こんなにも危険!剣と魔法の世界!~異世界に行ったら、異世界が大変な目に遭った~

 彼は、学校の階段を登っていたと思ったら、何故かどこかの森のなかに居た。

 一体何が起こったのか。

 頭がどうにかなりそうだった。

 

 森のなかで見通せないが獣のたぐいは見当たらない。そこに白い貫頭衣を着た青年が近づいてきた。

「こんにちは、異世界の旅人よ」

 

 一瞬、その青年が何を言ったのかわからなかったが、ここが異世界ではないかと思わせるには十分だった。

 

「驚いている所申し訳ない。

 私は、四聖獣が一。『ビャッコ』と申します。」

「ビャッコ?…もしかして、スザクとセイリュウとゲンブが同僚に居ませんか?」


「おお、異世界の方はこちらの世界に関してご存知なのですね。」

「いや知らんけど、ビャッコときたら他は、まあ決め打ちみたいなもんだし。」


「そうですか。」

「えーとなんだ。俺はアンタに喚ばれたのかい?」


「いえ、違います。予言で異世界からの客人が来るので案内するように。と、云われましたので。」

「そ、そうか。」


 転移させた黒幕は未だ出現せず。と言ったところだろうか。


「案内と言っても何をすれば良いかわかりませぬが

 そうですね、基本的なステータスとスキルについてご説明しましょう。」

 

 

「それは助かるわ」

 

 突然、空気が変わったような気がした。

 ビャッコの後ろには金髪の、5~7歳くらいの少女。いや幼女が居たのだ。

 ただ、その雰囲気は幼女のソレではなかった。

 

「何物…ですか?」

 警戒感MAXと言った所だろう。ビャッコは油断なく幼女を睨みつける。

 

 

「私も彼と同じ世界から来たので、案内を頼もうかと。」

「…予言では彼一人のはず。同じ異世界からの客人とは到底思えない。

 そしてその気配も人のソレではない。」

 

「私は、とんこつラーメンを食べていて、転移の割り込みが間に合わなかったので追いかけて来た。つまり自力で此処に来ましたので。」

「なるほど、向こうの神族か何かですか。理解いたしました。」


 彼は、何かおいてかれているなと思ったが雰囲気が重くて口が出せなかった。

 

「それで、彼を連れて帰って良いかしら?」

「連れ帰る?なぜ?」


「何故も何も、彼は招待状も了承も無く転移させられた、いわば拉致被害者。

 なら、帰還させることの出来る者が帰してあげるのが筋というもの。」

「なりません。彼は予言に告げられた、異世界からの客人にして救世主なのですから。」


「救世主。ほう、異世界に頼らねば世を救えぬと言うのですか。」

「恥ずかしい事ながら、そう言わざるを得ません。」


「勝手なことを。ともかく、彼は単なる被害者。返してもらうわ」

「お断りします!」


 雰囲気が剣呑になっていく。

 いつ殴り合いに発展しても可笑しくはない状況だ。


「あっとえっと…ちょちょちょ、ちょっと待って欲しいいんだけど。」

 

 最後の方になればなるほど、声が小さくなる彼だったが、どうやら割り込みには成功したようだ。

 

「何でしょう?」「何ですか?」


 一斉にこちらを見ないで欲しいと思ったが、そんな贅沢を言っている余裕はない。

 

「とりあえず、帰る帰らないは後にして、僕が何を望まれているのか聞きたいかな―って」

「おお!」

「ふぅ、どうやら随分とお人よしのようね。」


 反応はまちまちだったが、どうやら剣呑な雰囲気は解消されたようだ。

 

「さて、そうすると、こんな森の中でお話もできませんわね。」

「森の中の何が悪いというのだ?」


 ビャッコは森の中というのが安心できる空間のようだ。

 

「…少し場所をしつらえるわよ」


 そう言って幼女が手を叩くと、一瞬にして室内に転移した。

 

 そこは、濃紺の文様のある赤い絨毯。高価そうな調度品。中には信楽焼もあった。調度品のバランスがオカシイ。

 天井の方には高価そうな電装式のシャンデリア。

 まるでダンスホールを思わせる広さの、何もない絨毯だけの空間。天井も2階分はある。しかし不思議な事に出入り口は無かった。

 

「ここは…」

 ビャッコが驚いて周囲を見ている。

 

「単なる亜空間ですわ。世界と世界の狭間とでも思えば良いです。」

「なんとも不思議な感じですね。」


「さあ、ビャッコでしたか。

 客人とは何か、救世主とは何か。答えなさい。」

「わかった、答えよう。


 そうあれは4000年前のこと…」


―――――― あまりにも長過ぎたため カット――――――


「つまり、要約すると。」


 長いこと話を聞いてて疲れたのか、ホワイトボードに要点を書き出していた。

 

 

『異世界への客人と救世主について』


1.予言の時と場所に人間が異世界より来る。そいつが救世主。

2.どんな危機が訪れ、何を成すかは分からないが、客人として遇する。

3.異世界よりの来訪者のため、この世界の常識を知らないので教える。

4.教え終わったら、基本的に放置。


 こんな内容を聞き出すのに、昔話から含めて5時間もかかった。

 少年はすでにダウンして船を漕いでいる。

 

「そういう訳で、常識をお教えしたいのだが。」

「説明が長すぎだ。一旦休憩にしましょう。」


 幼女がパチンと指を鳴らすと、テーブルの上に和食の焼き魚定食(鯖の塩焼き)が二人前出てくる。

「お腹すいたでしょう?食べよ?」


「ありがとう!食べよう。」

 

 勿論ビャッコの分はない。

「あ、あの私には?」


「あ、いるの?」

「いや、できるなら欲しいが。」


 焼き魚のほうをチラチラ見ているようだ。

 

「ふーん。」

 嫌がらせのつもりだったのだろう。

 大きなお皿に、猫まっしぐら、ペテ〇〇ー〇〇〇を、4缶開けてビャッコの前に置いた。

 

「…」

「いや、待て」


 ツッコミを入れたのは、少年の方だ。

「…ごくり。」

「あ、美味しそうなんですね。」


「じゃいただきまーす。」

 幼女は気にすること無く定食を食べ始めた。

 

 ビャッコが…ガツガツ食べているのは見なかった事にした。

 少年は何かツッコミを入れたかったが、ぐっと我慢した。大人に一歩近づいたようだ。

 

 

「ではまず、ステータスオープンと言ってください。」

「ステータスオープン」「ステータスオープン」


 幼女も同じように言ったようだ。

 

「うわ、ステータスが出てきた。」

「出ないわ。当然だろうけど。」


「ぬ、異世界の神族にはやはり干渉できぬようだな。」

「んーまあ適当になんかやってるから、そっちで説明しといて。」


「ステータスだが…」

 ビャッコはRPGの説明書を読むと、だいたいこんな感じかな、という内容を真面目に読み上げている。

 

 なお少年にはチートは無かったようだ。

 お湯をかけたら3分で最強になれるインスタント最強チートは無い。無念である。

 

 

 次に社会的なお話だった。

「さて、街に住むものは大抵職がある。

 職のない者はだいたいが冒険者となって、モンスター駆除などを生業とするようだ。

 まあ遺跡や迷宮探索も冒険者の仕事だし、強ければ儲かる。

 弱ければ生きていくのすらままならない。そういう世界だ。」

 

「なるほど。想定通りだね。」

「さて、一通り説明は終わった。…が、どうやってここから出ればいいのかな?」


「あ、ちょっと待ってね。バッファオーバーフローが成功したんで、管理者権限ゲットしたからバックドア作ってるトコなのよ。」

「???」

 

「っと、ハイ。終わり。

 で、お話が終わったみたいね。

 ビャッコさんはお外に出しますね。」

「まあ、良いでしょう。私の役目は終わった。」


 こうしてビャッコは部屋から掻き消えるように出て行った。

 


「さて…あのビャッコとやら。ただのチュートリアル程度の情報しか落とさなかったね。」

「え?」


「だって、具体的に何をしろって話じゃ無いんだもの。

 そしてそれを受けるとも返事をしていない。」

「あーそういえばそうですね。」


「何をもって救世とするかにも寄るね。

 例えば、貴方がただ死ねばいい。という話なら今すぐビャッコが殺せばいいからそれは無いとして」

「うお…生命の危機があったのか。」


「あーいちおう聞くけど。

 帰還する?それとも救世主とやらやってみる?」

「正直帰りたいです。」


「デスヨネー」

「まあ、チートがあって我儘放題に暮らせるならこちらでも良いかも知れませんけどね。」


「そだねー、じゃあ帰すね。」

「ありがとうございます!」



 帰還処理実行。

 パリパリっと地面に稲妻が走る。




「あ…ダメだわ」

「え?」


「あー転移完了してたのが仇になったわね。」

「え、どういうことです?」


「ただの肉片になっても良いなら、戻せる。

 今のまま強引に帰還させると、なんかこちらの世界に縫い付けてあるみたいで、それを引き千切ると体も一緒に…」

「う、うえええええええ!」


「こりゃ手間だわ。暫く帰れないと見ていいわね。」

「あちゃー」


「さっきのバックドアから貴方のデータ見たけど、管理者権限でもこの世界への係留が解除できない。

 対処するけど、今すぐどうこうは出来ないから今後の生活のことを考えましょう。」

 

 幼女がパソコンを弄りながら言っている。世界のシステムにでもアクセスしたのだろうか。

 

 

「どうしようもないね。暫くはこの世界で暮らしててください。」

「了解」


「さて、どこで暮らすかにもよるけど、たいてい町中か、山奥で隠遁かの二択かな。」

「そうですね。」


「では、町中で暮らすなら。山奥で暮らすなら。の予習をしましょう。」

「ふむ?」


 そうしてホワイトボードを取り出す。

 次に平均台を取り出す。

 幼女は平均台の上に乗って、書き始めた。

 

(なぜ平均台…いや左右移動はしやすいだろうけどさ)



『こんなにも危険!剣と魔法の世界!』


1.異世界にありがちな魔王が居るが、たいていは大魔王がバックに居る。

2.というか魔王と恋仲になる。

3.勇者側が敵になる。むしろ自分たちが人類の敵に。

4.最初に美女と出会って、なんだかんだあって恋仲に。

5.奴隷市場で美女に出会って買い取ってにゃんにゃんする。

6.奴隷市場で、いろいろ不具で火傷で呪いで酷いけど買い取ってから、チートで治す。その後、奴隷ハーレムを作る。

7.現代の知識を使って銃器で無双する。

8.スキル略奪系のチートで、スキルを集めて無双する。

9.道中、偶然たまたま襲われてる馬車を助けると、王女様で、流されるように行動して結婚したり建国したr


「ななな、なんじゃこりゃーーー」

「お?」


「なんてすかコレ!予想?予知なんですか?」

「ツッコミが遅かったね。9行目まで来ちゃってたよ。ネタが無くなるかと思った。」


「一体何の事ですか?ツッコミって何!?」

「さあ、思う存分ツッコミを入れるがいい!!」


「…だが、断る!」

「なん…だと…!」


「お前は悪魔か!ツッコミを…ツッコミを入れないなんて!!!!」

 幼女が涙目上目遣いで懇願する。その願いを聞き届けない事があるだろうか。


「いや、そこまで…いや泣くほどの事じゃないでしょう。」

 が…駄目。


「うううう無念」

「いや…あのね。」


「…初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは…」

「いや戦闘力53万の方の真似はいいので。」

 

「いやチラチラ見てもツッコミは入れませんからね。」

「ちっ…」


「ツッコミ入れてくれないから不機嫌である。」

 とか言いつつ、ホワイトボードを裏面にして書き直す。


「まずは『1.関所料金/入関税』」

「うん?ああ、確か戦国時代というか江戸時代にも関所あったからね。パスポート代わりの割符とか無いと入れないんだっけか。」



「行商人とかは、通行許可。こういったモンスターの多い地域でも、外出許可とか入関許可とか町に入るには入町許可?とかありそうね。」

「そういえば、犯罪歴を調べるオーブとかあったっけな?なんか手をかざすと、分かる的な。」


「それな、むしろ現代社会でも通用するハイテク機器だとおもうよ。」

「あー確かに。」



「とりあえず犯罪歴があれば隔離って法案通す自信があるよ。」

「え、政治家に知り合いでも?」


「なんとなく言っただけだけど、まあそんなモノがあるなら犯罪率がグッと下がるね。」

「確かに。遠くの国に行っても犯罪からは逃れられないしね。」


「むしろ無法者の国が出来るレベル。」

「ともあれMMOでの犯罪フラグ管理レベルのモノに世界的に監視されているとなれば、相当なシステムだね。世界」


「ああ、世界的な制約になるのか。」

「むしろMPKの扱いが気になる。」


「MPK…確か、モンスタープレイヤーキラー…だったか、」

「モンスターに殺させる系とかだね。他にも過失致死とかもあるし、完全な運とかもあるし、何が罪になるのかは法律じゃなくてシステムが判断するようになる。」


「ああ、法律じゃ無くなるのか。」

「どのように罰するかまでは違うかもしれないけどね。」


「そこまでやると、運営側システムがGMみたいな裁くモノを創りだすかもしれないね。」

「犯罪歴が見れるだけで、世界観がだいぶ変わるんだね。」


「そうね。そこまで運営側システムが見張っているとは思えないけど、見張っているとしたら大変そう。」

「なんか謎の閉塞感に苛まれそうだ。」



「んと、次は『2.冒険者について』」

「なんかモンスターを狩るとか言ってたね。」


「そもそもモンスターって何って話だけどね。」

「害獣に、なんか魔法的なモノが付与したりするとかじゃないです?」


「よく魔石が入ってる奴がモンスターとか魔物とかいう設定もありますね。」

「魔石って何よって話だけど、まあ石炭みたいなモノだとおもっておけばいいか。」


「石炭…」

「単独で電池みたいな働きをするのか、または石炭みたいに燃えるのかによって、色々異なるからね。とりあえず知っている概念のモノに置き換えるほうが理解しやすいよね。」


「そのまま魔石っていう便利アイテムでも問題ないですよ。」

「…はっきりしないのが、なんか気持ち悪いよ。…と、とりあえず、頻繁に現れる害獣とでも思っておけばいいのよ。」

「それくらいしか無いか。」


「で、冒険者だからランクとかがあって、指名依頼とか色々社会に貢献するようなモノとか、予備兵力扱いされるとか、まあそんなとこ?」

「ですかね。」


「ありがちなのは、高ランクだと指名依頼がある代わりに、ギルドが後ろ盾になるって話だけど…」

「むしろ指名されたくないので低ランクのままの方が良いよね。」


「確かに。」

「高ランクになると名声も上がりそうだけどね。あれよ、趣味でモンスター狩ればランク気にせず暮らせるんじゃない?」


「趣味でモンスター狩りとかするのか。」

「ランクにどれだけ魅力があるかによるかもね。」


「強制徴収も低ランクなら免除だから、低ランクのほうこそ有難そう。」

「なんでみんな上目指すんだろう。」

「なんでだろう?」


 二人共自己顕示欲が無いので結論は出ない。



「冒険者については世界によりけりな所があるから、とりあえずこんなもん?」

「えーと、登録時にステータス見られちゃうとかあるんですかね。」


「あーそれはなんかありそう。

 でも個人情報漏洩じゃないけど。冒険者の特性や弱点を、受付の人が全て把握しているのも問題かも。」

「守秘義務っていうのがあるんじゃないですか?」


「人の口に戸は立てられないのよ。

 口が固かろうが、賄賂以外にも色々な手段があるのだから。」

「そうか…知らないほうが良いのか。」


「だからステータスは受付で把握させてはいけないと思う。

 把握されるくらいなら登録はしない方がいい。」

「なるほど、そうですよね。」


「なのに、何故ステータス見られてまで冒険者になろうとするものが居るのか。不思議ですね。」

「この世界は初めてでは?」


「前にも頑なに冒険者になろうって人が居たのよ。」

「あ、そうですか。」



「さて、次行こうか次

 『3.奴隷について』」

「奴隷…ですか。」

 

「恐らく、私達のイメージとこちらのイメージでは違うかもしれないけど

 色々な種類の奴隷が居るはずね。

 犯罪奴隷とか、借金奴隷とか、待遇に差のある奴隷は居たはずよ。」

「は、はぁ…」


「その人身売買について、どこまで許容しているのか。という問題があるわね。」

「どこまで?とは?」


「大昔のギリシャとかでは、借金のカタに自分自身を売り出して、まあ最終的に買い戻すなどもあったわけよ。」

「はぁ」


「そういった財産的な奴隷は最低限保証された生活ができたわけよね。まあ従順でなければ、鎖に繋がれるのでしょうけど」

「まあ、今居ませんからイメージだけになりますものね。」


(社畜は奴隷のような気がするが…)

 少年は疑問に思ったが、口には出さなかった。


「人種差別的なものもあるわ。例えば、ある種族は奴隷にはされない。奴隷になるのは別の種族だけ。とか。

 ある種族は奴隷以外にはなれないとか。」

「種族的な待遇の差があるかもしれない訳ですね。」


「人間同士でもカースト制とか作っちゃうからね。ましてや完全に種族が違うとなればねぇ」

「酷い現実があるわけだ。」

 

「例えばだけど、ドワーフの国では人間は奴隷しかないとかだと、町に行った瞬間捕らえられて売りに出されるわけね。」

「ギャーーー。それは危険だ!」


「あーちなみに、働けるのに働かない者は奴隷になるという法律が昔あったそうだよ。」

「すごいなニート絶滅じゃないか。」


「まあ、街に入る前に奴隷になってない人間が居ること事を先ずは確認するのね。」

「怖い。やはり山奥で隠棲すべきか。」


「でも、奴隷買ってにゃんにゃんしたいんでしょう?」

「お子様がそんな事をゆう…言うもんじゃない!」


「見た目通りの年齢じゃないんだけどね。」

「しかし…倫理的に…ううむ。」


「で、にゃんにゃんしたいんでしょう?」

「…こだわるね。したくないと言えば嘘言になるけど。」


「私も獣人猫娘とか買ってにゃんにゃんして、犬系獣人買ってもふもふしたい!」

「そっちか!!」


「え?そっち?ってどっち?何?」

「あいや…」(やべ、藪蛇だったか。)



「まあ、いいわ。

 『4.銃などについて』」

「銃によるチートはロマン!」


「黒色火薬がちゃんと爆発するかどうか。わからないけどね。」

「どういうこと?」


「火薬の爆発は要するに一気に酸化する化学変化によって引き起こされるけど、

 ソレを世界的に抑制している可能性があるわね。つまり魔法よくわからないこと的な何かで。」

「つまり銃が使えない可能性があると…」


「銃の概念は使えるけど、火薬が無理とかね。

 そもそも硝石とかが見つからないし存在しない可能性もあるわね。」

「なるほど…」


「まあ息してる時点で酸素はあるわけだから、そんな事はない筈だけど、世界システムとして抑制している可能性があるわね。」

「流石異世界。訳のわからないことをするな!」



「次!みんなだいすき『5.アイテムボックス』」

「四次○ポケットですね!」


「コレがあるだけで、エントロピーの増大が防げます。魔法少女涙目」

「え?どういうこと?」


「エントロピーというかね。熱力学的に力は常に目減りしている訳だけど、永久機関を超える高効率。1の労力で100も1000も仕事をこなせるなら、それは無尽蔵にエネルギーを発生させているという事。」

「お、おお?良くわからないけど、小さな力で大きな可能性だな。」


「例えば、この置物を、1m上に持ち上げる仕事量と、1m下に落下する仕事量は等しいわけよね?」

「手で持ち上げると色々ロスはでるけど、そうですね。」


「じゃあ、この置物を何の労力もなく100m上まで持ち上げて、落とせば、どれほどの仕事効率になるのか。」

「すごい高効率ですね。…でもアイテムボックスとは無関係では?」


「この置物を、アイテムボックスに入れて、100m上から落とす。この時、自分が移動した労力だけかかりますよね。」

「!!!

 そうか!アイテムボックス内の上下移動は物理法則無視なのか!」

 

「というわけで、アイテムボックス自体がチート。」

「すげえ…って事はこの世界にもアイテムボックスが?」


「さあ?どうなんでしょうね。」

「あると良いけど。まあ無いなら無いでいいか。長く居続けるわけでもないし。」


(というか、この空間はどういう仕様なんだろうな。)



「とりあえず、私からは以上よ。」

「僕も思い浮かばないかな。」


「じゃあ、実践編ね。」

「ういっす。」


「あ、戦いはなるべく避けるけど、私はやたら強いから逃げずに私の側にいてね。」

「う、ういっす。」(いや、この空間作り出しているだけで強さは計り知れないよ…)



▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


剣と魔法の世界 実践編


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△


「で、森のなかなんだけど、町はどっち?」

「分かるわけもなく。」


「ちょっと待ってね。」

 そう言うと幼女がジャンプした。

 

「ジャンプした瞬間が見えなかった。そして突風がわりと緩やかだった。」

 そんな事を言っていると、すとん…ではなく、ドスンと降りた。

 

「めり込んだ…」

 幼女は首だけを残してめり込んでいた。

 

「えっと、どうすれば。」

「まあ大丈夫。」


 普通に歩いて出た。周りの土は単なる障害物か何かのようだ。

 

「あっちの方に町があったわ。」

「ふむふむ。」


「近くの街道まで時速5~6kmで歩いてだいたい5日くらいかしら。」

「オワタ…」


「仕方ないなぁ。」

 そう言われると、少年は幼女に抱えられる。

 お姫様抱っこ状態である。

 

「え、え?ハズカシーーー」

 

 次の瞬間、あまりのGで気を失った。

 

 

 気がつけば街道に辿り着いていた。

 

「うう、一体どこだ。」

「街道まで出たわ。町まではあと歩いて1時間って所かしら。」


「うーん。ワープした気分だ。」

「さあ、ここからは歩いて行きましょう。」



 暫く歩くと、お約束。

 馬車が盗賊に襲われていた。

 

「素晴らしい。早速イベントね。」

「で、どうするんです?」


「イベントはスルーよ。」

「み、見捨てるんですか?」


か弱いさいきょうな私に戦わせるんですか?」

「見た目はそうですね。確かに目立つのはいけない。」


「じゃあ、避けて行きましょう。」

「うう、なんか罪悪感があるなぁ」


「あれは人間じゃないわ。人間のような姿をした、異世界の住人よ。」

「いや、それでもほら…あるじゃないですか。」


「確かに子犬が轢かれそうになったら助けますか…」

「あ、そういう感覚なんですね。」


「仕方ないので、盗賊さんを消すことにしますね。」

「え?」


 パン、と手を叩くと、盗賊が崩れ落ちる。

 一体何をしたのか。

 

「え?なにどうしたの?」

「盗賊を殺しただけだよ。さあ、行こうか。」


 (マジ人外なんだな)

 改めて無茶苦茶っぷりに驚愕する。

 

 右往左往する馬車を尻目に、町に向かう。

 その途中、盗賊を縄で縛った馬車が追い抜いて行ったが。



 そして、門に入ろうかと言う時。

「銅貨6枚だよ。」

「…あ、カネが無いのか」

「あー」


 結果的に町に入れなかった。


「あの…もしかして、あの馬車を普通に助ければ入れたんじゃ。」

「…」


「信じたくないけど、イベントって奴なんですかね。」

「…なんてこった。」


 ハァと溜息をつく。

 城壁の側で野営の準備を始めつつ、そんな雑談をする。

 

 夕飯どうしようか―、寝床コレでいいのかなぁとか言いつつその辺の木とか草を使って仮初のテントを作っていると…

 

 何か門から十数人の男たちが出てきた。

 黒いでかい馬車も一緒だ。

 

 そして、わざわざこちらの野営地前で止まる。

 中から高価のように見える服を着た男が出て来て言った。

 

「報告に聞いていたが、素晴らしい。」

 二人は怪訝そうな顔で様子を見ている。

 

「金もない乞食だが、その娘は美しいな。私の奴隷には相応しい。」

「あ?」


 一気に不機嫌になる幼女。

 (馬鹿な!何を言ってるんだ!貴族だかなんだか知らないが!!)

 

「男はいらん殺せ、娘は傷つけずに捕らえよ。」


(自分ピンチ!でもなぜか命の危険は感じない不思議!)


 幼女は近づく男を無造作に掴むと壁に投げる。

 得も言えぬ軽い音がしたと思うと、壁には赤い絵の具が叩きつけられたかのような跡が残る。

 

「なんd」

 最後まで言えなかった。

 十数人+高価そうな服を着た男も壁の赤い花になる。

 

「やはり治安が悪いわね。」

「ははは…」(やはり神族?だったかを敵に回すのは愚か者だよなぁ。)


「そんな事より、この馬車を改造して寝床にしましょう。」

「いや、こんな門の近くで騒動起こしたら、追われるんじゃ…」



 近くでソレを見ていた門兵達が騒ぎ出す。

「りょ、領主様が!」


「おや?」

「もしかしてヤバイ?」


※注意:異世界に来た当初、チート持ちは極力目立たないようにしましょう。いきなり目を付けられます。



「領主様が殺されたぞ!」

「あーでも領主様が拉致とか奴隷狩りするのは良いんだね。」


 門兵の物言いにツッコミを入れるが、勿論聞いてない。

「全員動員しろ!囲め!!」


 しばらく推移を見守っていたら、ものの見事に包囲される。

「逃げたほうが良かったんじゃ…」


「お、お、大人しく縄に付け!」

「面倒ね、ひれ伏しなさい」


 そう言うと少年を除きひれ伏す事に。

「そういや領主って言ってたわね。領主の館に案内しなさい。」


「え、いや…その」

 反論を言ってた者はそのまま倒れて動かなくなる。

 

「貴方は案内出来るわよね?」

「は、はい!案内させていただきます!!」


「ど、どうなっちゃうんだろう。」


 領主の館に入り、適当に制圧。

 客間を占拠してしばらく住む。

 

 すると、近くの領軍がやってきて、かの幼女を排除しようと試みるも失敗。

 次に最上位クラスの冒険者がやってきたが全く話にならなかった。

 

 国から数万クラスの兵が送られて来るも失敗。

 大敗を喫する。

 

 世界は暗雲に包まれたかのように恐怖に駆られるようになった。

 


※注意:神や悪魔からみて人間は蚊とか蟻くらいの感覚しかありません。殺しても何の呵責もなければ、何の痛痒もありません。

 もし神と対峙することがあっても、そういうものだと割りきりましょう。

 

 

 そしてある日。

 

「やっと解除できたわね。」

「え?」


 少年は最早所在なく、料理を作ったりゴロゴロしたりするだけの生活になっていた。


「最初に言ってた、帰還するためのロック外し。」

「ああ、そんなような事ありましたね。」


「じゃ、帰るでいいのよね?」

「むしろ残ってたら殺されるよ…」


「じゃ、そこのメイドさん。この子が帰るから、私も帰るね。バイバイ!」


 こうしてあっさり二人は帰還する。


 そして世界は安寧に包まれるようになる。

 この事変は少年が幼女を説得して帰還するというお話になり。結果的に世界を救ったという事になった。

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