1ー5 皆殺し
次の日、デイビッドとアルフレッドは昼過ぎに森へ入った。
「しかし、街の中とは段違いだな」
「ああ、変な臭いも音もしない。同じ地域とは思えないな」
街周辺の環境破壊による砂漠化が進んでいるが、この森はその真逆だった。
土が湿っており、草木は青々と成長している。動物が住んでいるのか近くから鳴き声が聞こえる。
「こんなところに道路を作ろうなんて罰当たりを考える奴もいたもんだなあ」
「それを手伝っている野郎の言葉とは思えないな」
「仕方ないだろ。仕事だ」
「そうだな」
しかし、自然があることは良いことだとは思うのだがデイビッドは大型獣駆除用の電磁ライフルを持ちながら整備されていない道無き道を進んでいるのだ。はっきり言って鬱陶しくてしょうがない。
気分を紛らわす為にデイビッドはアルフレッドに話し続ける。
「しかし、この森の全てを調査を二人で調査するって無茶がないか?」
「おい、契約書見てないのかよ?」
「誰かさんが夜寝かせてくれなかったからな」
「変な言い方すんじゃねーよ!」
・・・・・・
昨日の夜、泊まったホテルでのことだった。
アルフレッドはデイビッドを今回の件について一時間近く説教し、誓約書を書かせていた。
「うう、すいませんでした」
「分かればいいんだよ。」
デイビッドは大人気なく涙を流しながらアルフレッドに謝罪をしていた。
アルフレッドはタバコを吸いながらデイビッドの泣き顔に少し怒りすぎかと反省していた。しかし、毎度毎度このような事が続くと自分の身体がもたない。
誓約書の中身は依頼者の前で寝ない、身体的特徴を言わない事。依頼中に話に割り込まない事。そして、アルフレッドをゲイだと言いふらさない事だった。
デイビッドは今回を含めて三十回目の誓約書にサインをする。ちなみに守られたことは一度もない。
「でもなんで俺は契約の話に混ぜてくれないんだよ?俺にもサインする権利ぐらいあるだろ」
「1+1は?」
「13だろ?」
「そういうことだ」
「??」
デイビッドは首を傾げるが、気にせずアルフレッドはさらに問いかける。
「もう俺に話すことはないな」
「もうねーよ。勘弁してくれよ」
「そうだな、じゃあもう遅いし寝るか」
「おう!」
もう起こらないと分かるとデイビッド暗い顔が一変し、明るくなった。
「そういえば今付き合っているお前の彼女、元男だけど大丈夫か?」
「OK、説教のやり直しだ」
説教は深夜まで続いた。
・・・・・・
「そういえば契約書に目を通していなかったな、お前」
「お前のせいでな」
「まだ躾が足りないようだな」
「マジすいませんでした。頼むからやめてください」
睨みつけられるとデイビッドは直ぐに謝った。昨夜の二の舞にはなりたくない。
「まず、道路を作るところだけを二回往復して危険があればそれの除去をし、対処できないものがあれば報告をするってのが今回の仕事だ。この仕事を前にやっていたのが町の猟師の組合だったんだが、それが行方不明になったからそいつらを見つけたら救助するのも入っている」
「あ〜、そういうことだったのか。流石にその森の全部調べるのは無理があるからな」
「そう思っていたならやっぱりお前アホだな」
「アホって言うな!」
アルフレッドにアホ呼ばわりされたことにデイビッドは怒るが、今まで此奴といて頭の良いところを見たことがアルフレッドにはなかった。
冗談半分でアルフレッドはデイビッドに問題を出す。
「36×24は?」
「864だろ」
「なんでかけ算はできんだよ!?」
「かけ算は得意なんだよ」
「一番簡単な足し算もできないのに!?」
しばらく歩いても森、森、森。次第に、デイビッドは飽きてきたのか愚痴を言い始めた。
「これ、いつになったら向こうの国に着くんだよ?」
「片道三日ほどだ」
「えっ、そんなかかんの!聞いてねぇぞ!!」
「そういえば妙にお前の荷物が軽そうだと思ったらそういうことだったのか。まぁ、ドンマイだ」
「ふざけんな!こんなんじゃ餓え死にしちまうじゃねえかよ!そのバッグよこせ!!」
バッグを渡す、渡さないで争っていると日が傾き始め、辺りが赤く染まる。
気付けばもう野営をする準備をしなければならない時間帯になってきている。
デイビッドはアルフレッドから荷物を奪えないと感じるとオイオイと泣き始めてしまった。
「うわぁぁーーー!!アルは俺のことが嫌いなんだ〜〜!だからこんな意地悪するんだ〜〜!アルのバカ!アホ!アナル掘り名人!」
罵倒の中で一つカチンときたものがあったがとりあえず無視をしてデイビッドを泣き止ませる。
「悪かったよ。お前の分もちゃんと用意してあるから大丈夫だって」
「本当か?」
「ああ、本当だからテントを張るのを手伝って___おい、これ見てみろ」
急に真面目な顔にアルフレッドはなる。デイビッドもアルフレッドの指を指す方向に目を凝らすと動物の血らしきものが辺りに撒き散らされていた。
「動物のものなんじゃないか?森には熊が出るって言ってたし」
「いや、血の量が半端じゃない。………血が繋がっている。こっちだ」
血の行方を追うとそこには人間の腕が転がっていた。切断面が荒いのではものではなく、強い力で無理やり取られたらしい。
二人は更に血を追う。
「おいおい、今回の仕事はやばい匂いがプンプンしてきたぞ」
「そんなの人間が居なくなっている時点で気づくべきなんじゃないか?」
「いや、これどうみたって熊とかそんなしょぼい奴の仕業じゃないでしょ」
血の先には複数人の惨殺死体が広範囲にばらまかれていた。ある者の足は木の上に、ある者の頭は上唇からしたが無くなっている。身体の部位という部位がバラバラにされている為、正確な人数は分からないが十人分以上はある。町長から知らされていた人数と合致する。
「今日は急いで町に戻らないか?この装備じゃマズいだろ。スーツは持ってきたか?」
「ああ、念のためお前の分だけ持ってきた」
早く戻る為に、アルフレッドはバッグを捨て、デイビッドも電磁ライフルを捨てた。
デイビッドが電磁ライフルを捨てたのはこれでは敵わないと判断した為だ。猟師も同型の物を持っていたが殺られている。
「よし、行くぞ」
デイビッド達の後ろには赤い糸が張られていた。こういう時に備えてあらかじめある程度の位置で木に目印として巻きつけていた。
それをヒントに帰ろうとした時___木が何本も倒れる物凄い轟音が鳴り響く。
それはだんだんと近ずいてくる。
「来るぞ!」
「分かってる!!」
二人は音の方向に振り向いたがもう遅い。森から飛んできた影はアルフレッドの右腕を胴体から捥いで行った。
「う、ガァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁぁァァ!!」
「アルフレッド!!」
アルフレッドは傷口を押さえながら倒れ込むが、デイビッドに気にしている暇は無い。このままでは二人とも殺されてしまう。
右腕を持って行った影の正体をデイビッドが見ると、それはロボットだった。全身のカラーリングは鮮やかな青のカラーリングだが血まみれになっている。目の部分は緑色の光が点滅して、力自慢のような立派な体格をしている。
胸の部分にはロボットの名前だろうか。子供の落書きのようなかろうじて読める汚い字でこう書いてあった。
ホープソン
「キサマラ、コンドはナニをシにキタ?」
「は?」
ロボットが話しかけてきた。
「いや、何って森の調査に……」
「ウソをイウナ!!」
ロボットから怒気が飛ぶ。
「オマエラはオレからスベテをウバッタ!もうウバワセナイ!コンドはオマエラからスベテをウバッテヤル!!」
「いや、何言ってるかわから」
パンッ
何かの破裂音が響くとデイビッドの目の前にロボットの大きい手が迫ってくる。
「なっ!!」
その手がデイビッドの顔を掴むと、思いっきり地面に叩き落とした。
ガンッ!
「ブッ!」
デイビッドの後頭部に痺れるような鈍痛が走る。
しかし、これで終わらない。ロボットはデイビッドの首を掴み逆の手を拳にして殴り始める。
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
ロボットはデイビッドの頭が完全に潰れたのを確認してようやく殴るのを止めた。デイビッドの顔は人間とは思えないほどグチャグチャにされ、後頭部は落ちて破裂した果実の様に血飛沫が放射線状に延びている。
ロボットはデイビッドが死んだ事を確認すると何処かへ行こうとするが、
「待てよ!」
倒れていたアルフレッドがそれを防いだ。右肩の痛みを堪えながらロボットに問いかける。
「なんでこんな事をする!?お前の目的はなんだ!?」
ズンズンと音を立てながらロボットはアルフレッドに近づき、片足を上げる。
「いったい、お前はずぶしゃら!!」
上げた足でアルフレッドの頭を踏み潰すと、頭は蒸したじゃがいもの如く粉砕されてしまう。
「モウスグだよ。モウスグアイツラをコロシテアゲルカラネ。エイシア、ソフィー」
ロボットは何かをつぶやくと夜闇の何処かへ行ってしまった。
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