第3話

 大学四年のとき、私は賞を取った。本当に嬉しかった。自分にはイラストレーターになれる才能があるのだと思った。

 「やあ、君の絵すごく良かったよ。今度私の会社のために絵を描いてはくれないか?」イラスト会社の社長さんは私に賞が授与されたあと、そのように言ってきた。

 「はい!喜んでかかせていただきます!」私はこれで、描くことによって生きていくことができるのだと確信した。

 この仕事の依頼があったとき、私は就職活動をしていて、内定をもらっていたがそれは取り消した。私は一生絵で食っていくのだと決心したからだ。

 私はその社長に従って、大学四年から卒業後二年までいくつもの作品を提供した。社長は喜んで受け取っていた。私も自分の才能が買われているようで、とても嬉しかった。

 しかし、私は疑問に思うことが一つあった。それは余りにも私の給料が低いことだ。バイトの給料と大して変わらない額だったのである。けれども私は今の仕事が楽しかったため、社長にそのことは言及しなかった。とにかくその時は楽しかったのだ。

 しかし、卒業して一年後、会社は倒産した。どうやら私が会社に勤めてた頃からかなり厳しい状況だったらしい。そもそもこの会社は大きな会社ではないことは知っていたが、そこまでのものだとは思っていなかった。私は社長に詰め寄ることはしなかった。ただ私がうぬぼれていたことが問題だったと思った。ここで働いていたとき、もう生活は安定すると勝手に考えていた。それが間違いだったのである。

 私は作品をいくつか持って多くの会社にイラストレーターとして自己アピールした。しかし私を雇ってくれるところはひとつとしてなかった。私はまだ自分の才能を信じていたので、一人で自営業を営むことにした。露店を構え、絵を売った。たまに買ってくれる人はいたが、そこで得られる収入は雀の涙であったため、私はバイトを兼業するほかなかった。また、営業のための資金が必要だったため、私は借金を背負った。そこで一年間は頑張ってイラストレーターとして生計を立てた。しかし、あるお客さんにこう言われたことがきっかけで、私は諦めが付いたのだ。

 「うまいけど、ただ上手いだけだな。こんな商品を出してメシが食えるなんてあんたも運がいいね。」

 私は不思議と怒りを覚えなかった。ただその言葉は私の心に強烈に響いて、なんども心の中で反芻した。そして、私は徐々に事実を明らかにした。

 まず一つ、私には絵を描く才能がないということ。二つ、私は別に運がいいわけではないということ。

 本当に才能があれば、私の作品を見た誰かが私を雇うなり、作品を買ってくれたりするだろう。けれども、実際にいくつかの企業に私の作品を見せたが、見向きもされなかったのをよく覚えている。

 露店で出していた作品もほとんど売れ残り、作品と借金だけが蓄積されていった。

 少しでもイラストレーターとして生きてこれただけでも、私は運が良かったと言えるのかもしれない。けれどもそれは違う。結局私は何も得てないのである。そもそもとして、私は本当に運がよかったのなら絵を描く才能も持ち合わせていたし、イラストレーターになることも出来たんじゃないだろうか?

もちろん運が悪いということは私にはないと思う。なぜなら最終的には悔いのない人生がおくれたのだから。しかし運が良くはなかっただろう。

 私は何の才能が最も優れているのか理解した。

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