナクシタモノをトリカエシにイク!イマヤラナカッタラもうデキナイ!!」
ホープソンが青色に光り始め、むき出しのケーブルが蒸気を発して今にも襲いかかろうとしている。
「……話し合いは決裂か。じゃあ、俺も奥の手を出すぞ。___カレイドスコープ起動」
デイビッドのスーツが黒から銀色に変わり、周りに無数の色付いた魔術式が浮かび上がり、スーツに張り付いて動き回る。魔術式は他の魔術式と交わっては離れを繰り返し同じモノは一つとしてない。まるで万華鏡のように。
お互いに準備ができたところでそれぞれ自分の名前を言い合う。
「元ヴァファリジョン軍軍曹、デイビッド・ウィザーズ」
「『クライマーズ』ショゾク、ホープソン」
過去の遺物同士の戦いが始まった。
・・・・・・
「そうか、お前らが神を殺せた兵器だったのか。噂には聞いていたが……」
「ああ、だからあいつを信じて待てばいいんだよ」
ホテルでタバコを吹かしながらソファーでくつろいでいるアルフレッドにジョンソンは心配そうにしていた。
「それにしてもあんなに強いホープソンに勝てるのか?」
「爺さんもあのロボットのこと知ってたんだろ?」
「ああ、俺たちにとっては子供の頃のヒーローみたいなモノだからな」
「はは、ヒーローか。軍はロボットの大量生産を始めたが神には勝てなかった。だから、神に対抗する為に秘密裏に研究を続けたんだ。それで生まれたのが俺やデイビッドみたいな人間を改造して強化スーツを着させて戦わせる考えにたどり着いた。大量生産は無理だったが俺たちを含めて十体ほど作られたんだ。これを第五世代って軍隊は呼んでいたな。第五世代と第一世代では話にならない程の実力差がある」
「そんなに違うのか?」
「第一世代は魔力を動力源としか使っていただけだが、第五世代は人間に治癒能力を与えて無限の魔力を生成することができる。それをスーツに流し込んでスーツの能力を起動させるんだ。まあ、デメリットもあるが……」
「デメリット?」
「物凄く燃費が悪くて、体の魔力ストックを直ぐに使い果たしてしまう。最大でも一時間以上の戦闘は無理だから持久戦になると苦戦する。特殊な改造をすればそれも解消できるが今回はしていない」
「じゃあ、ホープソンがそれに気付いたら負けるんじゃないのか!?」
しかし、これ以上ジョンソンの質問に答える気がないのかタバコを灰皿に押し付けるとアルフレッドはニヤニヤしながら寝てしまった。
・・・・・・
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
ホープソンの怒涛のラッシュをデイビッドは受け流しながら防御し続けているだけだった。
「サイショのイキオイはドウシタ!?」
一見するとホープソンが押しているように見えるが決め手に欠けていた。
近くの茂みにホープソンが身を隠す。
デイビッドも茂みに入ると、32mm魔術ビーム砲をこっちに向けながら立っているホープソンがいた。
「!!」
キュイイーーーー
ビーム砲に刻まれている魔術式にホープソンが手をかざすと中が輝き出し、白い光を放出する。
あたりの木々を飲み込みながらデイビッドを襲う。
戦争ではこれが当たった天使はタダじゃすまなかった。
終わった。そう思ったホープソンだったが、光が消えるとデイビッドはそこに平然と立っている。
「ナニ!」
「お〜、予想していた反応」
もう一発ビーム砲を放つ。白い光の中をホープソンが覗くと、当たる直前にデイビッドの前に防御魔法が展開されビーム砲を防いでいた。
「ソレがオマエのスーツのセイノウか!?」
「そうだ。このスーツの名前は『カレイドスコープ』。保有している基本の魔術式を組み合わせ、無数の魔術式を作り出して武器にする。そのためか仲間内では最も美しい兵器なんて不本意なことを言われている。俺のスーツには対魔術の式が常に発動しているから、そんな武器を使わずにお前の得意な素手でこい」
また、嵐のようなパンチのラッシュが始まったが、やはりデイビッドはそれをやり過ごすだけだった。
「スコシはハンゲキしたらドウダ!」
ホープソンはデイビッドに挑発をする。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ボンバーマン<爆発男>」
パチンとデイビッドが指を鳴らすと今までデイビッドが触れたホープソンの腕の部分に小さな魔術式がいくつも浮かび上がり、
ボバババババーーーーーン!!
一斉に炸裂した。
「ガッ!!」
ホープソンの両腕の装甲が破壊され、左腕は重要なケーブルに何かがあったのか全く動かなくなる。
「ウ、ウガァァァアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
残った右腕を思いっきり振りかぶりデイビッドに襲いかかるが、さっきまでのラッシュが当たらなかったのに、そんな大ぶりのパンチが当たるわけがない。易々と拳を避けたデイビッドはホープソンの胸に両手をそっと手を当てる。
「悪いな、まだ殺されるわけにはいかないんだ。ゴッド・キラー<神殺し>」
デイビッドの手の平から青い光線が放出され、ホープソンの胸を貫通すると天の雲を貫いた。
「ガ、ガ、ガ……」
デイビッドの攻撃を受けたホープソンは膝から地面に崩れ落ちる。
動力源の心臓が胸に格納されていたのはアルフレッドから聞いていた。魔力の源がなければ動かなることは当たり前だった。
「ア、アリガトウ」
「なんでお礼を言うんだよ。呪詛の一つで吐いたらどうだ」
「オマエがソノキにナレバスグにケッチャクがツイテイタハズだ。ソレにサイゴにハナッタアノワザはオレをタオスのにはアマリにもオオワザだった」
確かにあの技は何体もの神を葬ってきた程のものでホープソンには使う必要はなかった。
「オレにゼンリョクでタタカワセてマンゾクサセタカッタンダロ?」
「……あんた勘違いしているぞ」
もうホープソンの中に残っていた魔力もなくなってきている。最後にホープソンは遺言を言い始めた。
「エイ……シアと……ソフィー……にモウシワケ……ナカッタと……ツタエテクレ。……ソシテ、アリガ……ト……ウ……ト……モ」
ピーーーーーーーーーー
ホープソンが完全に動かなくなる。
「地獄でまた会いましょう、先輩」
さっきまでの騒音が嘘のように森の中に静寂が戻ってきた。
「素晴らしい〜。さすが第五世代の兵器さんですね〜」
森の中に全身を黒いマントで覆った何者かが姿を表す。声を聞いた限り女だということしかわからない。
「誰だ?」
「嫌ですね〜。さっきから気づいていたくせに〜」
女が言っていた通りデイビッドはその存在に気付いてホープソンとは全力で戦ってはいなかった。ホープソンは勘違いしていたらしいが。
「なんだ。やる気か?」
「女に向かってやる気か〜なんてデイビッドさんは変態ですね〜」
「俺の相方は変態だが、俺は変態じゃねえ」
「あはは!ここにはあなたの実力を見にきただけなんです〜。今あなたと戦ったら私死んじゃいます〜。ではでは、アルフレッドさんにもよろしくお伝え下さい〜」
そう言って女は空気に溶けるように消える。
「ったく。また面倒ごとが始まりそうだな」
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