第8話

四月十五日


 本日は朝から気温がぐんぐんとと上昇し、やっと本格的な春の訪れを感じさせる温度になりました。今年は百年に一度と言われている寒さなので例年なら咲き始めている桜も未だ咲き乱れてはいません。ですが朝寝ぼけ眼で歯を磨いて居たら裏手にある梅さん宅の桜が蕾を開花させていました。今年は桃梅桜が一斉に咲いている姿を見られそうです。

朝からプチラッキーです。何か良い事あるかもね。

本日は花の金曜日です。町に繰り出して飲み会が所狭しと繰り広げられていると思われます。神保町は会社や大学が多く、歓迎会やコンパが至る所で催されていると考えられます。僕達三太さんの下僕家族は基本休みが少ないです。しゃかりきになりキリキリ舞いで働いています。それもこれも一日に三度の食事が食べたいからです。あまねくば午後のお八つに贅沢な食事も摂り娯楽にうつつを抜かしたいからです。それもこれも三太さんが働くって概念を放棄しているからです。やっぱり子供のまま大人に成っては駄目なのですね僕達がしっかり働き稼いで三太さんを養わせ太らせナイト。

僕の横で卵かけ御飯を掻き込みウマウマ言っている三太さん。何が馬なのか僕にはとんと理解できません。朝から上機嫌なのは珍しいので皆がいぶかしんでいましたが兎に角主の機嫌が良いと皆も明るくなります。特に父さんと炊事担当のブリッツエン兄さんと母さんはつられてつい笑顔があふれます。殿朝から本日は上機嫌ですなぁ。三太のとっつあんもう一膳どうだい? そうねその調子なら食べられるのではないザースの三太さん。ん、ならば食そうかのお。とおかわりしペロリと平らげました。

普段なら茶碗半膳しか食さない三太さんがおかわりを所望するなど珍しいです。何か裏があるのでしょうか? 妖怪の天井舐めが愕き僕の袂をくいくいと引っ張ってきます。僕は心配ないよ気温がいい塩梅だから食欲がでたんだよと教えてあげます。三太さんの悪巧みの被害にあうとでも思っていたんでしょうか、ほっとした安堵の嘆息を吐き出しています。心配ないはずだよう……

ですがやっぱり三太さんは善からぬ行いを企んでいたみたいです。朝から神田川に出掛け気温が上昇し冬眠から覚めうろつき始めた蛇アオダイショウを探し出していたのです。

どうやら昨晩から仕返しを考えて虎視眈々揚々と得物を待ち構えていたのです。

朝の通勤時間帯に突如静寂を切り裂かんばかりの脆弱な悲鳴が上がりました。通り魔かと思い慌てて外に出てみると江戸前四天王の子供達を相手に三太さんは蛇でマフラーをしてあげたのでした。どうじゃい一昨晩の恨みを晴らしてみせる。と意気込み逃げる子供相手に嗾け鬼気差し迫る勢いで追いかけ蛇マフラーのプレゼントに首絞めのサプライズ。なんと姑息な聖人なのですかね。ヴィクセン姉さんは低血圧なので毎朝ご機嫌が麗しくないのですが本日は高笑いして上から眺めながら三太さんを煽っています。ドゥンダー兄さんは蛇が大の苦手なので姿をくらましました。

慌てたのは母さんとプランサー兄さんにブリッツエン兄さんと僕です。

三太のとっつあんそんなえげつないことすんなやあ。ブリッツエンの言うとおりだ、社長後でPTAのモンスターペアレントに言われて問題視される。そうザマス早く取り押さえて軟禁しましょう。わらわらと取り押さえられ逆に蛇縄で縛られて、ひぃひぃ悲鳴をあげて拒否反応を示しますが自業自得ですよ三太さん。

――子供に蛇皮はまだ早いよう。

蛇で縛られたことにより暫く放心状態になりしょぼくれる三太さん。学校帰りに祭子ちゃんが寄ってくれて将棋の相手をしてくれたのでご機嫌が回復したみたいです。

ふんあの小娘がこっそりと負けてくれおったわ、大方学校で江戸前四天王から話しのあらましを聞いて気を利かした心算なんじゃろうのぉ、マッタクけしからん。三太さんはポロポロと大粒の涙をこぼしながら皮肉ってます。だったら最初からそんなことしなければと思いましたがそれは口に出しません。悠久の長い月日を独り孤独に生きる三太さんは友人が少ないのです。仲良くなると片っ端から老いて死んで逝くのでス、あれが三太さんなりの精一杯の付き合いなのですから。でも気落ちしないでね三太さん僕らが居るのですから。僕らはいつも傍らに居ますからね

さて次はどんな悪戯をすべきかのぉ。

とさらりと言って老舗喫茶芭婆バーバーにお茶飲みに行きます。

――やっぱり主を考え直すときかもしれません。訂正します。

――コメット

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