街路樹



三十分を越えて電車に揺られると街路樹ひとつとっても違うってもんだ。

駅をでりゃあそこは町の玄関な訳だしな。

下手をすりゃ天気だって違う。

最近は携帯さえありゃ違う地区の天気だってわかるけどな。

でも、いけんじゃねぇかとつい、思っちまうことも多い。

で傘を買うはめになるって寸法さ。

ま、ほんの五回くらいだな。やらかしたのはよ。

え?

折りたたみ傘?

すぐ壊れっだろ?

やっぱり、しっかりした大ぶり傘がいいね。

大丈夫だ。

魔剣アンブレラや忍び傘には魅惑を感じても購入はしない。

そう。

土産物屋で手裏剣や苦無を見ても手に取るぐらいで購入しないようにな。

ん?

手にとって重さを感じるぐらいは構わないだろう?

女性の胸の重さを体感したいと言ってるわけでなし。

胸を模したチョコで赤くなるほどウブでもないだろう?

反論はないな。

まぁ、慣れたとはいえ、視界が変わるのはいつだって新鮮だ。

息の白さも変わる。

線路を見下ろしながらバス停に向かう。

大きな木が一本そびえている。

根元には石碑と小さな花園。

正直はじめて見た時は時期が悪かったんだろう。さびしいもんだった。今はスミレやマーガレットと思われる花が土埃にまみれながらも咲こうとしている。

初々しい姿がこう、虐げられるように健気にいる姿はそそるってもんだ。


え?


ドン引き?

そろそろ慣れないか?

そう。

慣れないか。


じゃあ、諦めろ。


駅舎からバス停まではそれほど距離はない。

それでも乗り込んだ駅より街路樹は多い感じだ。

排ガスで枯れかけて見えるような木もない。空もこっちの方が開けているように錯覚する。ただ、冬の色に染まっているのは変わらない。

木の種類は読み取れないが見上げて視界がただ空でなく、枝で遮られた檻の中のような錯覚が好きなんだよ。

ぐうっと捻れた枝が迫る腕のように、別の生き物がそこに居るように思えるのさ。

植物は生き物だろう?

いや、わかってっけど、浪漫だよ。浪漫。

つまんねぇこと言うんじゃねぇよ。

別の生き物を見るっつーのは自分が生きてることを見つめ直す行為だろう?

え?

そこまで考えねぇ?

いや、考えてるっつーか、感じねぇ?

そう。

感じないのな。

一番わかりやすい例をあげるとだな!

え?

説明していらん?

俺が語るんだよ。お前に拒否権はない!


何様だと!?


俺様だ。


男と女は人間ってひとつの括りでありながら、同時にまるっきり別の生き物だろう?

きっと生きている限り相互理解できないと思えるぐらいに。

俺はさ。違うと思うんだ。

別の個体である時点で理解なんてしあえないんだよ。

人間が生きていく時間で自分のことを完全に理解できると思うか?

自分のことを完全に理解できてると断言できるか?

俺はさ、できない。

自分のことが理解できねぇ。


だから他の生き物なんか理解できるはずもない。


俺はさ。理解できない俺が嫌いだ。


それでも、理解できない世界は好きだ。

汚したいほどに無垢も。

綺麗に守りたい穢れも。

屈折した捻れも。

受け入れ難い潔癖さも。

完璧を望む清廉さも。

高みを目指す狡猾さも。

俺に届かない世界。



俺じゃないお前なら届くかなぁ。



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