第9話 現実を捨てる覚悟
暫らくして俺とごくまろはちとえりたちと合流。散々冷やかされたが、あまり嫌な気分はしなかった。
いやほんと鉄砲隊VS無鉄砲隊凄かった。あいつら無鉄砲のようで意外と考えているんだなと少し勉強になった。信長の本当の最後も発覚し、日本人の俺としては満足のいくものだった。
そして勘違いしているちとえりを踏みにじり、城への帰還方法を聞き戻ることに成功。こちらをねっとりした視線で見つめるメイドどもに後ろを向かせ、舌打ちを聞きつつ服を脱ぎいざわが家へ。
……ない。
ない、ない。ないぞおおぉぉぉ!
どこへやった、俺の下着!
間違いなく洗濯機の裏に隠したはずだ。絶対にばれるはずがない。
俺は食事をしている4人の声を確認し、こっそりと部屋へ戻った。まっぱで。
犯人は朝発覚した。「いくら恥ずかしい汚れがあるからってあんなところに隠さないでよね」と母にいやらしい笑顔をされた。
ねぇよ! 見りゃわかんだろ! 洗濯したばかりのやつだっただろ!
チクショウ……。
★
「ごめんなさい」
「なっ……。なんでですか!」
俺たちの他誰もいない学校の屋上で、この惨劇は起こった。
告白である。一大イベントである。
そして玉砕。
相手は教師になったばかりのお姉さん。就任してからずっと目をつけていた。
がんばって慣れようと初々しくも努力している姿に惚れた俺は、とうとう告白することを決意。
放課後の校舎でこうやって2人きりになることができた。
てか、てかさ、こんなところに呼び出したら普通ある程度察するよな?
んでもって来たってことは、OKな確率90%くらいはあるはずだろ。
断るつもりなら最初から拒否すりゃいいんだから。
「あのね、きみは遊びのつもりかもしれないけれど……」
「遊びじゃないです! 本気です!」
俺は諦めずしがみつく。
「私は教師になりたいってずっと思っていたの。それがやっと叶ったのよ。わかる?」
「わかります! だって先生すごいがんばってるじゃないですか!」
「……だったら私が言いたいこともわかってもらえると助かるんだけど」
「わかりません!」
「あのね、きみは生徒で私は先生なの。それでね、先生が生徒と恋愛関係になるのはよくないと思うのよね」
「大丈夫です!」
「だから……はぁ。もしそういうのがばれたら、先生はクビになっちゃうわけ。私はまだもっと先生をやっていたいの」
「じゃ、じゃあ俺が卒業するまで待っててください!」
そこまで必死に食らいついた。
だがこの後に先生は辛い現実という最恐兵器を打ち出した。
「じゃあ、今から言うことは秘密にしておいて。実は私、結婚しているの」
な、なななななっ!
「そんなこと言って、断るための嘘でしょ」
「本当よ。そして旦那さんは校長」
いやああぁぁぁっ! あんなハゲポン太が旦那だなんてぇぇぇ!
田中なんてありふれた苗字だから2人が同じでも気にならなかった。
しかし夫婦だったなんて。そりゃ苗字一緒だよ……。
確かにこれは隠しておかないと色々とまずい。
身内コネで教師になっただの、体で買収しただの色々と言われてしまう。
校長にしたって若い子に就職を盾に結婚を迫っただのといううわさがたつだろうし。
しかし俺はそんなことどうでもいい。
ハゲポン太に敗北したことが何よりもショックだった……。
と、まあいつもの俺だったらこれで3日間は引き篭もっていただろう。
だが今の俺は違う。
この告白は言わば踏み台みたいなものだ。
もうこの世界に未練はない。俺は勇者としてあっちの世界でがんばる。
そのための儀式みたいなものだ。
グッバイこの世界。
負け惜しみなんかじゃない。悔しくなんかないぞ!
──そして今、俺は勇者の力を得るため、懐かしの場所へ来た。
突然戻ってきて嫌な顔されないだろうか。
まあいい。いくらでも頭を下げよう。力を得られるならそんなことたやすい。
俺は勇気を持って門をくぐった。
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