第四章(1)

 次に訪れたのは黒い部屋だった。

 全員が立ち止まり、黒い看板に白く彫られた文字に注目していた。

『77=喜 88=米 99=白 199=□□

 199に当てはまる言葉を実行せよ』

 そう書かれた看板が扉の上に飾られていた。

「いい加減にしやがれ……今度は何なんだ!? とっととおれ達を出しやがれっ!」

「確かにこれで四問目。私たちに何をさせたいの? 意味わかんないんだけど」

「やっぱりアイツが……でなきゃ……さっきの問題の答えが……」

「てめぇは黙ってろ」

「……とりあえず、謎を解こう。それで何かわかるかもしれない」

 僕がそう言った途端、

 ギィィイイイ、バタン! と大きな音が鳴り響く。

 僕たちが振り返ると、後ろの扉が閉まっていた。

「開かないっ! 閉じ込められたっ!」

 三国くんが泣きそうになりながら、そう答える。

「でも、今更閉じ込めて……どうする気ッスか?」

「知るかよ。ここに連れてきたヤツラの思惑なんてよ」

「……閉じ込める意味はあると思うよ」

「どういうことだよ?」

「さっきの部屋は設備が整ってた。それこそ、何日かは住めそうなぐらい、ね。でもここは何もない」

「つまり、絶対に解かなきゃならねぇって言いたいのか?」

「もしかしたら、ここからが……本番なのかもしれないよ?」

「本番だと……? だとしたら今までのが、あの水浸しになったのも練習っていうのかよ」

 海藤くんが僕の胸倉を掴む。

「僕の推測でしかないよ。でも、水浸しにしたわりに、あの暗号を作ったやつは、次の部屋に着替えやシャワーを用意していた。……暗号を作ったやつが何を考えていたか知らないけど、僕たちを追い詰めるつもりなら、もっとひどいことをしないか?」

「何が言いたいんだよ、さっきから」

「……僕だったら、水浸しにしたあと、温度が極端に低い部屋とかに案内するよ」

「……それ想像しただけでイヤだよ」

「でしょ。だから練習じゃないかって思ったんだ。もっとも本番に近い練習だけどね」

「なるほど。面白い考えだが……確かに一理ある」

「じゃあここが本番だとして、だとしたら悠長に話してていいの? 何か起こるんじゃ……」

 東尾さんが怖気づいたように言うが、僕には何かが起こるような気はしなかった。

「どうなんだろうね」

 だから余裕を持って、そんなことを答える。

「妙に落ち着いてるな……」

 八島さんが何を思ったのか、そう尋ねてくる。

「気のせいですよ、刑事さん」

 僕はあしらうように答えて

「むしろ僕にはみんながそわそわしているように見えるんですが……」

「……気のせいだよ、それこそ」

 早口で八島さんが答える。

「そ、それより早く謎を解くべきッスよ」

 話題を変えるべく、四谷が進言し、

「そうだな。謎を解こう」

 北島さんがそう答える。いつになく積極的のように見える。

「それはいいけど、今回ばかりは問題が間違ってるように見えるよ」

 三国くんの言葉で、全員が再び問題に注視する。

『77=喜 88=米 99=白 199=□□

 199に当てはまる言葉を実行せよ』

「どういうことよ?」

「だってこれって、喜寿とか米寿のことを指してると思うんだ。けど199って……」

「だからこその問題じゃないのか……?」

 僕が指摘すると

「あっ……、それもそうか……」

 三国くんが落胆する。

「さっきから喜寿とか米寿とか、なんなの?」

 東尾さんがそう尋ねる。

「数えでその年になったお祝いってとこだな」

 八島さんがそう答えるが海藤くんはそれぐらい知っておけと言わんばかりの顔をしていた。明らかに不機嫌になりつつある。

 言葉数が少なくなって、罵声が少なくなったのは少しありがたいけれど。

「詳しくは省くけど、七十七って文字が変形して喜、八十八が変形して米になるってわけだよ」

「へぇ。よくわかんないけど、なんかすごいね。じゃあ九十九はなんで白?」

「百に一つ足りてないから百から一を引いてってことだよ」

「あー、それはわかる気がする。でもそれだったらあたし、謎が解けたような気がするよ」

 全員が驚く。こんなにも一瞬に謎が解けるとは思えないのだけど、というのは東尾さんをコケにしすぎか。学力と頭の柔らかさは別物だ。

「答えは百白じゃない?」

 一瞬、間があった。いや、その答えに間が作られた。

 呆気に取られたともいうのかもしれない。

「百白――ひゃくしろ」なんて言葉を初めて聞いた。

 そして、案の定何も起こらなかった。

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