21~30
#21
画家は、履き古した革靴ばかり描いていた。画家にとって、すり減った踵の曲線はどんな陶器よりも美しく、磨耗した革の照りはどんな宝石よりも輝いて見えた。ある時、画家は恋をした。「君は履き潰した革靴のようだ」
#22
難しいパスに嗅覚で反応。ボールが左足に吸い付く。そのまま身体の角度だけでディフェンスをかわすと左足を振り抜いた。ゴールの右角に突き刺さる。素晴らしい夢を見て彼は泣いた。彼の左足は事故で二度と動かない。
#23
『乗っ取りました』主人からだった。主人は仕事中にLineをしない。 流行りのやつかと思ったが以降なにもないので気にせず夕飯の支度をする。いつも通り帰宅する主人の横に別の女。怪訝そうに私に「あんた誰?」
#24
妻の遺品を整理していると携帯ラジオが出てきた。もう50年以上経つ。二人でよく持って出掛けた。動くはずのない電源を入れる。あの頃の曲が鮮明に流れ出す。人は時間には逆らえないが、タイムマシンを持っている。
#25
「号泣会見最中、日帰り温泉饅頭、領収書煎餅」「売れるでー」「止めといた方がええんちゃいます?」「観光地の土産なんてどれも同じや同じや言われて、あぁあーっ!」「泣いてもオチません」「色々酷いな」「ええ」
#26
「電車に飛び込んだりとかでバラバラになって死んじゃったときって、ニュースで何て言うか知ってる?」「知らねー」「全身を強く打って死亡っていうねん」「じゃあこれは全身を強く打った牛やな」「焼肉でええがな」
#27
「子供たち、カメをいじめてはいけないよ。その亀はアカウミガメといって、爬虫網カメ目ウミガメ科アカウミガメ属に分類される絶滅危惧種なんだ。温帯から亜熱帯にかけての海洋に生息、貝類や甲殻類などを好み……」
#28
【受しのエリメ様 人目合ったその目から青方のことが志れられません。この暑い重いをどうしても仏えたくて、こうしてペソを撮りました。よかたっら今渡、遊遠池デートして卜さい。】「……エリナの机、となりだし」
#29
「ほらもうばれてるから。鞄から出して。ったく、朝からひとっつも売れてない新商品の『じゃがりこイチゴ大福八丁味噌味』……なんでよりによってこれを万引きしたかなあ。ええ年してこんな事し……と、父さんっ!?」
#30
雨上がりのアスファルトのミミズ。調子に乗って動き回って大切なものを失って二度と元に戻らない。もっと考えて行動すべきだったのだ。動くほどに干からびる現実。嗚呼、お前は俺なのか。ミミズと俺が入れ替わる。
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