第17話 麻生慟哭! 走り続けて見つけた答え!

「ハァ……ハァ…………ハァ………………う……」



 洋明はすでに南極大陸全土を隅々まで探索している。だが鉄仮面の情報は掴めず、ササコボシの言った事は嘘だった。



 つまり、ここにやはり鉄仮面はいないと決定されたのだ。



 「う、ウああああああああああああああああああ!」



 洋明は叫んだ。力の限り叫んだ。



 「うがあああああああああああああ! ああああああああああああああああ!」



 洋明は吼えた。力のある限り吼えた。



 「オレはぁぁぁぁ! オレはこれからどうすればいいんだぁぁぁ!」



 非常に残念な事だが洋明の予想はまたも外れてしまったのだ。マントを着ている程寒い所にいるなら南極にいるに違いない。その発想は間違いではなかったはずなのに。


 手がかりはまた消えてしまった。思い当たる節はまたもゼロとなってしまった。


 これでは鉄仮面を捜せない。世界中を探すにしても、ヤツだって一カ所に止まってはいないはずだ。この広い地球上で何の手がかりもなく人間を探すなど不可能だ。



 「どうすればああああああああ! オレはどうすればいいんだああああああ!」



 と、そこで洋明は視界の隅で唖然な顔をしているアオ博士の姿を見た。



 「なんだ……まだいたのか」



 力ない声でそう言うと洋明の身体がフラフラとその場で揺れる。



 「帰れよ……寒いだろ……」



 これからどうすればいいかわからない洋明は放心状態というよりも意思の糸がプッツンしている状態だった。自分ここにあらずといった感じだ。



 「いけない……なんとかしなくては……なんとか……」



 アオ博士は洋明の言った事など聞かずに何やらブツブツと呟いていた。



 「……………………」



 そんなアオ博士を見て洋明はふと思った。


 この女はたしか他にも何か言っていなかっただろうか、と。



 「………………たしか」



 倒れている間少しだけ二人の会話は聞こえていた。そう、マッドサイエンティストだとかどうとか言っていて――――――



 「――――!?」



 瞬間、洋明の脳内に稲妻が走り、全身をハンマーで思い切り殴られたような感覚が走った。



 「大悪党科学者(マッドサイエンティスト)……だと!?」



 大悪党科学者(マッドサイエンティスト)とは世界を征服とか破壊せんとするトンデモ科学者だと記憶している。そして、その科学者は基本的に高い知能を持ち、地球や人間に優しくない発明をして人類を恐怖のどん底にたたき落とすのだ。


 だが、それを具現化させるには途方もない財力が必要だろう。お札数枚程度で世界を震撼させる事はできないのだ。


 科学者にはスポンサーが必要である。しかし、スポンサーを欲しがっている科学者が悪人ならまっとうな会社はスポンサーにならない。


 なら、誰ならばスポンサーになるのか。


 洋明はそれに思い当たるものがあった。



 「ギャング……秘密組織……マフィア!」



 それらの組織には武器が必要だし売り出す商品(武器)も同じくだ。優秀な武器開発、兵器開発のできる科学者ならば是が非でも雇いたいはずだ。



 「わかってきた……わかってきたぞ……鉄仮面の正体が」



 鉄仮面はいつ起きるかわからない眠りの毒を持っていた。そしてその毒は一体何でできているのか全くわからない代物だ。


 考えれば簡単だった。そんなスゴイ毒を持っていたという事は。



 「間違いない……ヤツは大悪党科学者(マッドサイエンティスト)だ!」



 麻生は確信した。



 「毒は手に入れたんじゃない! 開発したんだ! だからヤツは持っていた!」



 どうりで見つからないワケである。だから流通していないのだ。ヤツが組織に属して開発を行い兵器を造れば、その技術を知られまいと情報漏洩を防ごうとするはずだ。だから何処で聞いても鉄仮面の事は愚か、毒の事もわからないのだ。



 「そういう……事かッ!」



 鉄仮面は大悪党科学者(マッドサイエンティスト)、ならば居場所は明白だ。



 「ニューヨークだ! ヤツはニューヨークにいるに違いない!」



 麻生は確信した。



 ニューヨークとは洋明が思うに一番アンダーな世界を持つ都市である。マフィアや秘密組織がもっとも多い国だ。


 なので、仮面の男がいるならばニューヨークで間違いない。



 「待っていろ鉄仮面! 彼女を取り戻すため、必ずお前にたどり着いてみせる!」



 洋明は氷の大地を爆走する。



 「そしてこんどこそ――――――」



 目的地は決まった。



 そして、洋明の頭はどうやって鉄仮面を“誘い出す”かと、思考を切り替えていた。相手がマフィアならばこちらから出向いて探すのは難しいだろう。ヤツらは陰に潜む生き物だ。探す方法を考えねばならない。



 「必ず――――死よりも深い闇をくれてやる!」



 洋明は走り去って行った。



 そして一人の女性だけがこの場に残された。



 アオ・銀河博士は洋明が走り去っていく姿を見て決めた。



 「ヤツは今止めなければならない…………この私が! そうしなければ! そうしなくては私は正義と崇められてしまう!」



 アオ博士は決意する。



 「全てが手遅れになる前に……ヤツが悪へと進化する前に決着をつけなれば……でも……」



 だが、その決意は薄氷の上に築かれた居城のように脆いモノだった。



 「私に……麻生洋明を倒す事ができるのかしら……」



 だが、それは仕方なのない事だった。洋明の持つ力のデタラメさをこの目で直に見てしまったのだから。



 あの力を止める事は可能なのか。災厄である麻生洋明を討ち滅ぼせる者に自分はなれるのだろうか。自身に秘められた頭脳は麻生洋明に対抗できるのだろうか。



 「………………」



 否、麻生洋明に立ち向かう事は不可能。


 ヤツはあまりに強すぎる。



 「でも……希望はある」



 その手にある奇跡鉱石を見てアオ博士は呟く。



 この奇跡鉱石があれば今作っている超人機械が完成する。それはきっと麻生洋明に対抗できるたしかな力となるはずだ。



 「私が正義にならない希望を……必ず作り出す!」



 ササコボシとの戦闘を見た事で麻生洋明のデータはとれている。それを組み合わせればきっと不可能ではない。



 麻生洋明と互角に戦えるモノ。



 そう、アンチ麻生と呼ばれるだろう機械生命体を作り出す事は。



 「麻生を倒すアソウを私は絶対に作り上げてみせる!」



 奇跡鉱石を片手に、アオ博士は大空へ誓いの拳を突き上げた。

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