第三章(1)
「やっと来たわね」
通路から抜けると今度も白い部屋に出た。
しかも驚くべきことに東尾さんはジャージに着替えており、濡れた髪からは湯気が立っていた。
「どうしたの、それ」
「それがさ、ビックリなんだけど、シャワーと着替えがあったのよ」
「え、それって怪しくないの?」
「ないない。だって私がこうやって着てるっしょ。どこが怪しいんだっつーの」
東尾さんの言い分はわけがわからない。東尾さんが着ているから安全という保証はどこにもないと言うのに。
「で今、海藤くんがシャワー浴びてる。次は本田さんが入ればいいと思うよ」
「……でも、三国くんが」
「いいよ、本田さん。先に入って」
「残り香を嗅ぐ気ッスね、三国っち」
「そ、そんなことはしないよ」
「……わかった。けど本当に先でいいの?」
「いいよ。それに先に入れって言いそうだし」
「なら、お言葉に甘えて」
「……なんだかゆっくりとしすぎじゃないですか?」
八島さんや北島さんは、部屋にあったソファーに座って、パンを食べていた。
「うまいぞ、少年。色々揃っている」
「いや、だからゆっくり……」
「いいじゃないッスか、二江っち」
「でも、ここがどこだかわかってないし、そもそも僕たちはここから出ようとしていたんじゃあ……」
「腹が減っては戦はできぬって言うだろ。風邪を引かせないためにも、ずぶ濡れになったやつらを着替えさせてやれよ。それまで休憩といこう」
「確かに。濡れたままというのはイヤだと思います。わかりました、今は八島さんの意を汲みましょう」
僕はそう言って、ソファーに座る。
パンは食べる気になれなかった。
僕たちはここに連れてこられた。何が目的かわからないが、誘拐したやつの施しなんて受けない。
「おお、ようやく来たのか。おせぇよ、五月。ほら、さっさとシャワー浴びろ」
海藤くんがジャージ姿で部屋に現れ、本田さんにシャワーを浴びるように促す。三国くんの予想したとおりだった。
海藤くんにばれないように三国くんは肩を竦める。
数分後、本田さんがシャワーを浴び終わると、
「急げよ、ぐずぐずすんな」
三国くんは急かされたせいか、ウルトラマンの地球上での活動時間よりも早くシャワー室から出てきた。
「おせぇよ、ちゃっちゃとしろ」
パンを食べながら、海藤くんは文句を撒き散らす。理不尽にもほどがあるが三国くんは愛想笑いをして、僕たちに近づく。
「さて、休憩は終わりだ。もうだいたい気づいていると思うが、また暗号の書かれた扉が俺たちを邪魔してる」
八島さんがそう説明する。
『3131210401928085801325』
扉にはそう書かれていた。
扉の横にあるパネルは、先ほどの部屋よりも大きくて、今度は数字ではなく五十音が打てるようになっている。
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