第27話 立ちはだかる闇! しかし、麻生は!?
「私に抗うなど無駄と解ったはずだが…………いや、解ってはいるのか。認めたくないだけなのだな。私に負け屈する事、それは彼女を諦める事になると思っている」
洋明は攻撃し続ける。だが、ダメージ皆無の鉄仮面麻生は洋明に呟き続ける。
「他の世界の麻生洋明も最初は抵抗を続けていたがやがて理解していった。彼女のどうしようもない運命と、どうしようもない私との力の差を…………絶望と一緒に」
洋明の意味の無い斬撃は続く。
「お前も受け入れろ」
何の力も入っていない指で鉄仮面麻生は黒式夢想掴み取ると洋明の腹部を殴りつけた。
「がはッ!」
激痛と身体が粉砕されたかのような衝撃。歩くだけでダメージを与えるような相手が殴ったのだ。その場で砕け散らなかっただけマシだった。
洋明の身体は蹴り飛ばした空き缶のように無様に転がった。
「ぐ……が……」
たった一撃。
圧倒的な力、それを前に洋明に為す術はない。
痙攣するように動く洋明の身体にはもう戦う力など残っていなかった。
「抵抗は正常な考えを誤らせる」
立てる力すら残っていない。鉄仮面麻生は倒れる洋明から黒式夢想を奪い取ると、地面に這う虫を見るような目をした。
「絶望を受け入れろ。彼女の幸福を願うならこのまま私の言う事に従え」
洋明に鉄仮面麻生を倒す事は不可能だ。
あまりにこの敵は強すぎる。
「なに……いって……やがる……」
しかし、それでも洋明は諦めない。
「ふざ……けんなよ……」
鉄仮面麻生は本当に全ての彼女を救うため世界を渡り歩いている。
きっと、その結論はたしかに彼女を生かすのだろう。死に行く運命である彼女を救い助ける事ができるのだろう。その覚悟ある選択を容易に選んだと洋明は思っていない。それだけの重みが鉄仮面麻生からは伝わってくる。
「テメ……ェッ……」
しかし、そう理解していても洋明は鉄仮面麻生の言う事が本当に。
彼女の幸福なのだとは――――――とても思えなかった。
「そんなのが……そんな……のが……彼女の幸せになってるワケが…………あるかぁッ!」
ただ病院のベットで眠り続けるだけ。家族は目覚めぬ娘を一生心配し続け、彼女の友人達はもう目覚めぬ彼女から離れていく。世にある楽しい事は全て彼女を無視して遠ざかり、その存在すら知らず彼女は眠り続ける。
たった一人で。
ずっと一人で。
それは、洋明と出会う前の彼女に戻す事に等しい。
「オレとデートしている時の彼女は幸せだった! オレの名前を呼ぼうとする彼女は恥ずかしながらも嬉しそうだった! 死にたくなかったと理解した彼女は何もしない何もない毎日を否定した!」
そんなの絶対に彼女の幸福に繋がるワケがない。
だからあの時、洋明は彼女に傘を渡したのだ。
彼女を一人にさせない、それがきっと彼女の幸福に繋がると思ったから。
「オレと一緒にいた彼女には笑顔があった! 笑顔とは幸福のサインだ! 幸せだと、楽しいと喜んでいる彼女は“そこ”にいるんだ!」
だから洋明も彼女といる事が楽しかった。笑顔を見せてくれる彼女に喜びを感じた。
あの眩しい笑顔こそが彼女の幸福だと。輝く彼女はそこに見る事ができるのだ。
幸福は笑顔から生まれている。
それは絶対に間違いないはずだ。
「お前にとって……絶望を受け入れる事が彼女の幸せに繋がるというのなら……」
彼女を助け出す。
その意志が再び力を与えたのか、黒式夢想を支えにゆっくりと洋明は立ち上がる。
「オレは希望を受け入れ彼女の幸せを繋げる! 希望こそが彼女の幸せにする行為! そしてッ!」
屈してたまるかとばかりに鉄仮面麻生を睨み付ける。
「オレの愛の力は、その希望を決して挫けさせはしない!」
彼女の笑顔がその先にあるのなら。
例えこの身がどんなに傷を負おうとも。抗えぬ結果を示されどんなに無駄だと言われようとも。
洋明の信じる希望と愛の力を滅ぼす事などできない。
「なら彼女に訪れる死の運命は? 何度と訪れる彼女の死をお前はどうするのだ?」
「彼女に死の運命が幾度と訪れ何度も彼女を殺そうとするのなら!」
傷だらけで弱々しい、だが強固な意志を宿した拳を鉄仮面麻生に洋明は突きつける。
「その全てからオレが守りきる! 守って守って守って守って守って守って守りきる! そんな運命ごときに彼女を殺させやしないッ!」
「………………」
その洋明の決意を聞き。
鉄仮面麻生はとても“哀れな目”をした。
「どうしても私に逆らうと……そう聞こえるが?」
「その通りだよクソ野郎! オレはテメェを絶対に認めない!」
「………………そうか」
鉄仮面麻生は一度深いため息をつくと、聞き分けのない子供に言い聞かせるように呟いた。
「絶望を否定し希望を持って進むと。その言葉に嘘偽りはないな?」
「当たり前だ!」
「ならば、その希望でこの絶望を否定してみろ」
そう言って鉄仮面麻生は力なく腕を振るった。
瞬間、黒の地面が引き裂かれる。
振るった腕は世界を両断したような威力を洋明に見せつけ、地平の彼方までその裂け目は続いた。
そして、その裂け目から火山が噴火したかのように黒い飛沫が吹き上がった。
飛沫は絶えず吹き出し雨のように鉄仮面麻生と洋明に降り注ぐ。
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