第7話

四月二十五日


 春眠暁を見ずとは言うが、我は朝日よりも先に活動を開始する。


 平時と変わらず我は、屋上にある十畳のプレハブ小屋で目を覚ました。


 この元は物置プレ小屋ハブ現在も進行形だが、出入り口の近辺三畳ほどは、ごちゃごちゃとした棚や、ダンボールに、怪しげな機械類が乱雑に置かれて、足の踏み場もないが、紛れもなくこの場所こそ我の住居で、神聖で不可神域な聖域である。

 まあ、実際は埃が舞う空間だ。


 誰も片付けてくれないので、我はせっせと箱を整理する。

 其のためか、徐々に荷物が置かれて増えていく。


 何故?


 此処は我の部屋では?


 謎である。然し犯人の目星は付けている。

 我の目は節穴ではない。


 何れとっちめてやらねばなるまい。


 ところで我が何で、物置小屋に住んでいるのかと申せば、つまりは大所帯の家族に、我の居場所を奪われたのだ。

 温情で冷暖房だけは完備しているので、満足しておこう。


 それに雑多で、ごちゃごちゃした狭小空間こそ、我の性に合致する。


 落ち着くではないか、この小汚い空間!


 とまぁ、叫びながら思わず、しみじみと室内を見回してみたが、やはり落ち着く。


 北は混雑した出入り口。

 西は猥褻物が、ぎっちりと詰め込まれた本棚。


 東はまだ仲が良かったころ、我の故郷で妹と一緒に撮った、思い出の写真が飾ってある、書斎机。

 南は窓。中央は万年寝床。


 そして天井はない。


 先日の春一番で、見事に吹き飛ばされてしまった。


 天井という概念が存在するのなら、この荒唐無稽な空こそが天井なり。


 星辰の揺り篭で、星空の褥なり。


 我は贅沢者である。


 だがそのお蔭で、ぴゅうぴゅう。とした空っ風が、縦横無尽に吹き暴れ、荒れて寒いこと寒いこと。

 春の暖かな宵とは申せ、この老体には少々キツイ。


 暖房使用しても、開け放たれた天井から、風が瞬く間に逃げていく。


 我は毎夜かぐやを胸元に抱きかかえて、毛布を被り、ぷるぷると震えながら、眠りにつき、関節痛の痛みを増すばかりだ。

 早く天井が欲しい。


 だが都会で眺める星空も悪くは無い。


 この星空の下で世界が繋がっているとは不思議だ。

 少々ホームシックにかかったようだな、早く寝よう。


 ――めるへぇんチックな翁より

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