第14話 エルフと戦士達


「――――ッ!? 何者だ!」


 リーダー格のトカゲが2人の侵入に気づき声を上げた。

 普通なら気づけない背後からの奇襲だったが、相手も流石と言うべきだろう。

 しかし、遅すぎる。


「「【光霊破壊フラッシュデストラクション】」」

「――ッ」


 声など上げている場合ではなかった。

 気づいた瞬間に回避行動をするべきだったのだ。

 リーダー格のトカゲが声を上げた次の瞬間、彼とフード姿の化物の頭部は消滅していた。


「――グエエッ!?」


 崩れた2つの肉体が床にドサリと音を立てた、残されたカエルからは上擦った鳴き声が漏れる。ジークはフードを、セドナがトカゲを、それぞれが放った上級光魔法が光速で彼等の命を刈り取った。その一瞬の出来事にカエルが呆然としている。


「――っ!」


 ペルトナは状況を理解したのか、青ざめた顔で護衛の後ろに移動した。

 ディーナもグラムを抜刀して剣先をカエルに向ける。それを確認した他の護衛達も次々と抜刀して戦闘態勢に入り、待機していた兵士達も通路から突入を始めた。


「――えっ!? ぁ、え? ちょ、え?」


 頭部が消えた仲間の遺体、次々と抜刀するエルフの戦士達、ようやく状況を理解したカエルの体が震えだした。


「ファ、ファ、ファーヴニル様が、ががが、黙ってないです……ぞ」

「お、そうだな」


 精一杯の強がりを冷たく流すジーク。

 カエルの目には涙が溜まり、股間からは液体が流れ始めていた。


「ぁ……あ、た、助けてくれないか? な、何でも言うことを聞きますぞ」

「ファーヴニルの戦い方や弱点、他にいる配下の情報、他にも色々と聞きたいことがある。全て正直に話せば考えてやる」

「――は、はい」


 カエルは観念したように力を抜いて俯いた。


「ジーク様、セドナ様、配下を手にかけた以上は後戻りができなくなりました。

このままファーヴニルに戦いを挑むつもりですか?」


 青ざめたままのペルトナが声をかけた。


「……はい。ファーヴニルに奇襲を仕掛けるためにも、王女殿下を人質にされる前に戦うことにしました。勝手な判断ですが、お許しください」

「この提案は私がしたものですわ、責めるなら私にしてくださいませ」

「……いいえ、責めるつもりはありません。これで覚悟するしかなくなりました。

チュートンの存亡をかけて全軍で戦いましょう……!」


 ペルトナは血の気を取り戻して宣言した、全軍を持ってファーヴニルに最後の戦いを挑むと。エルフの戦士達からは賛同の声が上がり、戦争の準備が本格的に始まった。不安は大きく辛い戦いになるだろう。それでもエルフ達は残された希望を目指していた。


「このカエルの尋問は地下牢で行いましょう」


 ディーナの言葉にジーク達は頷き、カエルを連れて巨木を下りた。

 チュートン城を支える巨木の地下にそれはある。陽の光が届かないジメジメとした大地に、地下牢へと続く階段が造られていた。


「入れ! このカエル野郎!」

「グエエッ……」


 ディーナの罵声が飛ぶ。

 紫色のカエルなため表情が分り難いが、人間であれば青ざめているだろう。

 絞め殺されたカエルのような鳴き声を漏らし、ビクビクと震えている。


「な、なんでも話すから、痛いのだけは勘弁して欲しいぞ……」

「お前の態度と情報次第だな」

「グエエッ……」


 ジークの言葉に顔をますます紫色にするカエル。

 すでに装備は没収され、無防備な状態で戦意は感じられなかった。


「そうだな……最初の質問だ。ファーヴニルの弱点に心当たりはないか?」

「……ない、少なくとも我は知らない。あの御方の力は想像を絶するものだ。

全ての攻撃は効かず様々な上級魔法を操る。その息は猛毒で、その頭脳は狡猾だ。

グエエッ……ファーヴニル様に挑もうなど、自殺行為だぞ。……悪いことは言わん。大人しく服従しろ、そうすれば希望はある。だから助けて」


 カエルの話を聞き震えがくるジーク。

 新しい有益な情報は無かったが、カエルの発言は正しいものだった。

 改めてファーヴニルの話を聞くと、勝てるのか不安になってくる。


「次の質問だ。ファーヴニルの配下の数はどのくらいだ?」

「我が聞いた話では、1万~10万らしいぞ。正直、わからん」

「差がありすぎる。……何故、正確な数字がわからないんだ?」

「噂でしか聞いたことがなく、実際に見た者がいないのだ。我が実際に見た数は500といったところか? ファーヴニル様に脅されて従っている者が大半で、詳しい情報を知る者がおらんのだ……だから助けて」

「……最低でも500はいるわけだ」

「500でもファーヴニルと共闘されたら辛いな……」


 ディーナが本音を吐露する。

 当然だ、ファーヴニルだけでも辛いのに、配下も相手にしたら苦戦は確実。


「配下の強さはどのくらいだ? 知ってる範囲で詳しく話してくれ」

「ううむ。……そう言われてもな、よく分からん。あまり接点がなく団体行動もせんのだ。お主らが倒した我の仲間はかなり強い部類であったぞ。それだけは間違いない。もちろん我も強いが……お前達の方が強かった。しかし、ファーヴニル様に勝てるとは思えん……だから助けて」


 カエル達は強い部類だったらしい、その言葉を聞いて少しホッとするジーク達。

 油断できる状況ではないが、少しでも安心できる材料が欲しかった。


「ファーヴニルの洞窟、グニタヘイズの詳しい情報を教えてもらおうか」


 その後も尋問は続き、カエルは素直に喋り続けた。

 その甲斐あってか、ファーヴニルを倒せたら開放することが決まる。

 それまでは地下牢暮らしだそうだ。

 

「大した情報は得られませんでしたね……」

「そうですわね。最初から期待はしてませんでしたが、使えないカエルでしたわ」


 ジークは大きなため息を吐く。

 エルフが探した助っ人もジーク達以外は見つからず、戦力不足は否めない。

 結果は奇襲の成功次第で大きく変わるだろう。確かな決め手が欲しかったジークは、肩を落としていた。


 その間にも準備は進み、ファーヴニルとの決戦は近づく。

 ペルトナ達との話し合いが行われ明朝の出陣が決まった、配下が戻らないことで警戒される前に奇襲を仕掛ける考えである。エルフの軍隊を率いるのはボーネスというペルトナの側近に決まり、ディーナはジーク達と共にファーヴニルと戦う。


 明日からの戦いに向けて、緊張している体を早めに休ませることにしたジーク。

 不安で眠れないと思っていたが、気づけば朝を迎えていた。


「ふぅ……朝になってしまった。いよいよか……」


 窓から町並みを眺めた。

 美しい森の都チュートン、その存亡はジーク達の活躍で決まる。

 その重圧で押しつぶされそうだった。


「ふあぁぁーおはよう、ジーク。体の調子はどう?」


 そこに、スケスケな寝巻き姿のセドナがノックもせずに入ってきた。

 ジークは一瞬で目が冴えて釘付けになる。


「絶好調です。チュートンに来てからは日に日に魔力が漲る気がします」

「……でしょうね。自然界の魔力が貴方に集まっていくのがわかりますわ。できれば1週間は滞在したかったのですが、仕方ありませんわね」

「……はい。ところで、目の毒なんで着替えましょうか」

「毒だなんて酷いわ! 私の体をイヤラシイ目で見てるくせに」

「すみません」

「ファーヴニルを倒せたら、たっぷりと見せてあげますわ。……フフフ」


 2人は着替えて念入りな準備をし、ペルトナの下へと向かった。


「おはようございます、王女殿下。ディーナさんとレギンも、おはようございます」

「おはようございます。ジーク様、セドナ様。いよいよ出陣の日ですね……」


 ペルトナの表情は暗く、彼女も押しつぶされそうな顔をしていた。

 隣にいるディーナとレギンも表情が固く、その緊張が伝わってくる。


「必ず勝ちましょう。今日はよろしくお願いしますね、ディーナさん」

「はい、よろしくお願いします! 必ずやファーヴニルの鱗を切り裂いてみせます!」

「心強いですね。……生きて帰りましょうね」

「……はいっ!」

「……あの、ジーク様とセドナ様にこれを……!」


 レギンは両手でお守りの様な物を2人に差し出す。

 それは作りが荒く、お世辞にも良い物とは言えない。


「下手でごめんなさい、魔力を込めて私が作った魔除けのお守りです。どうか無事に帰ってきてください。エルフを助けに来てくれた、2人だけの勇者様……」


 少女……と言っても年上だが、レギンの言葉に照れ臭そうにするセドナ。

 ジークはお守りを受け取って、彼女の頭を優しく撫でた。


「ありがとう」


 そして、エルフの戦士達は出陣する。

 隊の中ジークがふと後ろを振り向くと、木漏れ日の中、両手を胸の前で組み片膝をついて祈るペルトナの姿があった。その光景を目に焼き付けて、ジークが呟く。


「勝ちますよ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る