1ー3 契約完了

「ようこそ、ゴウイラッドへ。この度はこのような遠いところにご足労頂き誠にありがとうございます」


椅子に座って軽く頭を二人に下げるこの男はゴウイラッドの市長のロバート。腹がでっぷりと出ていてズボンの上にお肉が乗っかり、口からは漏れ出る呼吸音が聞こえせっかくの上物のスーツを台無しにしている。

デイビッドとアルフレッドの二人は街に着くとまず市役所に行った。仕事を依頼してきたのはこの街の市長だったのだ。市役所の前に車を止めると役員が建物から出てきて二階に案内され市長室と掲げられている看板の部屋に通され今の状況になっている。

アルフレッドは市長の机で市長と仕事の話をしているが、デイビッドは勧められたソファーの上でふんぞり返っている。

車の中では仕事のために来ていると言いながらいざ来てみたら全て俺任せかよ。いつものことながら腹が立つ。

思わず契約書に力が入り紙を破きそうになる。


「どうされましたか。もしかしてお加減でも悪いんですかな?」

「いいえ、そうではないんですけども。……それにしてもここはかなり発展していますね。コンクリートの建物を見たのは都市部以外だとここが初めてですよ。さらにクーラーが完備されているとは思ってもみませんでした」


ロバートはそれを聞いて自慢げに話をしだす。


「ははは!そうでしょう!この辺りは化石燃料が多く取れるんですよ。十五年前に街の基盤を農業から工業に移して成功しましてね。おかげでこうして贅沢が出来るわけですよ」


ああ、それがお腹のお肉になったんですね、とアルフレッドは口が裂けても言えなかった。


「だからそんなデブなんだ」


言いやがった。


「では本題に入りましょう!!」

「そ、そうですね。あちらさんが何か言ってたような気がするんですが」

「何も言っていませんよ!市長に時間を取らせるわけにはいきませんからね!今回はどういったご用件でしょうか!!」


爆弾発言をかき消すようにアルフレッドは市長の話を仕事の戻す。後で絶対にしばく、と心に誓うアルフレッドであった。


「今回あなたたちに依頼するのは我が街の森に関する調査なんですよ」

「森ですか?」


さっきまでかなりの距離を走ってきたがこの街の周辺はどこを見渡しても砂漠が永遠と続いているようにしか見えなかったためアルフレッドはかなり驚いた。

そのことに勘付いたのか急に市長の顔色が悪くなる。


「実はですね……資源を掘り出してからというもの……環境がガラリと変わりまして……」

「なるほど。そういうことですか」


つまりは資源発掘からくる環境汚染で自然を壊したと市長は言いたいらしい。それもそうだろう。都市部でもないこのような田舎に優れた技術があるのは非常に稀だ。それを無理矢理進めているのだから水や植物が枯れたり汚染するのは当たり前である。素人考えでやっていたならば汚染も早く進む。

おそらくアルフレッドの考えは当たっている。ここに来るまでに嗅いだ街の匂いは今までで一番最悪だった。市長はバツが悪いのか滝のように汗をかき始め、それをポッケの中にあったハンカチで汗を拭う。


「で、その森の調査についてですが」


話を本題に戻すよう話の修正をかけると嬉しそうに市長がのってきた。


「そ、そうでした。実はこの街には一定方向からしか風が吹かないんです。だから昔からある森にその〜〜影響が出ないという訳でして」


汚染のことを上手くもなくはぐらかして市長の話は続く。


「その森の向こうの国と道路を作ろうと言う話がありまして。それに必要なのがあの森の中に道を通すことだったのです。それで調査していたんですが……」

「ちょっと待ってください。森に道路を引かなくても向こうの国との連絡手段があるんですよね。そこに道路を作るんじゃダメなんですか?」

「連絡手段に使っている道は酷く遠回りで利益を追求するためには森に作らなければいけないんです」


そして、道路の距離が短ければその分だけ費用がかからない。上司がケチくさいのはどこも同じだ。


「最近では都市部の発展に伴い、政府があまり資源を買わなくなってきたんです。道路の建設は我が街にとって重要な計画なんです」

「分かりました。で、調査について具体的に教えてください」

「実はですね、三日程前に森に十三人の調査隊を行かせたんですが、その全員が帰ってこないのです」

「全員ですか?」

「はい、全員です。あの森には以前凶暴な熊が少女を襲った事件がありまして、そいつらに襲われてしまったのかもしれません。なので今回の依頼は森にいる大型獣の駆除と調査隊の救出をお願いしようと思います」

「分かりました。依頼を引き受けます。調査は明日から開始しようと思うのですが構いませんか?」


契約書にサインをしながらアルフレッドはロバートに聞いた。


「大丈夫です。今日はホテルでゆっくりと体を休めせてください」

「有難うございます、では、これで……おい、行くぞ」

「いたっ!」


サインを終えたアルフレッドはデイビッドの頭を軽くこずく。おとなしいと思っていたら寝ていたようだ。さっきまで車で寝ていたのによく寝れるもんだとアルフレッドは呆れてしまう。

市長室を出ると止めてある車に向かってもときた道順を逆に進む。


「とりあえずホテルに着いたらどうする、メシか?」

ダニエルは目を輝かせるが、アルフレッドの回答は違った。

「そうだな。とりあえず……お前の躾をもう一度やり直す」

「えっ!」


アルフレッドのマジの目を見てデイビッドは逃げ出そうとするが、アルフレッドのほうが速かった。

デイビッドの襟首を掴むと腰にのっけて自由が効かないようにする。


「ごめん!ごめん!もうお前がゲイだって言いふらさないから!」

「そっちじゃない!というか、それは初耳だ!その件についてもゆっくりとホテルにきかせてもらう!!」

「イヤだーーーーー!!」


地獄のお仕置きタイムが今始まる。

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