第68話 勇者力
畜生、結局徹夜で学校へ行く羽目になってしまった。しかしようやくエンドレスループから抜け出せたとも言える。
だが問題はこれからだ。コムスメからどんな目に合わされるか考えたくもない。
こうなったら屋上へ行くのをやめるか? そうだな、どこかで待ち伏せされていない限り、そうすれば会うこともない。あいつは同じクラスだが、コムスメは別のクラスだし。
今日は大人しく教室のオブジェと化しておこう。
……という予定のはずだったのだが、昼休み、俺はあいつに引きずられ屋上へ連れて行かれた。そして待っていたのはコムスメ。
処刑が始まる。今日が俺の命日か。短い人生だったな。
俺たちを確認したコムスメは近付いて来て、思い切り頭を下げた。
「改めましてふたりとも。先日は本当にありがとうございました!」
……あれ?
礼を言われた。
いやまて。こいつはコムスメだ。けじめはしっかりしている。だからまずはきちんと礼をし、その後で本題に入るのかもしれん。これはこれそれはそれというやつだ。
「そのことはもう済んでるだろ。それに俺はなにもしてないって再三……」
「ううん、お礼なんていくら言っても足りないくらいだよ! だってあれが魔物のほぼ総力戦だったみたいで、周辺一帯から魔物がいなくなったんだよ。おかげで国民や女王様は凄い久々にちゃんと寝れたんだって」
そっか、そりゃよかった。女王様は顔色悪かったもんな。ゆっくり寝られてなによりだ。
だけどそんな話を続けるつもりはない。俺は早く楽になりたいタイプなんだ。とっとと本題に入って欲しい。
「で、ええっとだな。俺らが帰った後、ちとえりたちがだな……」
「あっ、うん。あの人面白いよね。キミがいるときといないときで全然態度が違うんだから」
「えっ?」
「……あっ、ごめん! これ言わない感じのやつだった」
コムスメは慌てて口を手で隠した。
どういうことだ。俺の有無で態度が異なる? まさかそんなことは……。
この件に関しては後で本人をとっちめよう。今聞きたいのはこれじゃない。
「でも俺らが帰った後、なんかやらかしたんだろ?」
「なんかって? どんなこと言われたの?」
「女王様になんか無礼な感じのことを言ったとか言ってないとか」
「んー……。じゃあ言ってないんじゃない?」
……えっ?
ちょっととくしまの言ったことを思い出してみよう。
『──こんな底辺世界ならきっと男は女体に飢えてますよ』
……いや違う、戻りすぎた。もっと後、後だ。
『──ということがあったとかなかったとか』
…………なかったのかよ……。
あのとくしまが俺を騙したというのか? 信じられん。なんてことだ。
いや騙してないのか? 面倒くさい言い回ししやがって。そういやとくしまは妄想力が高かったな。話くらいなら作れるか。
そして妄想と現実の境界が崩れ、そういうことがあったと思い込んでいるのかもしれない。可哀そうなやつだ。
「大体さ、キミは勇者の中でも特に稀有な存在なんだから、かなり待遇いいはずだけど」
「は?」
稀有な存在? 俺が?
戦うのはあいつらで、俺なんかほぼ観光程度でついて行っているだけだぞ。いや、そんな勇者もある意味稀有か。
「あれ、その様子じゃ自分の特殊能力知らない?」
「特殊能力?」
そんなファンタジーなものあるわけが……いやもう異世界とかあるんだからファンタジーなものもあるのかもしれない。
じゃあひょっとして……ウインドウ的なやつ、出ろ! ……出ないかぁ。
ならばデータっぽいやつ! ……ちっ。
こんな感じに色々やろうとしている俺にコムスメは軽くため息をついて口を開いた。
「キミの特殊能力は、ハイアダプト(中)だよ」
「……なんだそりゃ」
もっとこう……火を操れるとかそんな感じのかと思ったが、あまり面白そうじゃないものだった。なんというか、心にちっともときめかない。
「えっとね、キミは大抵のことでハイランクの中堅になれるんだよ」
「んなわけないだろ。俺なんていつも平凡な成績しか出してないんだから」
こないだの学年テストだって嫌がらせかというくらい計ったようにど真ん中だった。ハイランクが聞いて呆れるぞ。
「……ああ。キミさ、なんかとんでもなく勘違いしてるんじゃない?」
「どういうことだよ」
なにが言いたいんだこのコムスメが。
「あーそういうことか。お前さ、この学校をなんだと思ってんだ?」
「ただの近所の高校だけど?」
俺の答えにふたりは頭を抱えた。俺がこの学校を選んだのは近所という理由以外にない。
ギリギリまで寝ていられるし、もしひょっとしたらできるかもしれない友達のような人材が寄りやすいだろうという考えもあった。家近いんだろ? 帰り寄ってってもいいか? みたいな。
「……この学校の偏差値は?」
「んー、そういや知らねぇな」
「「ばっ……」」
ふたりして同じ反応をしやがった。表情からして、きっと『ばっかじゃねーの』と言いたかったのだろう。
「……この学校の偏差値は72。全国でもかなり上位の学校なんだよ」
「オレなんかスポーツ推薦枠だから勉強は全くだぞ……」
「そういや空手でインハイ出てんだっけか?」
「全国でベスト16だよ! 学区内では最強! 更に言えばオリンピック強化選手候補! なんでお前、そんなオレと同程度の力を持ってんだよ!」
そういやそんな設定あったな。てかそう聞くと相当な強さだ。
よく考えてみりゃインハイが低レベルということはないか。なんだ、俺結構凄いんだ。
「でもなんでそんなこと知ってるんだ?」
「うちの世界には勇者力を見れる魔術師がいるんだよ。その人の見立てだと、あたしの勇者力は中の上。あいつ君が中の下なんだ」
「勇者力ってあれだろ? お前が速くなるとかってやつ」
「それは勇者特典。それぞれの世界でもらうもので勇者力は自前の持ち込み」
BYOなのか。まあそれはそれとして。
「……っていうと、ひょっとして俺は」
「お察しの通り。キミの勇者力は上の中。……上の上、つまり最高の勇者力を持つ人はこの世界に2人、全ての世界でも23人しかいないらしいのと、キミと同程度の勇者力を持っている人はこの世界だと4人前後で全世界だと100人くらい。総勇者人口が1億と言われている中、キミは最上級クラスの力を秘めているんだよ」
「ははっ。まさかぁ」
思わず笑ってしまった。んな馬鹿なことがあるかっての。
そんな俺の態度を見てふたりは顔をしかめる。別に嫌味とかじゃなく、今までの不活躍を考えたらそれはないとしか言いようがない。
しかし俺は自分の力よりも特殊能力が気になった。他にどんなものがあるのか知っておきたい。
「なんか俺ばっか知られててずるくね? お前らの能力的なのも教えろよ」
「あたしはメロディード(刻)。リズムを力にする能力だよ」
「ぬ……なんか悔しいがお前に合ってそうだ。んじゃあいつは?」
「お、オレのことなんかどうでもいいだろ」
「まあお前にゃ興味ないよ。だけど特殊能力には興味がある。教えろよ」
「う、ぐっ……カラード(茶)だ」
「なんだそりゃ」
「つまり茶色のものを力に変えられるんだよ。土とか木の幹とか……」
「う◯ことか?」
「……殺す!」
「おう来いやごるぁ!」
「ダメストーップ! ダメダメ!」
殴りかかる瞬間、俺たちの間にコムスメが割って入ってきた。チッ、コムスメに危害を加えるわけにはいかないから引き下がろう。
「なんでキミたちはそう好戦的なのかなぁ」
呆れたようにコムスメが言う。
「俺からなにかする気はねぇよ。だけどそこのロリコンとかいうサイコパスが攻撃してくるんだ」
「だからそういう挑発行為するのが悪いんだって。自分からちょっかい出しておいて相手が攻撃してきたって責めるのはチンピラか北だけにしてよ」
うっ。そこらへんと一緒にされるのはやだな。自重しよう。
だけど、茶色はさておきリズムねえ。ちょっとカッコいいが、確かに俺の特殊能力のほうが圧倒的に優れている。
「……待てよ。するってぇと俺がホストになれば最高級クラブの中堅辺りになれるってことか!」
「多分性格で面接落とされると思うなぁ」
えっ、俺、性格悪いの!? よく「ホントいい性格してるよ」って言われるのに!?
いや、うすうすは気付いていたんだ。ひょっとして俺って性格悪いんじゃねって。
「やっぱ俺、嫌な奴だったんだな……」
「えっ!? そ、そんなことないって! 口と態度が悪いから誤解されやすいけど、なんだかんだ言って助けてくれたり心配してくれるじゃん!」
「あ? なに言ってんだ? 知人の心配すんのは普通のことだろ。嫌な奴だからしないってことはないと思うぞ」
「そういうものなの……かな?」
多分そうじゃね? 自分と同じようなヤツだからという理由でカンダタは蜘蛛を見逃したくらいだし。
んで、そんな俺にすかさずフォローを入れてくるコムスメみたいな奴がいい奴なんだろうよ。
……いや勘違いだ。よく考えればホストとかすげえ性格悪そうだもんな。てことは俺は逆に善良だから落とされるという考えもある。
「なんか変なこと考えてるでしょ」
「えっ!?」
「キミ、わかりやすいんだよね」
わかりやすさもハイクラスだってか? ふざけんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます