幕間・1「始動」

「本当に一億円、手に入るじゃろうな?」

 ワシは尋ねる。目の前の、黒ずくめの男に。

 いや、ほっそりとした体つきのためか、男とも女とも判別がつかない。

 ふんわりとした髪と深くかぶったフードに顔は隠され、性別の判断はつかなかった。

「ああ。正確には前金一千万。成功報酬九千万円だ……」

 ヘリウムガスで変えたような声色で、ヤツは言った。

 そうして、何から紙を渡してくる。

「もう一度言うが、このリストに書かれている男女八人を誘拐して欲しい。この八人がいる場所も、誘拐して監禁する場所も書いてある」

 ワシはリストの紙に目を落とす。

 監禁する場所はワシも見知った場所じゃった。

「地元に住んでいるあんたなら知っているかもしれないな。監禁場所は大山の別荘だ。以前、首切りゲームをやった場所らしい……外装は変えてないが、内装は変えてある」

 金持ちの道楽に使われた忌々しいペンションの外観が、紙には描かれていた。

「そうそう、言い忘れたが、二江夕樹だけは最後に誘拐しろ。あいつは少々厄介だからな」

「どう厄介なのか、尋ねたところで答えんのじゃろうな」

 それを含めて依頼しておるんじゃからな。

 ヤツは肯定するように無言を貫く。

「委細了承した。この十島重造。老体に鞭打って、依頼を遂行してみせよう」

 ヤツの無言を受けてそう答えると、

「では約束の前金だ」

 そう言ってヤツは一千万の入ったバッグを手渡して、去ろうとする。

「待つのじゃ」

 ワシはヤツを呼び止める。

「なんだ、まだボクに用があるのか?」

「名はなんと言う?」

「……佐久間、零次」

「そうか」ワシは笑顔を見せこう答える。「ならば期待しておれ」

 佐久間零次の姿はいずこへ消えていた。

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