第四章(2)
「あれ、もしかして外しちゃった?」
「もしかしなくてもそうッスよ。そもそも、それを実行しなきゃならないんッスからね。百白を実行しろだなんて、意味わかんねぇッスから」
「あんたに言われたくないわよ、バカ」
「バカって言ったほうがバカッスよ。バーカ、バーカ」
「四谷、よせ。それどころじゃねぇだろ!」
明らかに苛立って海藤くんは怒鳴る。
「さっきから、海藤くんは様子がおかしいよね?」
「おかしくないよ」
「もしかしてササガワリョウコと何か関係があるの?」
ドストレートに僕は聞いてみる。
「……ッ。何もねぇよ。何も」
「そ、それよりも早く謎を解こうッス」
雰囲気の悪さをごまかすように四谷くんが言うが、誰も喋ろうとしなかった。
しばらく居心地の悪い雰囲気が続く。
「あのさ……もしかしたら、もしかしたらなんだけど……」
おそるおそる、三国くんが言う。
「この答え、じは……」
途端に海藤くんが掴みかかった。
「それ以上言うんじゃねぇよ。そんなわけねぇだろ
?」
「でも、100と99で考えて、99が白だとして……そういう風に百を分解とかくっつけて感じになるのって考えたら、自しか考えられなくて……」
「自白……ってこと?」
本田さんが三国さんが言わんとしてしていた言葉を引き継いで言う。
「……ッ!」
海藤くんは本田さんをにらみつける。
「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……」
弁明しようとした瞬間、鳴り響くピンポンという正解音。
「どういうことだ?」
「答えが合ってた、ってことだと思うよ。もしかしたら音声認識していたのかもしれないね」
「でも扉が開かねぇじゃねぇかよ!」
僕の想像に海藤くんが怒鳴り散らしてくる。
扉は開かず、8個のランプが点灯していた。
「……まだ、実行してないから」
三国くんが震えるように言う。
「やっぱり自白しないとダメなんだよ」
「うるせぇ」
海藤くんが三国くんを叩こうとする手を僕は止める。
「僕はササガワリョウコの自殺について、詳しく知らない」
「だから教えろ、とでもいうのかよ?」
「ということは何か知ってるってことだよね?」
「てめぇ、もしかしてハメやがったな」
「いやむしろキミが口を滑らせただけだよ。けど……」
「けど、なんだよ」
「教えろ、なんて言わない。自白するけど僕はササガワリョウコの自殺に際して何もできなかった。いやしなかった。彼女が自殺するなんて思いもしなかったし、何で苦しんでいるのかわかりもしなかった。いつの間にか彼女は自殺していた。自殺の現場に立ち会っていれば止めれたかもしれないのに」
「それを悔やんでいるの?」
本田さんが問いかける。
「そう、だね。僕はいつも話題の中心から置いてけぼりだった。みんなが噂していることだってまったく把握してなかった。だから自殺したと聞いたときは愕然とした。いつ死んだからなんて知りもしなかった」
「そんなの。私もだよ、私だって」
沈黙。誰もが押し黙って、静けさが辺りを包む。
ガゴン、ガゴン。
そんなときだ、何かが動いたような気がした。
「見て。ランプが……さっき8個ついていたのに、2個消えてる……」
「本当だ……どうして……!?」
「自白……? 僕と本田さんは自白したから」
「じゃあ、おれたちも自白すれば、扉は開くッスか」
「やめろ。ササガワリョウコは自殺した。ただそれだけだろう」
けれどランプは消えることはなかった。
「嘘、みたいだね」
僕はふと言葉を漏らす。
「ふざけるなよ。どうやって、嘘か本当かなんて分かる?」
「もしかしたら、誰かがここを見ているのかもしれない。自白という言葉を認識したのも、そいつがこの部屋を見ていたからかも」
「なんだ、それ。なんだ、それは!」
「佐久間零次……きっと、あいつだよ……あいつだ……」
「そんな……それこそ有り得ないッスよ。だってあいつは……死んだって」
「佐久間くんは死んでないよ」
本田さんがひっそりとつぶやく。
「佐久間くんは行方不明になって、それで死亡届が出されただけだよ」
「……じゃあ生きてる可能性もあるッスか?」
「それだと、その可能性もあるよ」
「そんな……」
今まで黙りこくって、身体を震わせていた東尾さんが地面にへたり込む。
「あたしのせいだ……あたしが……あたしが……」
「やめろっ! お前は関係ないだろっ!」
東尾さんの自白を止めるように海藤くんが吼える。
「言わなきゃここから出られないじゃないっ!」
東尾さんが絶叫する。
「あたしが、リョウコを殺したようなものよ」
「……っ!」
憎らしげに海藤くんが睨みつける。
「あたしは零次が好きだった。けどリョウコに取られて、だから憎くてハジメに頼んだ。でも頼まなかったらリョウコは死ななかった」
ハジメ――”一”というのは海藤くんの下の名前だった。
「これで、これでいいんでしょ……解放して、解放してよぉ」
東尾さんが自白すると点灯していたランプがひとつ減る。
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