第6話 ジークとハリティ


 あれから4人での会話が一段落して、就寝のために各自は部屋へと戻った。

 しかし、部屋に戻ったはいいがジークは眠れないでいる。明後日だ、明後日にはパーティーがあり報酬がもらえる。そう考えると胸が踊って眠れないでいた。


 部屋の扉をノックする音が響く。

 誰かと思い扉を開けると、そこには際どい寝巻きを着たハリティが立っている。

 その淫猥な格好に、ジークはゴクリと唾を飲み込んだ。


「夜中に失礼しますわ。2人だけでお話がしたくて……」

「え、は、はい……中へどうぞ」


 ジークは強烈な熱を感じ始める。

 ハリティが着ている寝巻きはサイズが小さく、彼女の豊満な胸とお尻がパツパツになっていた。さらに、寝巻き自体に透けている箇所があり胸元も開いている。

 ジークは思わず目を奪われた。


 ハリティは、見れば見るほど妖艶な女性である。

 彼女の気品がある立ち姿は美しく、その太ももは男の性欲を掻き立てる肉付きだ。胸元と足元の露出が多く、見ているだけでジークに情欲が湧いてくる。


「座ってもよろしいですか?」

「は、はい」


 そう言うと、ハリティはジークのベッドに腰をかけた。

 座る仕草は上品で、男を魅了する色気がある。


「ジークも隣に座ってお喋りしましょう……ね?」

「……は、はぃ」


 ジークは彼女の言葉に従ってしまう。本能が彼女に服従しろと言っている。

 何故なら、ジークは年上好きだからだ。

 言われるがままに隣に座ると、ハリティは自然に指を絡めてくる。


「――っ!? あ、あの……」

「……何ですの?」

「ぃ、いえ、何でもないです……」

「……フフフ。変なジーク」



 彼女が三つ編みを解いた髪をかき上げると、欲望を刺激する甘い女性の香りが辺りに広がる。その香りを吸い込み、ジークの脳が痺れ始めた。


「あの、なんの話をしますか?」

「ジークのことを聞きたいですわ……」

「……俺のこと?」

「ええ、好きな女性のタイプなど知りたいですわ」


 彼女はジークの左腕に胸を押し付けて、上目遣いで質問をしてきた。

 ハリティの積極的な誘惑に、ジークは思わず目を逸らして照れ隠しをする。


「えーと、優しくて俺のことを大切にしてくれる女性が好みですね」

「そうですの。好きな人としたいことはありますの?」

「色々ありますね。好きな人となら、デートとかしたいですね」

「……決まりですわね。私とお付き合いしましょう」

「――ふぁ!?」

「恋人になりましょう。以前から好きでしたの……」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 唐突な告白に、ジークの頭は一瞬真っ白になる。思い返せば、以前にも似たような出来事があった。ジークの部屋に来て、一緒に寝ようと誘ってきたことがあったのだ。その時はなんとか誤魔化せたが、今回は難しい。ジークは覚悟を決めて返答した。


「ぉ、俺は、他に好きな人がいるんです」

「……え」

「すみません。気持ちに応えることはできません」

「……え、え、だってジークも、私のことが好きだったはずでわ?」

「……え? 妹弟子としては好きですよ」

「…………」


 ハリティが呆然としている。

 口が半開きになり青ざめた顔をしていた。

 目には涙が浮かんでおり肩が震えている。

 その表情を見て、ジークの胸に痛みが走った。

 しかし、言葉を濁す訳にはいかない。


「……だ、誰が好きなんですの?」

「……それは、言えません」

「……なぜ?」

「言えません」

「…………ぅぅ」


 彼女は大粒の涙を流して静かに泣き始めた。

 きっと断られると思ってなかったのだろう。

 それ以上に、ジークのことが好きだったのかもしれない。


「……その相手と、結ばれそうですの?」

「……正直、難しいですね」


 ジークが好きな人とは言うまでもなくグリーナだ。

 しかし、師と弟子の関係である以上は世間体が悪い。

 そもそも、グリーナはジークの保護者であり義理の母親だ。

 ゴードレアの辺りでは、母と子が結ばれるのは許されない。


 だが、可能性はあった。

 例えば師弟関係と親子関係を解消すればいい。

 それでも、元師弟で元親子という事実は残り、世間の目はつきまとう。

 それをグリーナが了承すれば、結ばれることは可能だ。


「……片想いなのですの?」

「わかりません。ただ、遠い存在です……」


 その言葉を聞いて、ハリティの表情が変わる。


「つまり、私にも可能性は残されていると?」

「え? ど、どうなんですかね……」

「正直に言ってください。私の容姿は嫌いですの?」

「ぃ、いえ、嫌いじゃありません……」


 むしろ大好きです。そう言いそうになったが、ジークは言葉を飲み込んだ。


「では、性格はどうですの?」

「も、問題ないと思います」


 淫猥な女性は大好物です。そう言いかけてジークは堪えた。


「生まれはどうですの? 私は下級でも貴族ですわ」

「……全く問題ないですね」


 ジークは気づいた。ハリティと結ばれるのはアリだと気づいた。


「じゃあ、私にも結ばれる可能性はありますわね」

「……確かに。ありますね」


 ジークは納得してしまった。よくよく考えれば女性は一人だけではない。グリーナのことが好きなのは間違いないが、叶わぬ恋ならば違う選択肢もあるのだ。それが、お互いのためになる場合もある。


「ですが、期待しない方がいいです」

「……諦められませんわ」

「ハリティさんは美人ですから、もっと良い男が見つかりますよ」

「私のことを美人だと思いますの?」

「はい。間違いなく綺麗で可愛くて美人ですよ」


 ジークの言葉を聞いたハリティの表情が明るくなった。彼女は本当にジークが好きなのだろう。涙を流していたのが嘘のように止まっていた。


「では、諦めませんわ!」


 次の瞬間、彼女の指がジークの下腹部に触れた。その行為を彼女が理解しているかは分からないが、激しく撫でるように指を這わせてくる。動くたびに体には電流が走り、強烈な快感がジークを駆け抜けた。


「ぁ……」


 ジークは小さな声を漏らすと真顔に変わる。

 彼女を押し返し、股を閉じて饒舌じょうぜつに語りだす。


「……ふぅ。一旦落ち着きましょう。

 淑女として相応しい振る舞いをするべきです。

 一時の気の迷いで自分を台無しにするべきではありません。

 ハリティさんは美人ですし、優秀な魔法使いですからね。

 きっと相応しい男性が見つかるはずです。明日にでも見つかるかもしれません。

 今日のことはお互い忘れて、明日からは弟子同士で仲良くしましょう。

 俺はハリティさんのことは美人だと思いますし、好きですよ。

 でも、こういうことは流れや勢いでするべきではないでしょう。

 お互いを想うからこそ、慎重に行動をするべきです。

 俺はハリティさんを応援しますし、できる限りの協力もします。

 ですから、一旦冷静になりましょう。

 ハリティさんは貴族ですし、相手の男性も貴族じゃないと釣り合いません。

 そこを重視して見つけるべきでしょう。俺は孤児なので貴族ではないですしね。

 なので、今日のところはお引き取りください」


 ジークの説得のせいか、ハリティは冷静さを取り戻したようだ。

 そして、小さく呟く。


「……なんですの、このネバネバ」


 その後、彼女は赤い顔のまま自室へと戻った。

 この日の出来事を、ジークは忘れられないだろう。


 翌日は気まずかったが、ハリティが積極的に話しかけてくれて助かった。

 彼女の想いにジークの心は揺れ始めており、何が起こるか分からない。

 これから2人はどうなるのだろうか。


 そして、ついに悪竜討伐記念パーティの日を迎える。





 


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