ランナー
ランナーを見送りながら歩みを進める。
門扉の前を通り過ぎ、続く白壁のヒビを見る。縦にビシリと入ったヒビはかつての地震の名残だろうか。
視線を上げれば、瓦が並ぶ。少々以前には幾枚か落ちていたが修復されたようだった。
大きな道であるからか、ランナーは多い。
たまに学生もいる。学生の場合、集団が多いな。部活かねぇ?
だいたい黒い装備に派手な色が散っている。そんな偏見が俺にはある。
少なくとも筋肉を露出させて走る姿は見られない。
息が白く染まる季節だからかも知れないな。
ん?
ああ。
暑くなれば陽射しを避けるために露出は抑えるもんさ。
太陽光は有害になったらしいからな。
オゾン層がどうこうって話があったが、最近は聞かないなぁ。
まぁこんな季節に剥き身のふくらはぎやら太ももやら見てもさっむいけどなぁ。
あー?
すね毛?
体毛っつーのは防衛本能だろ。
まぁ、女は綺麗に手入れして目につくところからその守りの証を隠しちまう。つまり、防壁をなくし自ら無力をアピールするという高度な攻めの技術の証に変えちまう。
それが、女の子と女の境目だろう。
え?
ドン引きする?
夢でも持っていたのか?
むしろ許されないすね毛は女装した男のすね毛だろ。格好に合わせて剃るべきだ。たとえ、カミソリ負けしようとも。
え?
妙なこだわりを持つな?
人間こだわりを持ってこその味ある人生だね。
女装男子にすね毛はアウトだね。
うん?
ああ。そうだ。諦めておけ。俺は俺だ。
それにしてもいい年して丈の短いズボンを履いて出歩いてる男を見ると時代が変わったね。っと思うけどな。
ああ、老けたんだろうなぁってな。
だがな、丈の短いズボンはまだ良いんだよ。
あいつだけはいただけねぇ。
みっともないつーのが俺にはあるんだよ。
いやいや、女装のすね毛じゃなくてな、ズボンをわざわざずり下ろして歩いてる若いのな。
短い足をなお短く見せてるだろう。
股んところが無駄にたわんで、オムツが取れてねぇのかってこないだ思ってなぁ。
みっともないし見苦しいと思うけどな、その発想をした時点でまぁしかたないかってなっちまった。
最新ファッションがそうだって言うのなら俺は老けてて正解なんだろうさ。
いやいや、男の下半身事情じゃなくてランナーの話題じゃなかったか?
まぁ似たようなものか。
え?
違うって?
下半身事情じゃなくて上半身事情か?
おまえは胸毛否定派か?
日本人は薄いと聞くぞ?
え?
毛の話じゃない?
おまえは気難しいなぁ。
俺はやはり足元が気になるんだよ。
アスファルトを蹴るふくらはぎの張り、躍動感に溢れる足首。履くものを選びそうなほど足にまとわりつく筋肉。わかるか?
震え揺れる肉の差が見えると、こう、ググッと込み上げる熱いものがあるだろう?
あー。唾が湧くな。
え?
ない?
どん引き?
かわいそうな奴だな。
人体っていうのは動いてはじめて美しいんだぞ?
厚手の服という要塞に包まれていながら、存在アピールを忘れない胸の色気はやはり、動きあってだと思うぞ?
剥いたらどう揺れるのか妄想するだろう?
もちろん、実行などしないとも。
総てを想像力で補うのさ。
知っての通り、俺は小心者だからな。
さぁ、歩かないと。
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