おばあちゃんとの約束
量産型ピロ式
おばあちゃんとの約束
小さい時、一度だけ見る事が出来た光景がある。
それは小さい時に一緒に住んでいたおばあちゃんと見た光景。
まだ、僕は小学一年生で、甘えたい盛りだった。
その頃はまだ寒い地方に住んでいたおばあちゃんがなんでこっちに来たのかなんて理由も考えなかった。
なんで、おばあちゃんが自分達と一緒に居たかったのか、どうして、思い出作りの様な事をしていたのか。
そんな事を考えなかった子供だった僕は、おばあちゃんと遊ぶのが大好きで、いっぱい我が儘を言って。
でもおばあちゃんは笑いながらそれを叶えてくれて、おばあちゃんが笑ってくれるのが嬉しくて、もっとたくさんわがままを言った。
でも、おばあちゃんがある時から咳き込むようになって、それからしばらくして布団で寝ている時間が多くなっていって。
おばあちゃんと遊べなくなっても僕は毎日毎日、自分がその日体験した出来事やおばあちゃんの思い出話をたくさん喋ったり、せがんだ。
子供ながらに分かっていたんだと思う。
おばあちゃんがもう自分とは遊べない事を。
ある時、僕はおばあちゃんに雪の話を聞いた。
おばあちゃんの居た所だとそれはもう雨の様に降るらしい。
だけど、僕が住んでいる所じゃあそんなに沢山降ったのを見た事が無い。
だから僕はわがままを言った。
多分、これで最後になると思ったんだろう、おばあちゃんはそのわがままを聞いてくれた。
僕が言ったわがまま。
「それは、おばあちゃんと一緒に雪景色を見たい」
するとおばあちゃんは笑いながら
「わかった。約束だよ」と、指きりしながら言った。
季節はもう、春になりかけていた。
そしておばあちゃんがある日、真夜中に僕を起こしに来た。
「約束を守りに来たよ」
僕は窓の外を見て、雪は降っていない事に気づいて、訳がわからなくて。
するとおばあちゃんが「窓の外じゃなくて、ある場所で見れるんだよ」と、僕を外に連れ出した。
僕は外が真っ暗で怖かったけど、おばあちゃんが僕の手を握ってくれて、僕もおばあちゃんを支えて。
そうすると怖くなくなって、そうやって、おばあちゃんが連れて行ってくれた場所は高台にある公園で。
するとおばあちゃんが僕の目を塞いで「ちょっとだけ我慢だよ。今に見えるから」って言ってゆっくり歩き出した。
そして、「もう大丈夫」と言われて、見た景色は。
桜の木が一面に生えていて、散る花びらがまるで雪みたいで、月の光に照らされて、とても言葉に出来なくて。
気付くと泣いていて。おばあちゃんの手を握りながら「ありがとう、ありがとう」と。言いながら泣いていて。
おばあちゃんも泣いていて、
「おばあちゃんはどうして泣いてるの?」
と聞いたらおばあちゃんは
「涙が出るほど嬉しいのさ。この景色を見て泣いてくれる『○○』が」
なんで嬉しいの?
「嬉しそうな『○○』を見れたからさ」
僕は、ただおばあちゃんと雪景色が見れたらいいと思っていた。
でも、おばあちゃんは僕をもっと喜ばせたいから、頑張って考えて、この景色を見せてくれた。
そして、僕は『今の僕』が生まれた言葉をおばあちゃんから聞いた。
「ただ喜ばせるだけだったら、誰にでも出来る。でも、感動させる事は難しい。でも」
でも?
「感動させる事が出来たら、もっと『○○』は優しくなれる。もっとみんなを喜ばせたくなる。だから、」
だから?
「自分を否定せず、受け入れなさい。そうすればもっとみんなを幸せに出来るから。わかった?」
わかった!おばあちゃんみたいにいい人になる!
するとおばあちゃんは僕の頭を手を握ってない方で優しくなでて、最後にこう言った。
「でも、自分を見失うんじゃないよ。自分がわかっているから、心から笑えるんだから」
月明かりの下で見た、おばあちゃんの顔は笑顔だった。
そしてそれから数年後、おばあちゃんは亡くなった。
笑いながら眠る様に息を引き取って行った。
でも、僕はおばあちゃんが居なくなっても、傍に居るような気がして、不思議な気持ちだった。
それは、おばあちゃんから教わった事が沢山あるからだと思う。
それに、おばあちゃんが最後に僕に言った事は、
「私のお前に言う最初で最後のわがままは、お前が笑っている事だよ」
僕が笑っている事が、おばあちゃんのわがままだから、僕はいっぱい笑おう。
僕が笑えばおばあちゃんも笑って、それが嬉しいから僕は誰かに対して嬉しいことをしよう。
そして、いつの日か、またちゃんとおばあちゃんにありがとう、って言おう。
それと、おばあちゃんのわがままについて笑いながらこう言おう。
「そんな事言われなくてもいっぱい笑っているよ」って。
おばあちゃんとの約束 量産型ピロ式 @hibiki634
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