第28話 凄まじい出来事! それは麻生の可能性!
「絶望とは、そして希望とは意志の力」
勢いは止まらず裂け目から延々と飛沫が吹き上がるが、やがてその裂け目から“誰か”が這い上がってきた。
その数は膨大、延々と続く裂け目全てから確認できる。
「なッ!?」
何百人、何千人、何万人と増え続けまだまだ増えていく。とても数えられるような人数ではなかった。
「ここは全ての可能性が集まる次元の狭間であり、ありとあらゆる結果が集まる場所でもある。つまり、ここには無限とも言えるあらゆる世界の“私”を集める事ができるのだ」
まさに軍勢である。国どころか、星すらも攻められる人数に膨れあがっても、まだまだ増えていく。
「言ってわからぬなら見せつけよう。そのために私はお前をここに連れてきた」
鉄仮面麻生が呼び寄せたその軍勢の正体。
それは、ありとあらゆる世界全ての――――――麻生洋明。
「これらは全て麻生洋明。絶望するしかなかった、“全て”の可能性だ」
存在しえる可能性全ての麻生洋明が現れていた。
そして、その全員は希望を捨て絶望を受け入れた者達だった。
「お前で最後だ。お前に絶望を認めさせ彼女を助ける事ができれば、私は全ての世界の彼女を救う事ができる」
他全ては救いきったと。彼女を永遠に眠らせ、麻生洋明には絶望を受け入れさせたと。
そう鉄仮面麻生は言っていた。
「希望を持つという事は絶望を消し去るという事だ。つまり、ここにいる麻生洋明全てをお前は否定、倒さねばならない」
現れた麻生達は全て洋明に敵意の視線を向けていた。
彼らは絶望する事こそが彼女を救う手段だと思っている。
ならば、希望を持って彼女を救おうとしている洋明は彼らにとって明らかな敵だった。
「当然、ここ全ての麻生は彼女を救うために努力してきた者達だ。お前と同じく強くなり、なんとか救う方法はないと模索し、そして絶望を受け入れた。全ての麻生達は希望を良しとしなかったのだ」
「……これ全てが……他の自分……オレ以外のオレは……みんながみんな絶望を」
受け入れた。
たった一人の麻生洋明を除いて。
「無論だ。麻生洋明は彼女を幸せにするために生きている。絶望を受け入れる事でそれが叶うなら安いモノだと言っただろう?」
「…………くッ!」
洋明は希望を持って彼女を救うと。希望こそが彼女の幸せへ繋がるのだと思っている。
だが、その思いを貫き通すには、目の前にいる無限の軍勢とも言える麻生洋明達に勝たねばならない。
今いる麻生はこれから洋明にやってくる絶望の数と同義なのだ。
その絶望に負けるなら、希望で洋明が彼女を救う資格はない。
洋明が立ち向かわねばならない絶望はあまりに多かった。
「これを見てもなお希望が彼女のためだと言うのか? 絶望こそが彼女を救うと、これだけの麻生洋明が確信しているというのにお前はまだ私達を否定するのか?」
彼女を襲う運命を希望で救うのは不可能。何をしようとも愛の心で助け出す事はできなかった。その思いでいる限り彼女は助けられない。
だから絶望した麻生洋明がこれだけ生まれている。希望を否定し絶望すると決めている。
鉄仮面麻生は声を荒げて言った。
「これでもまだ否定するというのならお前に彼女を愛する資格はない! 彼女のために生きる事など絶対にゆるさん!」
まだお前が無駄な抵抗を良しとするのなら。
それは彼女を不幸へ導くに等しい行為。
そんな麻生洋明に生きる資格はない。
「答えろ麻生洋明! 彼女を救う絶望か! 彼女を殺す希望か! どちらを選ぶ!?」
しかし。
そんな事言われなくとも、どんなに絶望に生きる自分がいようとも。
麻生洋明の答えは決まっている。
「……オレの答えは」
これだけの麻生洋明を前にしても、これだけの麻生洋明が絶望の正しさを物語っても、これだけの麻生洋明が洋明を否定しても、目の前の麻生洋明の数だけ立ち向かう絶望があるのだとしても。
希望を持つ麻生洋明がたった一人しかいないのだとしても。
「……希望だ」
洋明に希望を捨てる事などできなかった。
絶望に彼女の笑顔はない。
笑顔こそ彼女の幸せだと思う洋明には、どんなに絶望する事が正しいと言われても、それを信じる事などできなかった。
「そうか」
あの麻生洋明は彼女を不幸にする者。
鉄仮面麻生のさっきまであった哀れみの視線が消えた。
「ならば消えろ。彼女を不幸にするものなど生かしてはおけん」
それを号令に、無限とも呼べる麻生の軍勢が洋明へと向かってきた。地響きを鳴らし、世界を壊す勢いで麻生達は迫ってくる。
その無限の絶望を前に立ち向かう希望はたった一人だけ。
洋明はその軍勢と対決する。
「オレは……オレは絶対絶望に屈しない!」
洋明の傷は深い、そしてあの大軍勢。自力で撃退する事は不可能だ。立ち上がる事もできず、膝はついたまま。抵抗はできない。
「絶望が彼女を救うなんて認めるものか!」
ならば、せめて屈さぬ希望の心を見せつけてやろうと洋明は軍勢を睨み付ける。
例えここで滅する事になろうとも。
彼女の幸せを願う思いだけは散らさぬと決めて。
「お前達は絶対に間違っているッ!」
そう、決意した時。
「よく言った」
お前の選択は正しいと。
洋明の肩を優しく叩く者がいた。
「その通りだ。絶望が彼女を救うわけがない。彼女の笑顔は希望の先にある」
誰が現れたのか。洋明を助ける者などここにはいないはずなのに。ここに集う全ては洋明と絶望した麻生達だけのはずなのに。
洋明の敵しかいないこの場で。
なぜ、味方が現れたような実感が沸いてくるのだろう。
「誰だ貴様ッ!?」
そう問いかける鉄仮面麻生に対しソイツは。
「オレは麻生洋明。ただし、絶望を否定し希望に生きる事を決めた方のな」
自分は希望の麻生洋明だと。
そう名乗った。
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