第7話 恐るべき十人衆! その名は深遠終曲!
「で、それ以外の報告はどうしたの? 私嬉しくなるのがいいな~~」
「そ、それは……」
大広間。天井には大きなシャンデリアがいくつも飾られ、広間の床や壁は煌びやかな装飾品で彩られている。目が眩む程の量が妖艶に輝き、限りのない贅を凝らして造ったのだと誰もが思うだろう。
その広間にある玉座に若い一人の少女が座っている。身体の長さと同じくらいの金髪とフリルが目立つ華美なドレスを着て、自分よりも遙かに大きい玉座に座っていた。
目の前で土下座をしている部下に少女は蔑む視線を放ち、その余裕ある悪意を振りかざしている。
少女の名はヒラガマツ。この国を支配しマツラリスト達を弾圧している王女である。
「戦車を解放軍討伐のために三十輌もあなたに渡してあげたんだよ? なのに何なのよアレ~。戦争できちゃう量なのにぃ~、なんであんなボロボロになっちゃうのかなぁ。 おかしくない? おかしくない? 超おかしくない? しかもワケをとりあえず聞いてみるとおかしな返事が帰ってくるしぃ~」
ホレ、とヒラガマツは指先を土下座したまま汗を垂らしているグラッサンに向けた。
「ひ、一人の人間に壊滅させられました……さ、サムライにほとんどの戦車を……」
「はいはいはいはいはいはい、もうわかったわかったわかったわよ」
とても部下の言葉を理解してるとは思えない言動でヒラガマツは答える。
「サムラィィィ? なんでサムライなんてものがここにいるのよ? ここは日本なんていう極東じゃないのよ~? それに一人の人間が戦車相手に圧勝なんて、ないないないないそれはないわ~。んなのあるわけないじゃん。人間が兵器に勝てるわけないっての。しかも刃物で切りつけてバラバラにするとか、またまたありえないでしょ~。 ね? ね? ね? ワタシ、間違えた事言ってるかな?」
ヒラガマツは自分の金髪を弄りながらグラッサンを蔑んだ。
「し、しかし! あの悪魔は本当に刀一本で我らの戦車を瞬く間に破壊していき、銃などでは全く歯が立たず――――」
「ウザい事言ってんじゃないわよ」
立ち上がりツカツカとグラッサンへとヒラガマツは歩いて行く。表情や態度は先ほどと変わらないが、先ほどまではなかった“威圧”というものが今のヒラガマツからは放たれていた。
「おい、そこのザコ」
ヒラガマツは少女だ。その姿は年相応の可愛らしさがあり、抱きしめてしまいそうな愛らしさがある。
だが、その少女は普通の少女ではない。国を圧政たらしめ、逆らう者は殺戮してきた冷酷な暴君なのだ。
そんな少女から放たれる威圧は年相応なワケがない。グラッサンの精神は徹底的に絞り上げられていき流れる汗は二倍にも三倍にもなっていく。
「ワタシはねぇ、信仰ってヤツが大ッ嫌いなの。神に祈れば救われるってヤツ? 神様がいれば助けてくれるってヤツ? そういうの聞くとヘドも鼻水もでちゃうの。だから、その逆もまた然りよ。悪魔とか化け物ってヤツ? 悪魔がいるから近づかないほうがいいとか、悪魔がいたからみんな死んだんだとかさぁ。ウザイのよねそういうの」
グラッサンから何歩かの距離をとってヒラガマツの足は止まった。威圧はヒラガマツが喋る度にに増していき、動いてもいないのにグラッサン息は上がっていき、汗は床に水溜りができるほど垂れている。
ヒラガマツは内ポケットから銃を取り出した。
「最近銃のコレクションが増えたのよね~。ちょっといくつか取り出して撃ってみようかなぁと思ってたの。ま、思ってただけなんだけど……でも、こんな“ザコ”には撃った方がいいかなぁ~」
銃口を無慈悲にグラッサンの頭へ押し付けた。
「逃げなさい。一分くらいなら待ってあげるわ」
少しの間動けなかったグラッサンだったが、「七ぁぁぁぁ~、八ぃぃぃ~」と数が増え始めると、弾かれたように扉へと走り始めた。
あの少女、ヒラガマツは自分を殺そうとしている。これはタチの悪いジョークでもなんでもなく処刑するつもりだ。
「わあああああああああああ!」
出口付近まで走り、後一秒もかからず扉へ届くという所で。
「あ……」
グラッサンが綺麗にスッポリと収まる程の穴が足下に開いた。
「うわあああああああああああああああああああああああ!」
落ちたと気づいた頃には手遅れだった。掴む所など一切なく奈落の底へとグラッサンは落ちていった。
「デキの悪い部下を持つと苦労するわ~。ね、パプチリカ」
「その通りでございますな」
ヒラガマツの影。その中から銀髪の男が現れた。まるで影の中に潜り込んでいたかのように音もなく姿を現す。
「ここの抵抗勢力なんてあっさり倒せると思ったけど、何やらイレギュラーが入ってきたみたい」
「あやつが言っておりましたサムライとかいう者ですか」
「ええ、戦車を切り刻むとかいってたけど……まさか、そんな事が“あなた達”以外にもできるヤツがいるとは思ってなかったわ」
ヒラガマツは玉座へと戻るとパプチリカを右に待機させ手を叩く。
「さあ出て来なさい深遠終曲(エターナルジャッジメント)! イレギュラーには警戒する必要があるわ!」
深遠終曲(エターナルジャッジメント)
それはヒラガマツが率いる最強の配下の総称である。ヒラガマツの命令は必ず遂行し、死ねと言われれば死に、どんな大国だろうと滅ぼせというならば必ず滅ぼす。
個人の力は圧倒的であり、戦場で千の兵士を相手にしても息切れ一つせず皆殺しにする恐るべき力量をもっている。
人外と言うべき力を持ち、誰もが人であり人ではない者達。
十人で構成されている深遠終曲(エターナルジャッジメント)を全員この場へ集結させるのは、ここ何年もなかった事だった。
「絶糸(ぜっし)のエグリュア!」
呼びかけと同時にシャンデリアから奇声をあげながら下り立つ者が一人。
全身に巻かれた糸がほどけて見えたのは主に頭を垂れる忠臣だった。
「絶糸(ぜっし)のエグリュア見参。この十指から乱れ飛ぶ糸でヤツを細切れにしてみせましょう」
絶糸のエグリュア。十本の指から放たれる見えない糸は、戦っている相手に認知させないまま敵を刻む。
「業(ごう)炎(えん)のアイダライ!」
突如、広間にあるガラスが勢いよく割れ、下り立つのは五メートルを超える巨躯が一人。 口から炎を吐き、姿だけでなく技も人外である事を知らしめる。
「アイダラアアアアアイ!」
業炎のアイダライ。口から出る炎は鉄をも溶かし、並の要塞ならアイダライが一吹きするだけで溶けて蒸発する。
「練(れん)震(しん)のヴォーダル!」
地鳴りが木霊す所にヤツは現れる。床に大きな亀裂が走り、その亀裂から勢い良く飛び出る影があった。
「ヴォーダルはここに! 記念すべき一万人目の死者を出してごらんにいれよう!」
練震のヴォーダル。ヤツと戦う地は至る所で地割れが発生し、戦った者は例外なくその地割れへ飲まれ消え失せる。
「音(おと)神(がみ)ルートラル!」
パァン! と、いきなり広間の窓ガラスが全て弾け飛び、壁全部にヒビが入った。ガラスの破片は残さず文字通り粉にして飛び降りる者が一人。
(ワガオンパケンザイニゴザイマス)
音神ルートラル。一言一言全てに物質ダメージを与える音波が入っており、屈強な戦士だろうとルートラルと話すだけで全身から血が吹き出て死んでしまう。うっかり会話しようものなら死んでしまうので、大変危険極まりない。
ちなみに、先ほどの言葉は脳内での一言なので問題はない。
「誠(せい)命(めい)のセプレティク!」
ヒラガマツが名を言い終わると同時に天井が爆発し、そこから下り立つ者が一人。
「セプレティクはここに」
誠命のセプレティク。深遠終曲(エターナルジャッジメント)の中で一番ヒラガマツに忠誠を誓っているものであり、ヒラガマツに危害を加えるものならば、例え同じ深遠終曲(エターナルジャッジメント)だろうとも瞬時に腰に携えた剣で戦おうとする。メンバーの中で一番地味で特に能力もない一人だ。
「恐教(きょうきょう)のサーワダム! 七人目か……本当に深遠終曲(エターナルジャッジメント)が今日全員集まるのね」
ヒラガマツの館を壊しながら集まった深遠終曲(エターナルジャッジメント)はパプチリカを含めすでに六人。サムライの処刑人達が続々と集まっていく。
「やってくるがいいわサムライ。ズタズタにしてあげるから」
計算できるものには恐怖を感じない。計算できるモノには必ず答えがあるからだ。
だが、計算できないものに答はない、それには警戒する必要がある。戦車などの兵器に頼った正攻法で倒すのが難しい相手という事は、おそらくそのサムライはココにいる人外達と同じ部類の者だ。最強の部類に属する相手に間違いないだろう。
しかし、警戒はしても臆する事はない。
ここにいる深遠終曲(エターナルジャッジメント)はそこらの最強とはワケが違う。全員が全員生まれた時から人間を捨てて生きてきた者達、最強を持って生まれてきた者達なのだ。
イレギュラーにはイレギュラー。ヤツに対抗できる者達を向かわせ、三倍以上の兵力でサムライを圧殺してやろうとヒラガマツは考えていた。
自分には莫大な資金も兵器もあり人を外れた部下達もいる。たった一人のサムライなどに恐れる理由はなかった。
「……? サーワダム? 出てきさないサーワダム!」
呼べばかならず広間を壊しながら現れる深遠終曲(エターナルジャッジメント)がやってこない。ヒラガマツが何処にいようと必ずかけつけるのが深遠終曲(エターナルジャッジメント)だというのに。
何度もサーワダムの名を呼ぶがヒラガマツの元に現れる様子はなかった。
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