第3話 復讐すべき敵! 麻生はアイツを許さない!

「ぐううううううううう…………」



 自分が見ても他人が見ても、誰がどんな角度から見ようともダメだ。


 だが一体どうすれば?


 彼女の記憶が消失するか、自身がボロクズになるのが先か。


 どちらであれ、その結末を迎えるワケにはいかない。



 「くそぅ……誰が……一体誰があんな事を……」



 デート前日に電話した彩香は元気そのものだった。とても倒れるようには思えなかったし、病気だったとは考えられない。それに無理をするような人物でもなく、具合が悪いなら洋明にちゃんと言うはずだ。

 何が一体あったのか。何が起こったのか。洋明は心辺りはないかと彩香の事を思い出すが、記憶の中にある彼女はどれも元気で――――



 「うぐッ!? ググアガガガ……ギギギ……ん?」



 また発作が起ころうとしたが……あの日を思い出し発作は止まった。



 「……………………」



 あのデートの日、そういえば異常な事がなかっただろうか。普段は気にしない――――――別にどうでもいい事なのだが忘れるには難しい――――――何かそんな事が。



 「…………たしか……先週は……」



 自分は重要な何かを忘れてはいないだろうか。何か気になる。


 あの日起こった事で彩香が倒れる前、自分は何か見たような。



 「先週……先週……先週………」



 先週の彩香とのデート。駅に駆けつけた時何か見たものがあったような。


 洋明はハッとした。



 「………鉄仮面」



 そう、鉄仮面だ。アイツの事はよく覚えている。鉄仮面にマントなど、いやでも目立つ姿で歩いていたのだから。


 ヤツは彩香のそばを通りすぎていった。


 いや、たしかヤツは“真横”を通り過ぎた。着ているマントが彼女に当たってしまうくらいの至近距離をヤツは歩いていた。


 そしてそのマント。鉄仮面が自分を通り過ぎる前、あのマントは風で一瞬捲れたのを覚えている。僅かな間だったが、そのマントの中を見た。



 「たしかあの時…………」



 思い出せ。あの時は大して気にしていなかったが、あのマントの中は。



 「……!?」



 布団からガバリと起き上がる。急に起き上がったので掛け布団がそのまま吹き飛び、ウィスキービンのピラミッドにぶち当たった。衝撃に耐える事ができず、ピラミッドは盛大な音を鳴らしながら崩れていった。



 「そうだ……」



 ゴミの上に大量のビンがぶち撒けられ、少なかった足の踏み場はさらに減った。


 だが、洋明はそんな事など全く気にする事なく記憶に耽る。


 マントの中で自分が見たもの。そこに見えたのが何だったのかを思い出す。



 「そうだヤツは…………針のようなものを持っていた!」



 その瞬間、燃えるような思考が全身を貫く。


 この大惨劇は誰によってもたらされたモノなのかはっきりとわかった。


 すぐに部屋を飛び出し、彩香の眠る病院へと急ぐ。担当の医者と話した所、洋明の思った通り彼女にはとても僅かだが“切り傷”があった。


 それを見た自分が、これからどうするべきなのか。何をするべきなのか。


決まっている。あの鉄仮面に。



 「死よりも深い闇を……くれてやる!」



 洋明は決心した。



 「待っていろ鉄仮面!」



 当然、決心したからにはヤツの居場所はわかっている。


 鉄仮面の肌は…………そう、日焼けしていた。ならば、ヤツは外国にいるに違いない。今の日本は春なのだ。この季節で日焼けになる事はできない。



 「だがッ!」



 居場所は外国とわかっても、すぐに向かう事はできない。今の自分は何も準備ができていない。まだ死よりも深い闇をくれてやる準備ができていない。



 「今から修行を始めなければ! これからの旅にあらゆる力は欠かせない!」



 己を鼓舞するため、誰に言うでもなく洋明は叫んだ。


 鉄仮面を確実に葬れる実力を得るために。


 絶対の力を手に入れるため洋明は家を飛び出した。

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