1ー8 束の間の平和

エイシアとソフィーがホープソンと契約してから二日後の夜。

森の入り口に大きな影が現れる。


グルルル……


それは大きなメス熊だった。体長は二人を襲ったオス熊よりも一回り大きい。顔の先には人間達の町が広がっている。

若い女二人と男二人に嗅いだことのない何かの匂いが確かにこの町まで続ていた。

しばらく様子を見ていると、向こうで男が家の玄関を開け家族が帰りを迎えていた。見ていると胸の辺りがムカムカしてくる。


私の家族を殺しておいてなぜ奴らは笑いあっているんだ。


危険はわかっていたがもうメス熊には自分がコントロールできてはいなかった。


グァアアアアアーーーーーーーーーーー!!


全速力でその家族に向かって突っ込んでいく。気付いた男が家族を家の中に入れドアを閉めるが、貧弱な木のドアごときでこの勢いは止められない。


ドアを壊した後にはどうしてやろうか。まず、さっき見た男から殺してやろう。私の旦那にしたように。


そう思った瞬間右の脇腹に鋭い衝撃が走り、左側に吹っ飛ばされる。


ウィーーー


熊を吹っ飛ばしたのはホープソンだった。ボロボロだったときとは違い、目の部分の緑の光は点滅しておらず常に光り続け、全身から漏れる内部から発する青い光が辺りを照らす。

メス熊はホープソンから漂う匂いを嗅いで自分が追ってきた匂いだと確認するが、それとは別の匂いに気づく。それは自分の愛する旦那の匂いだと分かると全身の毛を逆立て、全力で吼える。


グァラアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーー!!!


こいつが、こいつが殺したのか!!


全身のあらん限りの力を後ろ足に溜め、オスのものとは比べ物にならない程のスピードでホープソンに突進する。

しかし、修理されたホープソンには全く効かない。突進してきた熊を受け止め、辺りに爆発音のような音が響く。ホープソンには傷付いてすらいなく、ただ足が僅かに土にめり込んでいただけだった。

ホープソンは熊の背中に腕を回し、がっちり捕まえるとバックドロップを仕掛ける。


ドーーーーン!!


地面が僅かに揺れる。

メス熊はホープソンの強烈な投げ技を頭からくらってしまったため、全身を痙攣させ頭から血を流していた。

これ以上傷つける必要はないだろう。ホープソンはそう思いメス熊を抱き森の中に入る。


くーーん


何かの生物の鳴き声がする。ホープソンが辺りを見回すとそこには小熊がポツンと座っていた。小熊の前にメス熊を静かに置いてやると小熊はメス熊の傷を舐め始める。


くーーん、くーーん


小熊が何度か鳴くとメス熊が目を覚ます。後ろにホープソンがいたので驚いて距離を置くが小熊に気付くと唸り声を止める。

しばらくホープソンと小熊をに交互に見続けると、メス熊は森の中に帰っていく。

小熊もそれに続いて帰っていくが途中でホープソンに振り向き、頭を下げる。母親を殺さないでくれてありがとう、そう思っているようだった。

熊の親子が夜闇に消えるのを確認するとホープソンも町に帰っていく。向かう先はエイシアとソフィーの家である。

家に着くとエイシアとソフィーが出迎えてくれる。


「お帰りなさい!」


ソフィーが抱きついてくる。エイシアはホープソンを心配そうに見つめていた。


「大丈夫ですか?」

「モンダイアリマセン。マスター」


そう言われ安心するエイシア。そして、気になっていることを聞く。


「熊を殺さないで追い返してくれましたか?」

「ハイ、マスター。ソチラもモンダイアリマセンデシタ」

「そうですか」

「これで町にまた平和が戻ってきたな」


ダニエルは二人の頭をグリグリと撫でる。


「お父さん、痛い」


撫でられていたソフィーがダニエルから離れる。


「おい、ちょっと待てよ。ソフィー」


後をダニエルが追うがソフィーは父から逃げ続ける。


「嫌だ。お父さん、臭い」

「え、マジで!エイシア、お父さん臭うか?」

「ちょ、ちょっと近づかないで」

「エイシアまで!」


確かにゴウイラッドには平和が戻ってきた。




三年後までは

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