1ー4 救世主の正体

森で二人を見つけてから三時間後、ダニエル達がようやく街に着いた。

もう深夜だったが街の数少ない子供が行方不明ということが出回ったのかまるで昼間のように明るかった。

雨の中、心配そうにしていた街の住民他達がダニエルの姿をみて一斉に駆け寄ってきた。


「大丈夫だったかい!?」

「怪我しているのか?」

「先生だったらもう準備万端だよ!」


先生というのは街の唯一の医者のことだ。

しかし、それを聞くとダニエルの顔が渋くなった。


「先生、今日は飲んでないよな?」

「「「「「……」」」」」


先生は八十歳になっても酒とタバコを毎日欠かさずやっている。

街のみんなに聞くまでもない。この時間帯だと完全に出来上がっているはずだ。 事実、ダニエルが問いかけると全員が下を向いた。


「ふざけんじゃねーよ!俺は酔ってねーよ、馬鹿野郎が!あれ、世界が回ってるぞ?異常気象か?」


どこからか老いた男の叫び声が聞こえる。確かめるまでもない先生の声だ。毎晩このように酔っていないと言いながら外に出回り、町中に迷惑をかけている。

しかし、街ではこの男しか治療はできない。決心を固め、先生の家のドアを開ける。

そこには低身長で痩せこけてはいるが、白い髪がフサフサの白衣を着た老人が椅子に腰掛け、酒をラッパ飲みしていた。


「あの、先生?怪我人なんですが」

「あ!?今日は閉店だ、帰れ……ってソ、ソフィー!それにエイシアまでどうしたんだ!?」

「熊に襲われたらしいんですが、診てもらえませんか?」

「そういうことは先に言え、馬鹿野郎!」


二人を先生は奥にある患者用のベッドに寝かせると診断を始める。さっきの目のトロンとした酔っ払いはいなくなり、代わりにそこにいるのは怪我人の命に責任を持った医者がいた。

良かった、まだ理性はあるんだな。とダニエルは安心した。いつもなら訳のわからないことを言われ追い返されるのだが、それが無いのはそんなに今日はそんなに飲んでいないという意味を指している。

ダニエルは先生になぜこのようなことになったのかを話すとより男はより医者らしい目になった。

ある程度二人の診察を終えると先生はダニエルに話し始める。


「大丈夫だ、異常は無い。熊に襲われても抵抗しなかったのが幸運だったのかもしれない。打撲傷があるものの、骨折もしていない。しかし、ソフィーの方は頭の傷を縫う必要があるな」

「そうですか」


ダニエルと先生は揃ってため息をつく。命に別状がないとわかっただけでもある程度肩の荷が降りたような感覚があった。

先生はアルコールを綿に湿らせ、消毒をすると傷口を縫い始めた。


「しかし、よく無事だったな。猟師を総動員させたのか?」


熊に襲われてもこの程度で済んだのは奇跡に近い。普通なら腕の一本や二本なくなっていても不思議ではない。


「運良くロボットに助けられたらしいんですが、私にも状況が分からないんです」

「ロボット?」


先生はソフィーのすべての傷口を縫い終わると手を洗いながらダニエルの言葉に疑問を覚える。


「ロボットってことは向こうの国の産業用ロボットってことか?珍しいこともあるもんだな」

「森の入り口にまだいるはずですが、見ますか?」

「おう、ちょっと興味があるな」


二人の処置が終わると先生とダニエルは森に向かって歩く。


「しかし、ロボットがこの森の熊を殺せるもんかねぇ」

「俺もそれが気がかりなんですよ」


ダニエルは向こうの国に何度も行ったことはあるが森で見つけたロボットのようなものは見たことがない。


「これなんですけども」

「これは……」

「先生?」


森の入り口に着いてロボットをみた先生の顔は青ざめ、痩せこているためゾンビのような気持ちの悪いことになっている。

しかし、青ざめたかと思うと直ぐに顔は真っ赤になり、ダニエルの胸ぐらを掴んで揺らし始めた。


「これをどこで見つけた!なんでこんなものがここにあるんだ!」

「い、意味がわからないですよ。先生落ち着いてください!」


ダニエルから手を話すと先生は自分を落ち着かせるようにワザと大きい深呼吸をする。このような先生をダニエルは見たことがない。


「一体先生どうしたんですか!このロボットを知っているんですか!?」


興奮から冷めた先生は大きいため息を吐く。そして、手を覆い地面に倒れるように座り込み話し始めた。


「これは先の戦争で使われたロボット。……つまり、軍事兵器なんだよ」

「!!?」


考えもしなかった答えにダニエルはただ黙っていることしかできなかった。

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