第三章(2)

「ヒントがなさすぎッスよ……」

「……たぶん、五十音と数字に何か関係があるとは思うんだけど」

「ああ、それは簡単に推測できる」

 僕の言葉に八島さんが同意する。

「どういうことなの? 私にはさっぱり」

「簡単な推測だ。パネルに打てるのは五十音のみ。そして扉に書かれた暗号は数字のみ。となれば数字を解読すると五十音になるってことだろう?」

「すごい、ねぇ。四谷、気づいてた?」

「いや、そのぐらいは気づくッスよ。問題はどう繋がるか、ってことッスよね、二江っち?」

「そうだね。まだくまなく調べてないからわからないけど、あまりにもヒントがなさすぎるよ」

「まずは部屋の捜索と行くか?」

「それがいいかもしれませんね」

「俺は反対だ。何が見つかるって言うんだよ?」

「何が見つかるかは探してみなければわからない」

「捜査の基本だとでも言うのかよ?」

「そうだ」

「ちっ。俺たちは刑事じゃねぇーんだよ」

「だろうな。わかった。なら、探したくない奴は探さなくていい。でも暗号とにらめっこして何か気づいたなら教えてくれ」

 海藤くんは返事をしなかった。

 八島さんが立ち上がるとともに僕も立ち上がる。

 三国くんが立ち上がろうとして、

「おい!」

 海藤くんににらみつけられて萎縮し、座り込む。

「俺も手伝おう」

 北島さんが立ち上がり、

「七瀬はどうする?」

「私、足痛いし座っとく」

「そうか。それなら座ってろ」

 僕たちは三人で調査を開始する。

 けれど目ぼしいものはなかった。

「手がかりなし、か」

「ねぇ……」

北島さんがつぶやいたときだった、三国くんがか細い声を出す。

「参考になるかどうかわからないけど……この暗号のさ、偶数って母音を表わしてるんじゃないかな?」

 その言葉に反応して僕以外の全員が暗号に釘付けになる。

 ちなみに偶数にだけ着目すると『 1 1 1 4 1 2 0 5 0 3 5』になる。

「ちょっと待って」と僕が言うよりも先に、

「そうかもしれねぇ」

 海藤くんが大きな声で同意する。

「ってかこれもしかしてケータイで打つとかじゃない?」

「おい、三国。お前、スマホじゃなくてまだケータイだろ? 試しに打ってみろ」

「ごめん、ケータイ持ってないよ。というか今まで気づいていなかったの? 僕たちここに連れてこられたときにケータイとかスマホ取られてるよ」

「……そういや、そうだ」

 緊張につぐ緊張で、そんなことすら海藤くんは忘れていた。

 いや持っているのが当たり前だったから持っていると思い込んでいたのかもしれない。

「試さなくても、たぶん違うよ」

 だから僕は偶数の数字が母音かもしれないと推測したけれど、すぐに違うと判断して誰にも言わなかった。

 ぬか喜びにしかならないからだ。

「どういうことだ?」

「母音っていうのは『あいうえお』の五文字だろ。でも見てみてよ、暗号の偶数……三国くんが母音かもと思った数字は『0~5』の六個あるよ」

「じゃあ、ケータイの押す順とかだったりしないのかな? 濁音とか半濁音とかあるやつは……5回押したときも表示される」

「確かにそうッスよ。その可能性はあるッスよ」

「5回押したときに表示されるのはあ行なら『お』だしか行なら『こ』だよ。そもそもケータイは1を1回押さないと『あ』は表示されないよね? 0がある時点で押した回数っていうのはありえないと思うよ」

「あ……」

「そういえばそうッスね」

「ダメじゃねぇか……」

 落胆する三国くんに対して、海藤くんは悪態をつく。

「そういうキミは何かわかったことないの?」

 少し腹が立って問いただす。

「ねぇよ」

 気に食わないように海藤くんは吐き捨てる。

「……とにかく、他の法則か何かを見つけよう。三国くんの言ったことは気づきのヒントになるかもしれない」

「なあ、刑事さん」

「どうした?」

 北島さんの問いかけに八島さんは反応する。

「壊れているし関係ないと思っていたが、これが何かヒントにならないか?」

「なに、それぇ……」

「なんか屋台とかに売ってるパチモンの機械に似てるッス」

「ハハハ、パチモンの機械か……そうかお前らの世代はポケベルなんて見たこともないか」

 八島さんは昔を懐かしむようにポケベルを手に取って、じっと眺める。

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