Wing

紡木 朱

発端


悠歴 423年 荒野にて。

ああ、頭が痛い。眩暈もする。

吐き気、関節の痛み、寒気。諸症状のオンパレード。最悪。

一歩踏み出す事に頭は割れそうだし、骨がキシキシと悲鳴の大合唱。

死んでんのか生きてんのか自分でもよくわかんねぇ。

けどここでぶっ倒れちまうより進んだほうがいい。

砂ばっかの荒野よかせめて安宿の薄っぺらいぺちゃんこのマットレスの方が何万倍もマシってもんだ。そうだろ?

荒野の真ん中にまっすぐ伸びた道路沿いにあと10キロも歩きゃ、目的地は見えてくんだ。多分な。

あそこにつきさえすれば、冷えたビール飲んでよ、ひっくり返って二日も寝れば全快よ。

前よかいい暮らしになんのは間違いねぇ。

何でもっとはやく気づかなかったんだか。嫁さんとクソの役にも立たねえガキ2人売り飛ばせば、あんなゴミだめからでるくらいの金はいつでも手に入ったのに。

あの男に感謝だ。四六時中ガスマスクを外さなかったあの男。空気アレルギーだなんだ言ってやがったっけ?

んなこたどうでもいい、俺は切符を手にしたんだ。幸福のな。


そら、あと五キロの看板だ。思ったよか近かったな。おいでませユートピア。この街は一文無しでも歓迎いたします。完全なる平等。すべての市民を同じ光が照らさんことを。


……クソ、なにか考えてねえと頭がおかしくなっちまいそうだ。

右足、 前、次、左足。つまづく。息、吸う、吐く、咳き込む、血が絡んでやがる。最低。

ゆらゆら揺られるビル群、いや俺の目が狂っちまってんのか? が、目の前に迫る。ぴかぴかした金属製の塀も。

おいでませユートピア。発展都市ソフィア。荒野の中の女神様。

ビー、ビー。頭痛虫なんかお呼びじゃねえんだ。

門が開いて銀の騎士さんたちがお出迎え。その担架は俺用?頭にかけられた水が心地いい。

熱に浮かされた脳みそが間抜けな笑顔を表情筋に命令。

ありがとよ、俺ぁこれ以上動けそうにねえんだ。兄ちゃん、いいネックレスしてんな。

なんか腕に刺された。スパーク。もう何も見えねえ。

けど俺は辿りついたんだ、切符持ってな。この街に。幸福に。




……それにしても、さっきから俺ん中になにかいるみたいですげえ気持ち悪い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Wing 紡木 朱 @kamejiroorufe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ