LEDには魔神が住んでいる。

Carpe Diem

第1話 アキネイターじゃねぇんだから

 ランプ。と言ってもアウトドア用のLEDランタンみたいなハイテクなもんじゃなくて。インド人がカレーを入れてる容器みたいな形の、アラビアンテイストがたっぷりなあのアナログなランプだ。それがゴミ捨て場に落ちてたらどうする?それも自宅のアパートのすぐ裏の、ゴミ袋が破れてカラスや野良猫が集まる汚らしいゴミ捨て場にだ。

 汚れているランプを綺麗に磨いたら、魔神が出てきてお礼に願いを3つ叶えてくれる。よくある御伽噺だ。小学生だって知ってる。俺だって知ってる。ようし、知ってたら話は早いな。

 俺こと荒木甚助(あらきじんすけ)(あだ名はアラジンだ)は、その光景を見た人間の10人中9人が取ると思われる行動をバッチリとトレースしていた。つまり捨てられていたランプを部屋へ持ち帰ったのだ。

 フリーターの俺に同居人なんていない。今日はバイトも休みだし、午前8時の爽やかな朝日が4畳半の埃っぽい部屋を明るく照らしている。その中心に存在を主張するちゃぶ台の、そのまた中心。我が家唯一のステージの上に置いたランプを、俺は一人暮らしで使い込んだ雑巾でせっせと磨いていた。

 わかる。馬鹿げてるって言いたいんだろ?そんなの俺だってわかってるんだ。だが新卒で就職を逃し、フリーターとしてボロアパートとバイト先のコンビニを往復する毎日の、趣味も展望も将来も無い俺には、それが御伽噺だとしても縋らずには居られない魅力を持つサクセスストーリーに見えたんだ。そう、この時は。


 突然ランプが光る。LEDの工業的な白い光じゃない。ゲームの画面で見るような、ファンタジー感たっぷりの青くて柔らかい光だった。光は段々ともやのような質感に変わり、ゆっくりと部屋を満たしていく。もやはいつの間にか煙となっていて、ランプの口からもくもくと吐き出されていた。

 瞬間。

「ぉぉぉおおおおううわっはっはっはっはっはっはあっ!!!!!」

 豪快な叫び声と共に、煙の中から魔神が現れた。満面の笑みで、テンプレ通りのアラビアンな格好で、上半身は裸で、筋肉ムキムキで、浅黒い肌に豊かな白い髭をたくわえて、ピンク色の乳首が見えていた。

 驚いて尻餅をついた俺の目の前にずいっと身を乗り出し、魔神は言った。

「ワシのランプを磨いてくれたのはお主か?」

 来た。テンプレ通り。

「は、はい!俺です!俺がランプを磨きました!荒木甚助って言います!通称アラジンです!アラジンって呼んでください!」

 何言ってんだ俺。だが自己紹介としては及第点だ。伝えるべき重要なことはちゃんと伝えられた。

「そうか。お主がランプを磨いてくれたのだな。では、願いを…」

「願い!願いを…?」


 でもな。人生ってのはテンプレ通りには行かないもんさ。新卒で就職を逃した俺は、そんなことわかってたはずだったんだがなぁ。


「ワシの願いを3つ叶えてくれ」

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