こんなにも危険!異世界召喚!~勇者やりますか?それとも召喚やめますか?~

 朝、登校している男子生徒の真下に魔法陣らしきものが出た。

 驚いている彼目の前が光で真っ白になる。

「うわーーー!」

 叫び声を上げて逃げようとするも、失敗。

 見も知らない空間に投げ出された。

 

 

 気がついたら、やたら高そうな調度品のある部屋に居た。

 

 濃紺の文様のある赤い絨毯。高価そうな調度品。

 やたら高価そうなシャンデリア。ただし蝋燭ではなく電装だろう。

 まるでダンスホールを思わせる広さの何もない絨毯だけの空間。天井も2階分はある。しかし不思議な事に出入り口は無かった。

 

「召喚された…のか?」

「いやぁまだだね。」

 

 真後ろからの声に驚いて振り向いた。

 なんかちんまい金髪の少女?幼女?が居た。

 6~8歳くらいだろうか。

 なお、ウサギのパジャマ着用中

 

「ロリババアといった所か。」

「殺 す ぞ♪」

「すいませんでした!!!」

 

 彼は色々と正直なようだ。

 

「えーと召喚されたのではないとすると、召喚される前の神の間ですかね。」

「おお、話が早い。そんなようなもんよ。」

 

「おお、ロリ神様だ!なんまいだなんまいだ!」

「あー神ではないよ神では。」


「あ、管理者の方ですか?」

「別に管理もしてないが、まあ人とは違うよ。なんて言うんだろうね私は。」


「是非ロリ神で!」

「やめい!」


「しゅん…」

「口に出して落胆するな。しかも口だけか。」


「まあいい。先ほどお前が言ったように、召喚される寸前の間だ。」

「チートキター!」


「…私からやれるチートはない。」

「えーーーそんな嘘吐き!!」


「私が、どんな嘘を吐いたというのだ!」

「僕に『ちーとあげゆ』って言ってくれたじゃないか!」


「いっとらんわ!」

「はっはっは照れちゃって!」


「ふっふっふ。まあツカミはOKだな。」

「ですな!」


 お互い向き合ってしばし見つめ合う。

 そしておもむろにガシっと両手で握手する。

 

「気が合うな!」

「おうともよ!」


 幼女はコホンと咳払いして、再び距離を取る。


「で、一応今なら引き返せるがどうする?」

「あ、召喚キャンセルできるんだ。…うーん。正直異世界にも憧れています」


「そうか、ならばチートはやれんが事前説明はしてやろう。」

「はは!有り難き幸せ!」


 幼女はどこからともなくホワイトボードを取り出し、黒いマジックで書き始め…

 届かなかったので台を取り出して、台に乗って書き始めた。


「なにこの可愛い生物」




『こんなにも危険!異世界召喚!』


1.勇者召喚された6人パーティーなら大丈夫だろうと思っていたら、同じような18人パーティーに襲われた。

2.王都から徒歩1分の路上で、他の勇者が血を流して倒れていた。

3.足元がぐにゃりとしたのでござをめくってみると他の勇者の死体が転がっていた。

4.馬車が突っ込んで勇者パーティーが倒された。というか轢いてから荷物を略奪するタイプ

5.勇者の泊まっている宿屋が強盗に襲われ、女も「男も」全員ヤラれた。

6.「そんな危険なわけがない」といって王都を出発した勇者が5分後血まみれで戻っt



「ちょ、ガイドラインかよ!!」

「ネタに走りたかった。ネタならなんでも良かった。むしゃむしゃてやった。今では反芻してる。」


「って牛かよ!」

「冗談はさておき、真面目にやるか。」

「ってオイ、俺のツッコミは何処行った。」


「でだ。

 『1.召喚される世界について

  2.召喚される場所について

  3.召喚される世界の耐性について

  4.召喚される世界の状況について』」

「ツッコミスルーかよ~」


「いやツッコミありがとう。」

「うむ、よいぞよいぞ」


「あーで、1~4については異世界転移でも説明したので省く」

「いや知らねーよ、説明してくれよ。」


「仕方ない。異世界転移しちゃった時のログを見せてやろう。」

「おーありがたやありがたや」




―――― ログ閲覧中 ―――――




「異世界転移怖い…」

「すまんすまん。怖がらせるつもりはなかったんだが。」


「反物質な世界超怖い。」

「まー今回は召喚であるため、行き先はわかっているよ。」


「お?そうなんですか?」

「そう、今回はとりわけポピュラーな剣と魔法の世界だね。」

「ポピュラーなのか?それ。」


「さて『5.異世界召喚する理由について』」

「やっぱ魔王とか倒してくれって奴なのかな?」


「…よっぽど切羽詰まってない限り、そんな願いはしないと思うが。または神託?とやらで示唆されているとかな。」

「そーいうもんかな?

 まあ確かに、余所の世界の人間巻き込むなとは思うけど。」


「異世界から呼ばれると、勇者補正。というか主人公補正が働く可能性はあるな。」

「主人公補生いうな」


「君が言うチートも転移されたと同時に付与される可能性があるな。」

「おお、チートキター」


「まあ、表向きの理由は、危機に対する対処とか伝統とか神託だろう。

 しかし異世界から召喚するってのは結構怖い話のはずなんだがなぁ

 多分『お人好しが多い』とか『喚ばれた当初はそんなに強くない』と思っているんじゃないかな」

「うあーいっそ、おそ露人とかお米人とか喚べよなぁ」


「あとは使い捨ての兵士、戦奴隷とかそういうオチかね。」

「笑えないけどありうるな怖い。」


「でも、ハーレム勇者パーティーを夢見てしまうわけだ」

「そーなんだよねーってオイ!」


「ハッハッハ、正直者め!」

「くやしい!でも!ビクンビクン!」 なお口だけ。


「『6.帰還について』」

「そうかー帰れるかどうかも重要だよな-」


「まあ、魔王が帰り方知ってるとか、調べておくとか色々あるだろうけどな。」

「てーか、喚ばれたからって、世界を守る義務ないよね。うちの世界じゃないし」


「そだね。魔王を倒す。倒すが、我々がその気になれば、それは100年200年先も可能という事…」

「100年先じゃ寿命で死んでるよ!!」


「まあ異世界転移と同じで、基本帰れないと思うべきだな。」

「さらば地球!」


「おお、まだまだやる気満々だね。」

「そりゃーハーレムパーティーに比べればね、仕方ないね。」


「魔王倒すまでお預けで、魔王倒したら暗殺されるのが目に浮かぶようだ」

「ぐ…」


「『7.奴隷契約化』」

「どれいけいやく…」


「召喚した、よくわからない超絶強くなるだろう奴に、フツーは首輪つけるだろうね。」

「強制力があるんだっけ?あれだ、孫悟空の頭締めるっていう輪っかみたいな奴。」


魔法よくわからないちからで強制するんだろうかね。あり得るよね。」

「うんうん。」


「まあ、3度限りの絶対命令権とか召喚される側には良く制約がつきますね。」

「おいばかやめろ」


「まあ、名前を知られるとソレで縛られるっていう事もあるから、偽名でお話するんだよ?」

「え?なにソレ」


「よくさ、悪魔の真名は隠して偽名で話すとかあるじゃない?アレってつまり真名を知られると、それだけで縛り付けられるってのがあるらしいよ。」

「ほ~。そうなんか。まあ安倍晴明さんも名前が云々言ってたような気がするな。」


「うろ覚えか。違うけど、まあ似たようなもんだと思えばいいか。」

「ちなみに、アンタの真名は?」


「教えてもいいけど、そんなことで縛られるような存在ではないよ。残念。」

「心細いから付いてきて欲しかったんだが。」


「意外と繊細だねぇ。」

「うんうん。勇者無理無理。」


「あー大丈夫だよ。高層ビルの上層階で鉄骨渡りができればそれで勇者だ。」

「異世界召喚よりこええよ!!」


「いや、危険度は同じようなもんだよ?むしろ異世界の方はバランス棒持たせてくれるけど、鉄骨じゃなくてロープだ。」

「…マジで」


「しかも退路はない。」

「うあー最悪だ。」



「んで大ラスが『8.生け贄説』」

「生け贄って…」


「可能性の問題ではあるが、生け贄にするために召喚する可能性があるね。」

「な、なんだよそれ…」


「考えてもみてよ。

 生け贄を捧げなければならない。でも家族から生け贄なんて出したくない。

 できるなら憎い相手か、他人が良いよね。他人の場合は見も知らない他人が良い。

 その条件であるなら、召喚者なら世界すらも違う他人だ。

 とても良い条件の生け贄だな。」

「殺されるために召喚されるってか!冗談じゃねえ!!」


「まーそういう可能性もあると言うことだ。」

「ぐぬぬぬ。いや主人公補正なら生け贄でも逃げきれるか。」


「主人公補正っておい。それ誰が保証すんの?そもそも主人公補正とはなんだい?」

「うん、まあ自分で言ってるだけではあるけど。…つまり保証ナシ。運任せか!」


「そーなるね。

 で、それでも勇者やりますか?それとも召喚やめますか?」

「危ないお薬みたいに言うなよ。

 だが!!

 愚問だな!!!

 この俺がその程度の不遇ごときでハーレムを諦めると!?

 

 

 ――ハイ諦めます!帰らせてください。宜しくお願いします!!」

 

「ハハハハハハ。いやあ正直で宜しい。」


「つかマジロリ神様ありがとうございます。」

「ロリ神言うな。つか神じゃないってば!」


「でも俺にとってはロリ神だ!」

「せめてロリを抜け!」


「わかったぜロリ!」

「神抜いた!神ぬいたな!ハゲにしてやろうか!?コノヤロウ!」

 

「いやその報復はどうかと。」

「ハゲにしてから、召喚実行してもいいんだよ?」


「すいませんでした!!!」

「ふーやれやれ。」


「まーあんま会うことも無いだろうが、もしかしたら町中で見かけるかもね。そんときはロリ神は無しで頼むよ?ホント」

「そんなっ。俺は何時でもこの部屋だったら来てもいいよ!」


「いやコレ一時的に作った広間だから、常設じゃないんだよ。」

「あ、そうなんだ。

 いやーでも、貴重な体験でした。ありがとう!」

 

「うむ。ではな。」

「バイバーイ」


 異様に軽い対応で、召喚はキャンセルされ、少年は元の世界に帰っていった。

 

「さーて、召喚されてやるとするかな。」


 後に残ったのはロリ神のみ。

 

 「ロリ言うな」


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


異世界召喚実践編


△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



ある王国で勇者召喚が行われた。

大きな魔法陣から光が溢れ、治まった先に居たのは…


6~8歳くらいの金髪の女の子だった。

なお、ウサギのパジャマ着用中。


「********************」

 一般兵ぽい姿の男が何かを言ったが、知らない言語だったため理解できなかった。

 ニュアンス的には「おお、召喚の儀は成功した!」みたいな感じだろうか。

「ようこそいらっしゃいました、小さな勇者様。」

 

 翻訳のアイテムでも使っているのか、王女か、神官だかの言葉は理解できた。

 口の動きと連動していないため、意訳を伝える魔法かアイテムを使っているのだろう。

 

 ロリ神もとい、その少女?幼女は憮然とした様子で佇んでいた。

 

「この度、突然呼び出してしまい申し訳ございませんでしたが、どうか、どうかこの世界をお救いください!」

 

 その言葉を聞いても、ピクリとも反応はしなかった。

 ただ腕を組んで、王女?の方を見ていた。

 

「私はこの国、アルシズの王女で、エウリィシア・ディア・アルシズと申します。」

 

 一方的に話を進める。

 

「お名前を伺っても良いですか?」

 

 しばらく沈黙が続いたが、金髪の幼女はこう答えた。

 

「山田花子」

 

「ヤマダハナコ様と言うのですね?」

 

 幼女は憮然として答えない。

 まあ、あからさまな偽名ではあるが、それを異世界人が分かるわけもない。

 

「とりあえず、翻訳の首飾りをお渡し致します。言葉の方は問題ないですよね?」

 

 憮然とした幼女に首飾りをかける。

 抵抗されずに首飾りをかけた事で、王女は見えないようにニヤリと笑った。

 

「このような場所ではなんですから、玉座の間までおいで下さい。」

 

 憮然としたままの幼女も、促されるままに歩み始める。

 実の所、その翻訳の首飾りには他の術もついていた。

 名前言った後、首飾りをかけると、かけた側に従うというものだ。

 

 無論偽名なので効果はない。また本名であった場合であっても、問題無いだろう。

 

 

 こうして玉座の間まで来る。

 王の目の前、中央まで歩みを進めると、王女は召喚の報告を行う。

 そして恭しく頭を垂れた。

「勇者召喚の儀、成功いたましてございます。」

「うむ。大儀である。」

 

 しかし…

「王の御前である!控えよ!」

 幼女は召喚された時のまま、腕を組んで居た。

 今は王の方を憮然とした表情で見ている。

 

「ええい!控えぬか!?」

 衛兵を声を荒げる。

 

「ヤマダハナコ様、私と同じように跪いてくださいませ。」

 例を見せるがごとく、王女は跪く。普段はしないだろうが今回はお手本を見せるという意味があったのだろうか。

 

 しかし幼女は、跪く事もなく。王の方へ向かって歩き始めた。

「こら!王の御前だぞ!不敬な事はするな!」

 

 慌てて衛兵が駆け寄る。

 その肩に手をかけようとするが、ぱっと払われた。

 

 このままでは王が危ないと見て、左右に控えていた衛兵が王の前に立ちふさがり、幼女を押しとどめようとした。

「異世界から来たとは言え、これ以上の不敬は見逃せぬぞ!」

 

 捕獲用の長柄の棒を幼女につきつける。

 その棒を幼女はかるくあしらうと、衛兵は音もなく倒れる。

 

「な!」

「一体何だ?」

「え?」

 

 ざわざわと騒然とし始める。

 すかさず増援の衛兵が駆けつけるも、鎧袖一触。

 歩みは止まらず、衛兵もネタ切れなのか新しいのが出てこなくなった。

 今までの衛兵はそのへんに山積みされて倒れている。

 

「ヤマダハナコ!止まりなさい!」

 王女が後ろから叫ぶ。叫ぶがそんなものに意を解さず進む。

 

「そんな!強制の術がかかっているはずなのに何故…」

 

 まだ数歩距離がある。そこで危険を感じた王は逃げようとするが、動かなくなった。否。動けなくなった。

 立ち上がろうとしたその太腿を手で押さえた。

 ただそれだけの動作で立ち上がることが出来ない。

 

 幼女はその足を引っ張ると王を地面に転がした。

 そして王の顔を掴むと王女の近くへと投げた。

 

「ぬおおお」

 

 幼女はそのまま玉座に座ると、足を組み頬杖をついてこう言った。

「不敬不敬と、お前の何処が偉いというのか。

 まずはその矮小な顔で、妾の前に姿を表した不敬を詫びるべきだろう。」

 

 この幼女は異質だと感じていたが、これほどのモノとは思わなかったようだ。

 玉座に座った瞬間から得体のしれないプレッシャーを感じる。

 背中に嫌な汗をかいたようだ。

 

「『どうかこの世界をお救いください。』だったか?断る。」

「なっ!」

「まずは妾を呼びつけた迷惑。そして不敬を詫びるべきだろう。ああ、こちらに召喚された者は無辜の民であり、ここの国では一切の後ろ盾を持たないからやりたい放題。

 よしんば強い力を持っていたとしても、この強制の力で思い通りにできる―といった所か。」

 

 打って変わって、喋るようになった幼女。

 王女はその言葉にも驚いていた。

 なにより、実力についても驚かされていた。

 

「何より、頭が高いのではないか?不敬だぞ?ひれ伏せ。」

 

 そう幼女が言うと広間全体に重圧がかかったようで、誰も立っていられる者は居なくなった。

「な、なんだコレは。」

 

 今頃になって新しい衛兵の追加が現れるも、広間に入って床にひれ伏すことになる。

 

「で、呼び出した本当の理由を教えなさい。」

「な何を?」

 

「だから、召喚した真意だ。裏の意味でもいい。または何故召喚したか、でも良いぞ。」

 

 苦しげながらも、王女は玉座を睨みつけながら応える。

「真のとか裏のはございませんが、伝統的に魔王が現れたら勇者を呼んで討伐させよと言い伝わっております。」


「ふーん」

「で、強制の術ってなに?」


「そ、それは…」

 王女の目が泳ぐ。

 

 直ぐに答えそうになかったので、幼女は王女に対する重圧を増やした。

 いままで膝立ちうくらいだったものが、完全に地面に倒れ伏し、立てない状態になった。

「う、ああ…」


「強制の術ってなに?」

 同じ質問を繰り返す。おそらく2度目を無視したら3度目に質問されることはないだろうという予感があった。

 

「しょ召喚者は、王国に逆らわないよう…強制力が働きます。とくに名前を使った強制は人の身で拒絶することは不可能に…」

「なるほどね。」


 予想通りだったのか特に憤慨することは無かった。

 

「まあ、他に聞きたいことも無いがそうだな…召喚する側の認識でも聞いてみるか。」

 幼女は何か思いついたと言う表情にった。

 その顔を見て王も王女もいい予感はしない。

 

 しかし王女にかけられていた重圧が解除され、身の軋みも治まった。

 

「まず、聞きたいのだが―

 お前たち、召喚した奴が超絶強くて強制力が効かない相手だった場合の想定は無かったのか?」

 

 今まさに起こっている理不尽である。

「いえ、ございません。」


「例えば、異世界に住む魔王なんかを呼び出してしまう可能性については?」

「それもございません。」


「ふむ…じゃあ例えば重病人や危篤状況の人間を召喚してしまう場合は想定していたか?」

「それも…ございません」


「パンデミック…と言っても通じぬか。疫病の病原体を保持する人間を呼び出してしまう可能性は?」

「それは…酷いことになりますね。しかし想定しておりません。」


「あのさ~君ら危機意識無いんじゃ無い?もしかしたら、強力な悪魔を呼び出してしまったらどうしよう。なんて考えつかなかったのかね。」

「…」

「まあいい。で?送還方法は?わかってるんだろうね?」


「いえ…送還方法は知りません。」

「馬鹿じゃないの!?」


 幼女は思わず叫んでしまった。王女はビクッと肩を震わせる。

 

「召喚して、強すぎて制御不能だなってなったら即送還する。っていうのが普通の召喚のあるべき姿ではないの?送還も無いなんてハァ…愚か過ぎる。

 いきなり召喚しておいて、ずっとこの世界に?

 例えば魔王は倒したが恨みしか残らない相手が残り続けるとか。馬鹿としか思えないんだけど。」

「…」

 王女は反論する気力もないくらいに憔悴している。

 確かに、送還できていれば今この状況にならなかったのだから。

 

「もういい…というか寝ている所叩き起こされたのだ。

 寝床を用意してもらうよ。」

 

 ふと、重圧が解除される。

 衛兵の何人かがヨロヨロと立ち上がる。

「は、ハイ。只今お部屋をご用意いたします。」


「ハァ?何を言ってるんだ。

 ここに運べ。」

「え?」


「天蓋付きのベッド。そうだな、お前のベッドでいい。ここに運べ。」

「え、ここ…に?」


「拒絶するなら―」

「いえ、はいお持ちいたします。」

 そうして王女がパンパンと手を叩くと、慌ただしく動き出す。


「なんということだ‥なんということだ…」

 王は放心状態で何かを呟いていた。

 

 

 程なくして、天蓋付きベッドが玉座に運び込まれた。

 衛兵たちも、幼女には触れない。

 あきらかに異質の実力に恐れをなしているのだ。


「うむ、では寝るのでこの部屋から出て行け。」

「は、はい。」


 天蓋付きベッドの周辺がオーロラのような光で遮られるようになる。

 どうやら結界のようだ。

 

「じゃあ、おやすみ。Zzz」

 

 幼女は寝た。

 しかしベッドの周辺の結界のせいで暗殺すら試せない。

 

 

「大変な事になったのぅ」

「申し訳ございません。」

 

 王と王女が、玉座の間の外で相談を始めた。

 

「まさか召喚したモノが魔王だったとは想定外だ。事は緊急を要するぞ」

「は、はい!」

「勇者を召喚する他あるまい。早急に召喚せよ。」

「準備に7時間はかかりますが…」

「起きるまでの時間ギリギリといった所か。間に合うか時間との勝負だ。すぐに始めよ。」


こうして懲りない王様達の勇者召喚は行われる。

翌日怒った幼女に魔法陣を壊されるとも知らないで。

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