第13話 アオ博士絶体絶命 だが、英雄はそこにいる!

 「ここだわッ!」



 「ゴール……アオ博士と私……ついにフィニッシュ…………」



 何メートルも続く氷の絶壁。二人の身長をあわせても、その十倍以上はありそうな巨大な氷を前にアオ博士は興奮を隠しきれないでいた。



 「この辺りにあるはずよ! 探しなさいササコボシ!」



 「イエスマム……探します……探します……超探します……」



 表面を薄く覆う雪の粒などを掃いながらササコボシは調べ始めた。


 アオ博士の情報では、この辺りに淡く緑色に光っている氷があり、そこに奇跡鉱石はうまっているらしいのだ。


 だが、あると解っていても見つけるのは至難の業だ。奇跡鉱石はたしかに光っているのだが、それはとても小さな輝きで視認が困難なのである。それでいて氷と同じ外見で冷たいので、余程注意深く探さなければ手に取っても気づけない。


 見つけるのは奇跡に等しい。奇跡鉱石と呼ばれる所以はそんなトコにもあった。



 「発見……博士……奇跡鉱石見っけ……」



 しかし、そんな奇跡鉱石をササコボシは三十秒とかからず発見した。様々なモノを見つけられるのもササコボシの特技の一つである。



 「でかしたッ! それでこそ我が助手!」



 ササコボシに一瞬でアオ博士は駆け寄った。



 「その……助手ですので……」



 「素晴らしい! こんど愛の入ったスープと愛の入ったおかずを振舞って、愛の入った人体実験につきあってもらうわッ!」



 「まあ……助手ですので……」



 ササコボシが雪の粒を払うとたしかにその氷部分は緑色に光っていた。蛍よりも薄い明滅を繰り返しており一見しただけでは絶対に気づけないだろう。



 「これさえあれば……この鉱石さえあれば、私の“超人機械”は現実のモノになるわ! 私は世界を暗黒時代に突入させた大悪党科学者(マッドサイエンティスト)として、ずっと語り続けられる事になるのよ! ははははははははは! やったああああ!」



 「博士の隣に……私……います?」



 「もちろんよ! 鉱石を見つけたあなたの名前はこの世二番目の悪として語り継いであげるわ!」



 「やった……はぴねすはぴねす」



 「てか、なんで奇跡鉱石の影響出てないのかしら? 見つければ、さっき倒れてた男みたいなオーラが身につくと思ったのに」



 「うんと……時間差? それとも……個人差? まあ……影響出ないなら出ないって……事で……」



 「そうね! そんな事考えてもしょうがないか! どうでもいいし!」



 やんややんやと騒ぐ二人。ここは南極の奥地も奥地なので人もいなければ動物もいない。二人の喜びの邪魔をする者など誰もいない――――――――――はずだったが。



 「さーて、そこまでにしてもらいましょうか」



 それは違った。



 「誰ッ!?」



 二人は忘れていたのだ。自分達が取りに来た奇跡鉱石がどれほど貴重であるのかという事を。奇跡鉱石は“噂が出回る程欲しがる者の多い”未知の鉱石なのだ。



 故に、それを見つけようと行動する者にマークがつくのは不自然な事ではない。


 冷蔵庫だろうと核兵器だろうとその常識を変える。


 奇跡鉱石が軍事利用できるなら尚更だ。



 「君達が見つけてくれるとはね。そこのササコボシ君でなければ軽く一年は発見が遅れていた事だろう」



 檻に入れた獣に話しかけるような不快な余裕が聞こえた。その声の主はアオ博士とササコボシのすぐ後ろに悠然と立っていた。



 「ゲドシェン・藤原!? あんたなんでこんな所にいるのよ!」



 「私もロマンというのが好きでね。一緒に探したいと言っても却下されると思ったので、こっそりつけさせてもらったよ」



 スッと藤原が手を上げると、青白い火花を散らしながら百人程のサングラスをかけた男達が現れた。火花が大きくなるにつれ、サングラス達の姿が鮮明に現れていく。



 「完全絶対究極迷彩(レドベフィックコーティング)!? まさか完成させていたなんて……」



 「時代は進んでいるのだよ。まあ、もっている武器はいささか原始的ではあるがね」



 サングラス達は二人を逃がさぬように囲み、全員がM16A2で武装していた。


 NATO各国でも正式採用された三連バーストの突撃銃。目の前にいる二人を殺すには十分過ぎる代物だ。



 「ま、相手がただの人間ならばこの程度で十分さ。君達は特に武装もないようだし、チェックメイトというヤツだろう」



 完全絶対究極迷彩(レドベフィックコーティング)。



 この特殊電磁波を浴びた者はレーダーだけでなく肉眼でも見る事ができなくなり、脅威のステルス効果を得る事ができる代物だ。だが、この電磁波の凄い所はそこだけに留まらない。


 透明の間は存在認識を完全にゼロにするので、銃弾などが使用者に向かってきてもそのまま通過してしまうという恐ろしい性能をもっているのだ。つまり、使用中はあらゆる攻撃手段が通じなくなるのである。存在認識がゼロになっているので使用者も使用中は攻撃できないが脅威の技術(テクノロジー)であるのには変わりない。


 ゲドシェン・藤原。アオ・銀河博士と同じく世界が認める大悪党科学者(マッドサイエンティスト)を目指している者の一人である。



 「実験も兼ねてコレを使って君らを尾行していたが特に問題は見当たらないな。戦争をしたがっている馬鹿にでもコレは売りに行くとしよう」



 「ぐ……あんたにコレを先に開発されるなんて……屈辱だわ」



 「屈辱ならここでもっとくれてあげようじゃないか。なぜなら君はここで殺されるのだからね。奇跡鉱石をプレゼントしてくれてありがとう。感謝の極みだよ。フフフ……フハッハッハッハッ!」



 藤原はアオ博士の持つ奇跡鉱石を見るとたまらないように笑いだした。



 「ハッハッハッハッ………………ふう、笑った笑った」



 藤原が手を上げるとサングラス達が一斉に銃口を二人へと向けた。



 「君がやろうとした研究は私がしっかり受け継ぐよ。だからここで君は死にたまえ。天才は二人も必要ないのだから」



 藤原は上げた手を二人の方へ振り下ろす。



 「さらばだ」



 銃声。


 M16A2から雨のように銃弾が咲き乱れ二人の体に穴を開ける――――――はずだった。


 百人から発せられるマズルフラッシュは間違いなくアオ・銀河とササコボシを照らすはずだったのだが。



 「グルアアアアアアアアッ!!」



 バゴォォォォッ!



 放たれるはずだった銃弾の雨は、突如発生した爆音と奇声の前に降りそそぐ事はなかった。



 「ここかぁぁぁ! そして貴様かぁぁぁぁ! なんとか博士はぁぁ!」



 アオ博士のすぐ横。背後にある何百メートルもの厚さを持つ氷の壁が“弾け跳んだ”のだ。


 粉砕時に飛び散った氷の粒は藤原やサングラス達に降り注ぐ。



 「だ、誰だお前はッ!」



 突如現れた乱入者に、たまらず藤原は声を上げた。

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