こんなにも危険!大人数異世界召喚!~公式チート VS チート行為~
そのクラスは修学旅行で新幹線に乗っていた。貸し切りの1号車と1クラス分だけ2号車という編成だった。
その新幹線の2号車に乗っている者が転移した。
所謂クラス転移だ。
一般人も10名程巻き込まれたようだが。
「ようこそ、異世界の勇者様方」
王女だか女王だか、神官長だかが出迎えてくる。周囲には兵士がいっぱい。100人以上は居る。
対するに転移したのは50名程。
生徒40名にほか乗客が10名だ。
「ど、どういうことだ!?」
「一体此処は何処よ!」
当然だが冷静に状況を把握しようとする者が1割。パニックを起こす者が5割、思考放棄が4割ほどだろうか。
そのパニックも、神官?だかの呼びかけによって沈静化されていく。
かの神官が言うことを要約するとこうだ。
・召喚しました。
・送還できません。
・大いなる敵と戦い、倒せれば還せる。
・世界を跨いで来た方には、神の恩恵がある。
・大変名誉なことである。
このような事を説明し、銀ぽいものでできたプレートを各1人づつ配っていった。
これで自分の能力を把握できるのだという。
形状はスマホの画面だけといった所だろう。
「皆様、我々を助けて頂けませんでしょうか。」
神官ではなく王女だったが、その彼女が最後にそう締めくくった。
「どうする?」
「どうするもこうするも、やるしか選択肢が無いんじゃ…」
「チートキター!」
「こいつ超無能だ!」
突きつけられた選択肢に、自己のステータス。スキル。
詐欺師のやり口ではあるが、逃げ場を無くして最終的にやる方向に持っていく手口だろう。
有能な能力を持っているならやるし、そうで無いなら拒否する。拒否したものは放逐されるというが、信用はできない。
集団であるから人質の代わりにはされるかもしれない。
結論も決まりかかった時、声が上がる。
「はーい、注目!」
今の今まで、召喚されてから何故かパソコンを弄くっていた金髪の女性が声を上げる。
プレートを起動しようとしても、起動できなかったと周囲から言われている。つまりは変な外人だ。
「盛り上がっている所悪いのですが、もとの新幹線に戻せますよ~希望者は並んでください。」
大多数は、一瞬何を言っているのか分からなかった。
「馬鹿なことを、どうやって戻すと言うんだ!」
「戻せるなら戻してみろよ!」
挑発的な数名…4名ほどが食って掛かる。
「はい。」
そう返事をすると、その数名が消える。
「な!消えた…!」
ざわざわと騒ぎ出す。
「どこにやったんだ!」
確かに消えるのと還すのでは違う。不安にもなる。
なので仕方なく、新幹線の内部画像を彼女の上に表示させた。
一体何の冗談なのか。確か能力値反応の無い無能者…というはずだったのだ。
「衛兵!あいつを止めよ!拘束しろ!」
還されては困る王女は取り囲んでいる兵士に命令を下す。
しかし、金髪の女性がパンと手を叩くと壁際まで後退することを余儀なくされる。
風ではない。ただ地面に落ちるがごとく、壁面に落ちる。
そしてそのまま動かなくなった。
「で、帰る人、並んでね。」
ざわざわし始めたが、しかし並ぶことを訓練された者達だ。
すぐに一列に並ぶ。
「な、一体何が…貴女は一体何者ですか!魔王の手先ですか!?」
「貴女が喚んだんじゃない。それを魔王の手先とか意味がわからない。」
生徒達を送還しつつ、王女に答える。
「それとも、付けた首輪が外れている事を驚いているのかしら?」
召喚者に首輪を付けるのは当然だ。
そうでなければ怖くて喚べない。
尤も、外される事態は想定していなかった。
「首輪!?やっぱり俺らを縛っていたんだな!助かった!!」
送還待ちの者たちが安堵の声を上げる。
「ま、待ってください!この国が!世界が危機に瀕しているのは本当なのです?」
「だから?私達には関係ないよね?」
そう、関係ないのだ。
無関係な者たちをただ巻き込んだだけ。
「そんな!酷いことを言わないで助けてください!」
必死に食い下がるが、本当に苦しいのかは疑わしい。
「だったら、何故そこの兵士たちの鎧が綺麗なのかしら?」
「えっ!?」
「危機に瀕しているなら、遊びはないはず。ここに居る兵士は弱卒なの?新兵なの?」
「近衛兵なのですから当然です!彼らが戦う時というのは、それこそ敗北する寸前なのです!」
「だから、その時に喚べばいい。何故今なの?」
「戦った事のない人が直ぐに使い物になるわけ無いじゃない!」
「戦える者を喚ばばいいじゃない」
「それが出来るなら!」
そして、送還されて残ったのは最後の1人。
「俺は残るぜ。」
そんな事を残った一人は言った。
「なんで?」
「こんなチートスキルがあるんだ、やってやるぜ!」
「ふーん。」
ならば彼女のやることはない。
「で、首輪だったかは外れているんだよな?」
「そうね。」
性根はあんまりよくないな。と思った。
「まあ、良いわ。私から渡すものは無いけどそうね、予習しましょう。」
「あ、そういうのも良いんで。」
拒否った。
「ふむ。」
表情に現われていないが、相当お冠である。
どれ位かというと、この短編の存在意義を失くしたくらいだ。
「じゃあ、私も還るわ。」
そう言うとあっさり帰った。まあそう言いつつも、分身を残していったもだが。
場所は城下町。
「…これで後が無くなったな。
おい!こうなったら鍛えさせてもらうぞ!」
「は、ハイ!」
王女は使えるのが1人でも残ってくれてよかったと思った。
触媒は安いものではないのだから。
彼のチートスキルは『スキル略奪』他者からスキルを奪うスキルだった。
さて、城下に移った金髪女性の分身は、前と違って5~7歳くらいの幼女だ。
つまり、非常識な金髪幼女を見かけたら分身であると思えばいい。
そこは畜産用の家畜が一時的に集まってくる場所である。要するに精肉所だ。
つまり屠殺場。
そこに働いているのは数名の奴隷。
その中に黒髪黒目の異界人。つまりは日本人が居た。
彼は能力も低くスキル無しの無能。他の者から蔑まれた上に裏切られて奴隷としてここで働かされている。
助けがなければ、そのまま一生を終える事だろう。
「君は日本人よね?」
いきなり入ってきた幼女が尋ねて来る。
なんだか判らないが、希望も無く失う物もない。ただ静かに頷くのみ。
「日本の方から来ました。拉致被害者さんを助けに来ましたよ。」
そう言うと、奴隷用の首輪をあっさりと壊す。
別に魔法的な何かで縛ってはいないが、普通は首輪を外せない。
「何を…」
「ここで話も出来ないでしょう。場所を移すわ」
そう言って別の場所。亜空間ぽいどこかに移動した。
「ここは?」
落ち着きのある濃紺の文様のある赤い絨毯。高価そうな調度品。中には何処かで見たことのある、なんとかのビーナスもあった。調度品のバランスがオカシイ。
天井の方には高価そうな電装式のシャンデリア。
まるでダンスホールを思わせる広さの、何もない絨毯だけの空間。天井も2階分はある。しかし不思議な事に出入り口は無かった。
「まあ、別空間というか退避空間と言うべきでしょうかね。」
「ふーん。」
「貴方には2つの選択肢があります。
一つは日本に帰る。
二つ目はこの世界で暮らす。」
「帰るの一択だろう。この世界には恨みしか無い。」
「まあ、そうよね。
でもこの世界で暮らすと言うのなら、本来的なチートをあげましょう。」
「何…」
「チート内容は…」
―チート内容を語ると、少年の目は生気を取り戻し、いや復讐者の目をしだした―
「残るぜ。復讐してやる…あのクソ女に!国に!!」
「いい表情ね。でも召喚者も残っているから気をつけてね。」
「…分かってる。」
幼女的には、予習できなかった腹いせも含まれる。
おおよそ99%くらい。
「じゃあ、その他に予習をしたいんだけど良いかな?」
「おお、やってくれ良いぞ!」
「やった!」
さっき拒否られたので、喜んだ。
いそいそとホワイトボードを出し、平均台を出して書き始める。
『こんなにも危険!大人数異世界召喚!』
1.だいたいフラグ管理しきれずエタる。
2.優秀な奴かいじめっ子が良いスキルや能力を得る。
3.主人公が一見不遇か、本来的な不遇スキルや能力。
4.リンチされるか何かして、大勢から離れてソロ活動する。
5.ソロ活動中にチートを得る。
6.復讐または他の召喚者と戦う。またはいじめっ子や優秀な人と戦う。
7.たいていソロ活動の人を好きな、クラスで一番の美人さんが居る。
8.ソロ活動のチートさんは、たいてい奴隷で仲間を増やす。
9.作者が憶えきれないほど名前をいっぱい出す。
10.いk
「もうやめてくれ!」
何か泣きそうな声で彼は言った。
「ん?」
「どっかでありそうなテンプレ一覧を書きださないでくれ!なんか…悲しくなる!」
「大丈夫よ、ここは短編だから1話で終わる。」
「訳がわからないようなメタい事言うなよ…」
「しょうが無いなぁ。
でもぶっちゃけ、目新しいアドバイスが無いんだよね。」
「えー」
「異世界転移と異世界召喚編を見れば良いよ。」
「いやだから何それ。」
「目新しい事といえばそうだ、チートスキルとか壊れスキルってあるじゃない?」
「ええ、ありますね。」
「あればいわば、公式チート。って奴で公認されているレアスキルなわけよ。」
「ふむふむ。運がいいって事なんだな。」
「まあそうね。で対する君のは、世界に認められていない本来的なチートな訳よ。」
「うーん。確かにスキル欄にもなにもないからね。」
「まあどっちもゲームだったらバランスを崩すけど、
「でもまあ、準備に時間がかかりそうだがやってみるよ。」
「苦しいだろうけど頑張ってね」
「おう」
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公式チートスキル VS チート行為
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彼らは5年の歳月を訓練や成長に費やした。
勿論魔族との戦いはある。
だいたい魔王と言っても、魔族という種族の長であるだけだった。
というか獣人を魔族だと言い張って居た。
相手がそう名乗っているのではなく、単純に人間が相手をそう呼んでいるだけで、そして負けこんでいるだけだった。
正しくは獣王なのだろう。現在は百獣王と名乗っている。
そういう事もあって戦争にはあまり関わらずにいた。
公式チートの人は、主に奴隷で
対するチート行為の彼はソロで活動していた。ソロ活動せねばならぬ理由がチート行為であるので仕方ないし、復讐目的だ。
そして遂に、チート行為の彼が復讐に動き始めた。
彼の行動原理は単純だ。
この国、この国の王族に対する憎悪。それ故の復讐だ。
まず彼は神殿を襲った。
神殿が召喚を主導したからだ。
こうして各地の神殿を破壊していくうちに、聖騎士団とも戦う事になる。
戦うとなれば決戦だったが、そこはチート行為。
勝利することが出来た。
目撃者も出さぬように逃げ出せないようにするのが大変だった。
それに対して公式チートは苦々しく思いながら討伐の依頼を受ける。
チート行為は王都に潜入し、神殿を放火。
そちらに公式チートが向かっている最中に王城に忍び込み、王族を殺害しようと戦闘を繰り広げていた。
近衛騎士団を相手にも優勢に戦う。
チート行為が騎士団長と最終防衛ラインで戦っている最中、公式チートパーティーが帰ってきた。
「おい、随分派手にやってくれたみたいじゃねーか」
「…」
返事はない、というか騎士団長と打ち合っている。
(この程度なら楽勝だな。)
騎士団長は公式チートにとっては既に瞬殺できる相手だった。
「おい、おっさん交代だ。俺がやる。」
「ふーーー」
「で、なんで暴れてるんだよ?」
「はっ!理由を聞くのか。他でもないお前が!」
「何?」
「いきなり日本から拉致された。それで無能と罵られ奴隷にされた。
復讐するには、十分過ぎる理由だろう?」
「ハァ?頑張って強くなったんなら、もうちっと愉しめば良い物を。
だが、ここまで暴れたんだ。もう後戻り出来ねーぜ。」
「もとより戻るつもりはないよ。」
「ハァまあ、無能から比べれば強くなっただろうが、公式チートな俺には雑魚に過ぎん!
あの世で後悔しろ!」
スキルを使い、公式チートが彼の心臓を貫いた。
「馬鹿が…」
だが、彼は止まらない。
自爆するかのような爆発攻撃を行う。
「何!?」
若干ダメージは負ったが、回復魔法で即座に回復した。
しかし彼は鎧の傷以外無傷であった。どんな対処をしているのだろうか。
「別に、パーティーの奴と一緒に戦っても良いんだぜ。」
公式チートはカチンと来たのでムキになって一人で戦った。
オカシイと思った。
見えているスキルでは、回復することなど無いのに、彼は致命傷を与えても与えても復活してかかってくる。それどころか、短期決戦が如く魔法を使いまくり、自爆攻撃に似た攻撃をする。
不死身属性?不死?アンデット?
疑問は湧いてくる。しかしMPもMP回復アイテムもだんだんと目減りしていく。
いや剣だけでも問題なく倒せるが回復などでMPをとられるのだ。
とうとうパーティーが我慢しきれずに攻撃を開始した。
連携は強く、圧倒的だった。
しかし自爆するような攻撃に晒されて傷は累積し、MPは目減りする。
騎士団長も参加する。
多分何度も殺した。少なくとも100回は殺した手応えがある。
でも戦いは終わらない。
そして、騎士団長が倒れ死亡。
パーティーメンバーも逃げきれずに倒れていく。
メンバーが倒れる前に逃げるべきだったのかも知れない。しかし殺せる倒しているという実感。
相手が格下である確信。それが彼を踏み留めた。
やはり最後には、公式チートと彼が残った。
「てめえ!一体なんなんだ!!」
回復アイテムもゼロ。MPも空。MP回復アイテムもない。スキルも使い切った。
全身に軽いやけど、利き腕は怪我をして満足に振れず、片足が駄目になっている。倒れたら起き上がれないだろう。
それでもまだ剣術では圧倒しているし、まだ戦えるし殺せる。だが後何度殺せばいいのか。
「何?」
彼の鎧は壊れ、ボロを纏っているだけだ。
ほとんど裸だ。
しかしその体に傷はない。
「お前は殺した!何度も殺した!なんだ!?不死スキルなんて無かったはずだ!不死属性も見れない!」
「おまえのは『公式チート』なんだ。」
「何?」
「俺の剣術も、魔術のいくつかも奪っていっただろう?」
「…」
しかし奪っても戦いは終わらなかった。
弱くはなったがそれだけだ。
「じゃあ、お前はなんだっていうんだ?」
「チート行為だよ。本来的なズルだ」
「本来的なズル?」
「そう、HPとMPが減らない。状態は常に通常。洗脳も封印もできないし地下に隔離しても脱出できる。
どんな傷を負っても死なないし、傷つかない。いや傷ついても元に戻る。」
「なんだと?」
「そういうことを、ワールドプロセスに直接働きかけて行っている。世界に対する操作。」
「なんだそれ!なんだそれ!」
「だから言ってるだろう。チート行為だよ。」
「なんで、それができる!」
「金髪の悪魔に
そして邪魔者は消す。」
「う…くっつ。ま、待ってくれ。同郷の誼だ助けてくれ!」
「もう後戻り出来ねーぜと、言ったのは君だろう。」
「う、うおーーーーー!」
攻撃を一当てして逃げるつもりだった。攻撃、剣が胴を貫いた――が当たった瞬間、その持ち手を押さえる。
そしていつもの自爆攻撃。
もう離さないつもりで何度も何度も爆発を撃ち込み、そして動くなくなった。
「ちえ…スキルは上げ直しか。めんどい」
彼は復讐を果たし、国は崩壊した。
そして魔族…獣人の天下が巡ってくるのはそう遠い未来ではないだろう。
彼は還れず、その世界に居続ける。どのみち現地の人間は見た目が同じだけの違う種族だ。獣人と何が違うと言うのか。
どのみち孤独。
そして、死ぬことの無い彼は世界の終焉まで生き続けるだろう。そうワールドプロセスが停止するまで。
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