こんなにも危険!悪役令嬢転生!~ここが乙女ゲームじゃなくて、戦略シミュレーションゲームだった件~
「アイリーン!貴様との婚約は破棄する!あとは咎人として裁かれるのを待つが良い!」
王都郊外にある貴族学校の食堂で、王太子がその婚約者に対して宣言した。
昼食の終わった後であるとはいえ、かなりの人数が残っている。
王太子の後ろには快活そうな娘が隠れている。浮気相手のあの娘かなと、アイリーンは思った。
他に、宰相の息子。騎士団長の息子。宮廷魔術師長の息子なども今回の糾弾に加わっているようだ。
「殿下、いきなり詮議もなく突然の宣言。いったい如何なる仕儀でしょうか。」
「証拠は上がっているんだ、貴様は追放だ!!大人しく裁きを受けるが良い!」
そこではない場所、遥か別世界の彼方からそれを見ている者が居た。
そんな乙女ゲーの断罪でありがちなシーンを、黒いゴシック調のでかい部屋で、女性が二人見ている。
女性の一人は、左前の白い着物を着ている一般人ぽい容貌。髪の毛を少し茶色に染めているようだ。
そして今一人は背の高い長いストレートの金髪女だ。しかし胸は慎ましやかであるようだ。
「うわー、すごいマジモンだよ。わくわく」
なぜ、このような事になっているのかは、数分前に遡る。
茶髪に染めている彼女は溺れ死んだ。水死という奴だ。
しかもただの水死ではない。車ごと落ちて、死んだ。
ゆるやかな下りの続く左カーブだったので、何時もよりスピードが出ていた。
そのカーブが急に目の前で直角に折り曲がっていた。
折しも、前の事故でガードレールが外れ、細いロープしかかかっていなかった。
ブレーキを慌てて踏むも間に合わず、あえなく崖の外へ。
そのまま海へ転落して、沈む車体に慌てるも外にも出れず、そのまま浸水し死亡する。
間違いなく死んだと思ったのだが、気がついたら黒基調の部屋に居た。
調度品はあまりなく、落ち着いた感じより暗い感じがする。
ここはあの世だろうか。または審判を受ける部屋だろうか。
「おお、しんでしまうとはなさけない。
そなたに もういちど きかいを あたえよう!」
「え?」
「いや流石に死んだっぽいから生き返せないけどね。」
「あ、ハイ。」
気がつけば背の高い金髪の女性が居た。ワインレッドのドレスを着ている。
「さて、普通なら輪廻転生に向かうところだったんだけど、
なんか、転生先を指定するような干渉を受けたんだよね。」
「はあ、そうなんですか?」
興味が無いというよりは実感が無いのだろう。
「指定を見ると、この娘の息子になるように調整されているみたい。」
謎空間に画面が映し出される。
丁度昼食が終わったところのようだ。
「TSかぁ、仕方ないけどがんばろう。」
「とりあえず、音声出るけど。昼食が終わって一息ついてるだけで面白いシーンじゃないね。」
「まあ仕方ないね。しかしなんで、指定転生なんだろうねぇ。いちおうキャンセルできるけどどうする?」
「あ、キャンセルできるのですね。」
「まあね。」
「しかし見るからに上流階級なので悩みますね。」
「まあ裕福そうではあるね。」
「ん?なんかはじまった?」
「なんか顔の良い、育ちが良さそうな男が…四人と女性が一人か」
「んーなんか見覚えが。」
「ちょっと音声入れてみるね。」
「あ、お願いします。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
補足:「」はゴシック調世界。『』は画面の向こうの音声です。
―――
『お前の悪行もここまでだ!』
真ん中の男が言った。
「んーー?んん?」
『皆様お揃いで一体何事ですか?』
『おまえがクレア嬢を虐めていたことは、もう皆知っていることだ!』
『さて、どなたの話をしているのでしょうか。』
『しらばっくれるな!』
「修羅場だ修羅場!わくわく」
「趣味は悪いけど、他人事だと…あれ?親の事になるから他人事じゃないのかな。」
『クレア嬢に対する暴言の数々。』
『教科書やノートを破いたりもしたね。』
『暴漢に襲わせやがったな!黒幕だってことも証拠が上がってるんだ!』
『極めつけは階段から突き落とした。これが決め手だったね。』
男たちはこれでもかと畳み掛ける。
『もう我慢の限界だ!』
彼女―アイリーン嬢―は、ぽかーんとした表情で見ていた。
そして冒頭のシーンに戻る
『アイリーン!貴様との婚約は破棄する!あとは咎人として裁かれるのを待つが良い!』
『殿下、いきなり詮議もなく突然の宣言。いったい如何なる仕儀でしょうか。』
『証拠は上がっているんだ、貴様は追放だ!!大人しく裁きを受けるが良い!』
「うわー、すごいマジモンだよ。わくわく」
「アイリーン…そしてクレア嬢!?もしかしてオルディハイド王太子?だったりするの?」
「知っているの?」
「もし私の知っている通りなら、これは
【遙かなる帝国~フェアリーガーデンの花々~】
とかいう乙女ゲーの主人公と悪役令嬢だったはず…」
『突然の宣言ですが、この婚姻関係は政略によるもの。ご勝手に進められるようなものではございませんが。』
『すでに父…陛下に話は通っている。』
『まぁ…』
「んで、ここで国王陛下が出てきて、陛下自ら裁いてしまうんだよね、確か。」
『そうだ余がその罪過を確認し、婚約破棄を認めた。
まさか、このような悪事をしでかすとは、見損なったぞアイリーン。』
『待って下さいませ、私が虐めたとはどのような証拠を以ってしての事でしょうか。』
『しらばっくれるのか!この毒婦めが!』
「乙女ゲームって…つか公衆の面前で断罪とか公開処刑?」
「似たようなものですかね。」
『すでに証言証拠共に、御前裁判にて提出済みである。』
『被告抜きで裁判だなど、一方的過ぎやしませんか?』
『未だに罪を認めず、見苦しいにも程がある。ひったてよ!』
「うわー。超横暴。」
「まあ専制君主だからねぇ。」
『なんだお前たちは。私に楯突くつもりか?』
「ん?なんだろう。乙女ゲーだった時こんな展開は無かったけど。」
一見熊のような体型の大男。そしてがっしりとした針金を束ねたかのような筋肉隆々の浅黒い肌の男が立ちふさがった。
『殿下、私が虐めるなど。
確か、悪言雑言に器物損壊、暴漢手引に傷害…でしょうか。
なぜ私がクレア嬢にそのような事をしなければならないのですか?』
『はっ、嫉妬からではないか?
お前と違って愛らしいクレアに嫉妬し、そのような犯行に』
『嫉妬?なぜ嫉妬しますの?』
『婚約者である私を取られたくなかったからだろう?』
ふふんと勝ち誇ったかのような態度を見せる王太子。
『はぁ…愛妾にでもすればいいものを。
別に私は貴方を好きでも愛してもおりませんよ。
で、そんな私が何故嫉妬するのです?』
「なんか風向き変わった?と言うか、王様空気だね。」
「あ、マジだ。王様空気だ。」
『な、何を。愛なくしてなぜ婚約を』
『政略結婚って意味ご存じですか?それとも知らなかったのです?』
『政略結婚がなんだというのだ。私の寵がなければ生きていけぬくせに!』
『あーまあ婚約破棄するというなら、陛下の了承も得ておりますし良いでしょう。婚約破棄は了解いたしましたわ。』
『ふ、ふん。だがこれで、真の愛を貫けるというものだ。
現時点を以ってクレアを私の婚約者とする!」
「真の愛!だって!」
「うわー、ないわーナイナイ。」
『さあ、邪魔をするならお前たちも同様に引っ立てるぞ!どけ!』
『退きませぬ。』
『ええい、衛兵よ一緒にと』
『殿下。』
『なんだ?まだ言いたいことがあるのか?あるならば牢の中で喚くが良い。』
『いえね、私が虐めた―と、そう仰るわけですが、私が虐めたと言うのなら、随分と温いのです。』
『な、何を言っているのか』
『虐めるとなればこのくらいはしませんと。』
アイリーンが指を鳴らすと、一般生徒の方から何か礫のようなモノが、王太子とクレアに投げつけられる。
「おお!?」
「え?なにこの展開」
王太子とクレアは被弾。王太子は手を。クレアは首に被弾し、緑色の液体が飛び散った。
『な、嫌がらせか…ぐっ』
『ひ、いた、いたいたいたいた痛い!!!』
急に苦しみだす王太子とクレア。
『一体何を!』
『てめえ!!』
取り巻きがにわかに騒ぎ出す。
『それは、傷口からだんだんと耐え難い痛みを全身にひろげ、2時間ほどで死に至らしめる毒ですわ。』
『な!王太子を暗殺するなど!?』
『ええい最早大逆罪は明白。ひっとらえよ。』
『鎮まりなさい!
解毒薬が要らないというのですか?』
『な、解毒薬だと…』
『ここにほら…一人分ございますわ。飲み薬ですので、残さず飲めば解毒されますわ。』
『は、早く渡すのだ。』
『渡すのはかまいませんけれど…どちらがお使いになるのです?』
『き、貴様は悪魔か!もう一人分解毒薬を出すのだ!』
『ふふふ、ございませんわ。まあ、我々はすでに予防薬を飲んでおりますから、平気ですが。』
『さあ、王太子殿下。この机の上に置きます。よく考えてお使いください。』
『考えるまでもない、王太子とその婚約者では、王太子の方が重い。はやく解毒薬を使うのだ。』
王が即座に口を挟んだ。
『で、殿下。痛い。痛いですぅ』
解毒薬を取った王太子は、クレアを見て心が揺れた。
「すげー展開。燃えるね!」
「悪魔の選択ですかね。こんな展開…すごすぎる!」
別世界の部屋では、修羅場が新しい局面を迎えて興奮していた。
『わ、私は…クレア無くして生きてなど行けぬ…
クレアよ、これを飲み生きよ!
そしてあの毒婦を討つのだ!』
『で、殿下!!』
ほかの取り巻きも感涙したのか、アイリーン達を放っておいて劇空間を創り出していた。
クレアはその薬を持つと…
なんの躊躇もなく飲み干した。
「飲みやがったーーーー!」
「うわっ飲んだ!」
「『私も殿下が居ないと生きていけません、殿下がお飲みください!』とか言って譲りあうと思ってた!」
「すごいね、このクレアちゃん、やっぱ逆ハー狙いだったのかな。」
『強く、生きろよ…』
取り巻きも感涙して動きはない。
『アッハッハッハッハッハ。』
アイリーンは腹を抱えて笑った。というか笑いしか込み上げてこない。
『貴様!諸悪の権現のくせに、何が可笑しい!!』
『可笑しすぎるでしょう?考えても見なさいよ。』
文句を言ったのは宰相の息子だった。
『何?』
『いい?王太子殿下はご自分の命よりも愛を選んだ。素晴らしいと
そこな女は直ぐに解毒薬を飲み干した。』
『それが、何だというのだ!』
今度は王太子が毒の苦痛で大変だろうに応えた。
『ふふふ。もし、同じようにその女も殿下を愛していたのなら、同様に
「ああ、殿下。私もまた殿下の居ない世界で生きている意味はありません。
殿下には王族としての御役目も…ですから殿下こそが生きてください!」
と、譲りあうのが、真の愛とやらではないのですか?』
『なっ…』
『ふふふ。哀れな殿下。その女は愛より自分の命のほうが大事だったようですわよ。』
『ち、違います!私は…そんな。
い痛くて何も考えられなかったから!思わず飲んでしまったのです!!
殿下が失われると知っていたら飲みませんでした!』
『ク、クレア!』
『さて、殿下。実は謝らねばならないことがあるのですが。』
『ふん、この期に及んでなんだ?死に逝く私に何か手向けでもあるというのか?』
『いえ、実はその毒。ただ苦痛を与えるだけで死ぬような毒ではありませんの。
死ぬというのは嘘ですわ』
『な、何!?真か?』
死なずに済む。それを思って、希望の声が出た。
『ええ。
でも…殿下の心には一抹の不安。しこりが残ったはずですわ』
『なんだと?』
『「もしかして、クレアは自分と同じほど、私を愛していないのではないか。」と。
これから先、寝る前。口付ける時、愛を語らう時。ふとした瞬間、この私の言葉が思い出されるのです。』
『!!!』
『これが、「虐める」という事ですわ殿下。いかがでしたか?真の愛とやらを試された気分は。』
『ああ、最悪な気分だ。』
『もし私が本気になって虐めたとするなら、愛を試され、友情を試され、今頃はズタボロの友情と愛しか残っていない筈ですのよ。
よって、私が何か虐めをしていたという事実は無いと言うこと。
ご理解頂けましたでしょうか。』
『ぐ…』
『もう茶番はよかろう。』
ここで外部からの声。今まで沈黙していた王が口を挟んできた。
「いやアンタを含めて茶番だと思うわ。」
「確かに。」
なお、二人はポリポリとポテチを食べながら観ていた。
『アイリーン。お前が虐めていたかどうかは最早どうでも良い。
良くはないのかも知れぬが、今、まさに目の前で王族を傷つけ侮辱した罪。どう償うつもりだ?』
『さて、私は証明をしたまで。』
『戯れ言を。もう十分だろう。衛兵。邪魔するものを含めひったてよ。』
しかし誰一人動かない。
『どうした?はやく引っ立てよ。』
再度王が命じるが動かない。
『陛下…何故、近衛兵が200人程度で来てしまったのですか?
例え王都の近くであっても、王都の外ですのに。』
『何が言いたい?』
『近衛兵の皆さん。王と、そこな王太子一派を捕らえなさい。』
アイリーンがそう命じると、即座に捕縛が完了する。
『や、やめよ!お前たちやめないか!』
王も王太子も取り巻きも抵抗するが数の暴力の前には無力だった。
『どういうことだ!!アイリーン!』
『どうもこうも。
近衛兵のうち、私の影響下にある者を150ほど連れて来ていましたし、ここは王都郊外。城に詰めている近衛を呼ぶにしても
少し遠いです。』
『影響下だと?貴様ー!貴様が一体何をやっているのか理解しているのか!』
『理解しておりますわ。
所謂、クーデターという奴ですわね。』
『こんな事をしてタダで済むと思っているのか!』
『タダで?いえいえ、たんまり頂く予定ですわよ?』
『な、何をするつもりだ。
余を害した所で、王国は貴様のものにはならぬぞ!』
『なりますわ。
と言いますより、王が最後でしたので。
しかもこんな警備の薄い所に私の兵を引き連れて来ていただくとは。
豚が鉄鍋背負ってやってきたような気分ですわね。』
『だが余を捕らえた所で、城に詰めている近衛3000は黙っておらぬぞ。』
王が敵意を剥き出しにしたままアイリーンを睨んでいると、生徒がアイリーンに近づいていく。
『
『そう、ではそこの子らも連れて行きなさい。ああ、王太子とあの女は残してね。』
『はっ!』
『な、何を!離せ離せ!!』
取り巻きは引っ立てられて連れて行かれた。
『貴様…どこまで計画したのだ。』
『ああ、安心してください。
陛下を殺すことはありませんよ。ただ権力の全ては頂きます。』
『何!?』
『クマ!トラ!陛下と領兵を連れて王城に。即座に近衛兵の解体を行ってください。』
『はい!』『はっ!』
近くに侍っていた、良く見ればクマっぽい男とトラっぽい男が元気よく返事をすると王を引きずって出て行った。
『まさか、まさか本当に謀反を起こすつもりなのか!!!
おのれ!おのれーーーーアイリーーーー―ン―!!』
「すごい展開!クーデターだよクーデター!」
「乙女ゲーのバッドエンドにもこんなの無かったよ。どうなるんだろう。」
『さて、殿下。まずは謝ってください。』
『な、何を謝るというのだ。この謀反人め!』
『浮気。したでしょう?』
『ハァ?お前との婚約は解消された。謝る云われはない!』
『相当お馬鹿なのですね。
婚約が解消されるまでの間に浮気していた件について謝れと言っているのです。』
『誰が謀反人なぞに謝るか。』
『はぁ、そうですか。おい。その女にその棒で打ち据えよ。』
アイリーンは王太子とクレアを捕らえている兵に向かって、そう命じる。
勿論、迷わずそれは実行された。
『ギャ。いた、痛い!』
『おのれ!何をする!?』
『浮気したでしょう?謝って?』
『悪いのは私だろう、何故クレアを叩くのだ!』
『悪いのは、お二人共ですよ。何を言ってるんですか?ほら、続けなさい!』
『ま、待て!謝る!謝るから!』
『ではさっさと謝ってくださいな。』
『…っ
申し訳なかった。』
『ふん。まあ良いでしょう。
で、貴女も。人の婚約者に手を出した件。謝りなさい。』
『…いたい。いたいよ。』
『その女を打ち据えなさい。』
『な、私を叩くのではないのか!?』
『ギャー。痛い痛いです!あや、謝るから!!』
『だって殿下。その女は愛より自分の命が大事なのですもの。殿下を打ち据えた所で堪えるとは思えませんわ』
『ぐ…』
『で?』
『ご、ごめんなさい。』
『ふん。
じゃ、王太子をお部屋まで案内してあげてくださいませ。』
『はっ!』
兵士が返事をすると、王太子はこちらをチラチラ見ながら去っていった。
『その女は、そこの柱に縛り上げなさい。』
『はっ!』
『それで、二人にしてくださるかしら。』
『了解いたしました。お気をつけ下さい。』
「今の、謝らせる意味あったのかな。」
「アレは、二人の仲に亀裂をいれるだけの遊びだったんじゃないかしら?
正直敵に回したくはないわね。」
「でも、アレがあなたの母親に…」
「ああ、そうだった。み、味方だよね?」
『はじめまして。転生者さん。』
『!!!
やっぱり、アンタも転生者だったのね!』
『いやー、実に順調にイベントをこなしていたので、クーデターのタイミングが掴みやすかったですわ。』
『この断罪イベントをクーデターに利用したと言うの!?』
『だって、わざわざ王様がこんな防衛力の無い所来てくださるんですよ?
千載一遇の機会だと思いません?』
『アンタは…追放されるのが嫌でクーデターなんかを。それだけ王子を取られたく無かったって事?』
『何を馬鹿な事を。
だいたいこれから先の事を考えれば、追放されたほうが幸せだというのに』
『ハァ?追放された方が幸せって、何を言っているの?』
『あぁ、貴女。乙女ゲーの方だけしかやってないのね。』
『は?え?どういうこと?
もしかして、続編があるっていう事なの?』
「ちょ、乙女ゲー以外になんかあったの?えろげ?」
「ちがうわ…っは!そうか!
【遙かなる帝国~蒼き狼の咆哮~】これがあったわ!」
「え、何、蒼き狼の咆哮って…なんか復讐でもするお話なの?」
「違うわ。」
『【遙かなる帝国~蒼き狼の咆哮~】
戦略シミュレーションゲーム。戦争のゲームですわ』
『は?え…』
「戦略シミュレーションゲームだと…」
「ええ。」
『フェアリーガーデンの花々は、そもそも蒼き狼の咆哮のスピンオフなのよ。』
『で、でもだからってクーデターを起こすなんて!』
『戦略シミュレーションゲームという事は、フェアリーガーデンの後日談がある。という事』
『えっ!』
『貴方の末路というか、この国の末路を言ってあげる。
まず、この国のはるか東に、キルギム国という遊牧民族国家があるの。
その国のモデルはモンゴル。モンゴル帝国よ。
それがどういう事かわかるわよね?』
『え…え?どういうこと?』
「なお、わからなかった模様。」
「ぷっ」
『…正史において、私は追放され、貴女は王太子と結婚します。
その後、王子を出産。
そして8年後、キルギム国がキルギム帝国となり、凡そ25万の大軍を以ってこの国を襲うのです。』
『ちょ、ちょっと待ってよ。25万って。この国でも総兵力なら5万とかそこらだった筈…』
『各地防衛戦力を含めてそのくらいね。』
『そんなの…防げるわけ無い。』
『ええ、防げないわ。
王城は焼け落ち。王も王太子殿下も処刑。王妃も殺され。貴女は…幹部の十数人目の妻になって、十人近く子供を生む筈よ』
『そ、そんな…』
「あー確かそんな感じですね。
というか、相手国の姫とかを強引に妻にして『オルド』をしまくって、血縁を増やし、領土を広げていくゲームですからね。」
「よく倫理機構にひっかからないわね。」
『私は追放されてたから、そもそも捕まらないけど、貴族の子女達はそれはもう酷い目に。』
『ううう…』
『そして、貴方の産んだ…いえ産む予定の子を旗印に、ゲリラ戦を繰り広げ帝国と戦う。その頭目が私。』
『ええ!?』
『帝国はその初代皇帝が亡くなると分裂状態に入るのだけど、
ゲリラ戦から解放戦争となり、遂に祖国開放を実現するの。
王はあなたの子。傀儡だけどね?』
『…』
『そして、帝国から解放した後、帝国が占領していた地域を接収し、その余勢を駆って西側世界を統一。
私の産んだ子が初代皇帝になる―までが、正史のイベントね。』
『な、何よそれ…』
「って事は、あなた初代皇帝じゃないの?」
「うっそ!」
『で、そのイベントを前倒すべくクーデターを起こしたわけよ。
貴女が逆ハーを作るべくイベントをこなしている間、
私はクーデターの準備をしていたと。』
『…それで、私はどうすればいいのよ』
『私に任せればいい。
少なくとも大好きな王太子様とは結婚できるし、望まぬ相手の子を生むこともない。
でも、逆らうなら正史通りになるでしょうね。』
『…そう、なんだ。』
『で、私に協力するなら、それなりの見返りはあげるけど…どうする?』
『今すぐは答えられないけど。逆らう気はなんか無いわ。私の負けみたいだし。しかも勝っても悲惨しかないとか。ハァ…』
『まぁ気が向いたら説得してくれると助かるわ。よろしくね。』
「いま攻略サイト見たんだけど、アイリーンが統率チートで、クマっていう通称の男が知力チート。トラが武力チートだった。」
「え、何それ」
謎ケーブルに繋がったノートパソコンをテーブルの上で操作しながら見ている。
「ちなみに。アイリーンの子が統率知力武力全部が90台のハイパー皇帝のようね」
「うわー」
「さて、転生するに当たって常なら色々アドバイスするんだけど。今回は…いいかな。」
「乙女ゲーに転生したら気をつけることでもアドバイスする積りだったんですか?」
「うん、まあ正にソレ」
「気をつけることと言ったら、ゲームはゲーム。転生したらゲームっぽいけど現実だから気をつけなさい。といった所ですか。」
「シミュレーションゲームじゃないけど、他国との戦争は結婚後も付き纏うし、結構簡単に戦争起こすからね」
「怖いわー」
「で、最初にも説明したけど転生キャンセル…どうする?」
「なんでキャンセルする必要が?
約束された勝利の皇帝になるんですよ?私。」
「ああうん、そうね。」
「しかも苦労は親の代で終わりそう。つまり私勝利!
生まれる前から私超勝利ですよ!
超勝ち組ですよ!!」
「そ、そうね。じゃあ、このまま転生させるね?」
「はい、良いもん見させて頂きました!ありがとうございます!」
「てか、アイリーンさんすごいよね。既に妊娠しているだなんて。」
「…え?」
「じゃ、がんばってね!」
「え、一年以内に生まれるって、もしかしてー私も波乱なんですかーーーーーーーーーーー」
そうして、彼女は転生していった。
残された方は、「ホワイトボード、今回は使わなかったな」と思いつつ、クーデターの推移を見守っていった。
「はっ!アイリーンの方が先に浮気してたんじゃ!」
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