第4話 お師匠様と、英雄凱旋!
そこに、遠くからジーク達を呼ぶ大声が響く。
「おーい、お前らぁー!」
赤くなったジーク達は声の主に目を向けた。そこに映ったのは、完全武装したマグウェルが早馬に乗って駆けてくる姿である。彼が身に
黄金に輝く兜と鎧からは強力な
「マグウェル団長遅いですよ。もう終わりましたよ」
「……そうらしいな。いやー参った。ここまで強くなっているとは思わなかったぞ。もう坊主なんて呼べんな、ジークよくやった!」
「ありがとうございます。でも、師匠のサポートが無ければズメイの息で死んでいました。俺一人の功績ではありません」
「そうか……そうだな! グリーナもご苦労だった、ありがとう」
「いえ、私は途中で腰が抜けましたので……」
「そんな事はないさ、この巨大な要塞を見れば分かる」
そう言うと、マグウェルは大地の要塞に目を向けてグリーナを労った。
当然だ、グリーナの魔法が無ければ間違いなく多くの犠牲者が出ただろう。
結果だけ見れば楽勝に思えるが、実際は紙一重だった。もしあそこでズメイの息が吐かれていれば、亡骸となったのはジーク達なのだから。
「まったく大したもんだ。これなら悪竜の大群が来ても安心だな」
「ご冗談を。ズメイが伝説よりも弱くて助かりましたよ」
「今回は運が良かっただけでしょうね」
「……そうだな、とにかくよくやってくれた。悪竜の情報が広まったせいで、王国全体が混乱していたからな。悪竜のいるサージマル領は特に酷かった。だが、これで王国の人間は安心して生活できるだろう。きっとお前達は英雄と呼ばれるはずだ」
「英雄ですか。出世できるといいなぁ」
「ん? ジークは出世が望みなのか?」
「はい。やっぱり貴族とか騎士とかに憧れがあります」
「そうか、お前の功績ならば問題ないだろう。今回の件で出世できると思うぞ。
報告書にも、お前の活躍を書きまくってやろう」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「騎士団長様、ジークに特別扱いは必要ありません。
「グリーナは厳しいな、だが大丈夫だ。控えめにしても、ジークの活躍を書く事になるからな。勿論、グリーナの活躍もだ。一番活躍してないのは、武装して終わった俺だな! がははははは! 情けなくて涙が出るぜ」
マグウェルは豪快に笑って自虐した。
「もし騎士になりたければ、いつでも言ってくれ。お前の実力なら大歓迎だぞ、ジーク。それと、これから討伐隊は街に戻り解散するが、お前達には後日改めて連絡が行くと思う。報酬の件でな」
報酬の件、その言葉でジークは破顔しそうになった。
悪竜ズメイを倒した功績を考えれば、報酬の額は相当なものになるはずだ。庭付きの豪邸が買えるかもしれない。そう思うとジークは上機嫌になった。
「報酬ですか! 出世と一緒に楽しみにしていますね」
「ハッハッハ、もしかしたらサージマルの領主から特別な褒美もでるかもな。
討伐隊結成の際に挨拶をしたが、真っ青な顔で死にそうになっていたからな。
ズメイを討ち取ったと報告すれば、喜んで恩賞を出すかもしれん」
「相当怖かったのでしょうね」
「ああ、自分ごと治める領土が消えるかもしれんからな。正直、俺もビビってた。
幸いにも出番がなくてよかったと思うほどにな……」
「さて、無駄話も終わりだ。ズメイの亡骸を運んで凱旋するとしよう。
お前たちを呼んで正解だった。本当に助かったぞ」
「はい、役に立ててよかったです」
「騎士団長様、また何かあれば言ってください」
「ああ、その時はよろしく頼む。後は俺達の仕事だ、2人は先に帰るといい」
「では、お言葉に甘えます。ラーナでまた会いましょう、マグウェル団長!」
「ああ、またな!」
2人はマグウェルに別れを告げて、ライナーと共に我が家への帰路に就く。
とても短い悪竜退治になったが、グリーナが無事でよかったとジークは安堵した。
「さぁ、ラーナの街に帰りましょう。プリシャとハリティさんが心配してます。
セドナさんは分かりませんけどね……」
「ええ、皆に無事を報告しないと。それに、家でゆっくりと休みたいですね」
「俺は師匠と、もう少し2人でいたいですけどね」
「……ぇ」
「師匠が無事で良かったです」
「……はぃ」
帰路の途中、ジークが何度も彼女を抱きしめたのは言うまでもないだろう。
そしてこの時、ジークはグリーナの表情におかしな気配を感じた。まるで、欲求不満が蓄積して、大爆発を起こす寸前のような気配を。
――ラーナの街――
フェッド大陸の西に位置する国、ゴードレア王国。
この国は資源が豊かな場所であり、森や川、そして平原の多い環境にあった。
ラーナの街は、そのゴードレア王国のサージマル領において最大の都市である。
森林とシーヌス川の恵が集まる花の都、それこそがジーク達の家がある場所だ。
この日、ジーク達が着いたときはラーナの街はお祭り騒ぎになっていた。
恐らく、悪竜ズメイが被害を出すことなく討ち取られたことが、早馬の情報で分かったからだろう。そのため、それを成し遂げたのは魔人戦争を終結に導いた大魔導師と、その一番弟子であるジークだと瞬く間に知れ渡っていたのだ。ジーク達が拠点を出てから1週間。ラーナに入るための門に着くと、その途端に周囲が大きく騒ぎ始める。
「うわあぁぁぁぁ、グリーナ様だ! 隣の人がジーク様か?」
「おお、緑だ。噂通り、緑の大魔導師なんだな」
「可愛いー!」
「キャー、ジーク様かっこいいじゃない!」
「ほんとほんと♂」
「ズメイを倒してくれてありがとおぉぉぉ!」
バレた原因は、グリーナの容姿がわかりやすくて有名だからであった。全身緑色で少女のように可愛い魔法使い。この国には一人しかいない特徴である。気づかない方がおかしい。辺りからは次々と野次馬が押し寄せて、ジークはその光景に驚いた。少しの騒ぎは想定していたが、予想以上の反響だからである。ジークが考えていた以上に、サージマル領の人々は悪竜に怯えていたようだ。辺りからは拍手喝采がドッと沸き起こった。
「本当にありがとう!」
「まったくすげ~な。おかげで国外に逃げる必要がなくなったぜ」
「あんなのでも倒せるなら、悪竜なんて名ばかりだったのさ」
「違いない。俺でも倒せそうだ」
「ちょっと押さないでよ!」
「今度うちの酒場に来てくれよ! サービスするからよ」
「ばかやろぉぉ! 足踏んでんじゃねーぞ」
「悪竜なんてトカゲと一緒よ」
人が集まりすぎて進めない。ライナーも迷惑そうにゆっくりと進んでいる。
割れんばかりの拍手にグリーナは照れて俯いた、その横顔が可愛かったので、思わず耳元に息を吹きかけるジーク。
「ふぅー」
「――ひゃっ! な、なんですかジーク」
「いえ、つい可愛かったもので」
「も、もう!」
ラーナの門から数時間後、ようやく家に到着する。荷馬車を片付けてから庭にある小屋でライナーを休ませると、2人は玄関を開けて中へと入った。懐かしいような落ち着くような匂いを嗅いで、ジークはやっと肩の荷が下りるのを感じた。
「ただいまー」
「ただいま戻りましたよ」
玄関で帰ったことを知らせると、ドタバタと勢いよく音を立てて女性が走ってきた。そんな元気な彼女の名前はプリシャ・ハートラ。ジークの妹弟子の1人である。
「お帰りなさい! 2人とも大丈夫だった? 怪我はないの?」
「ああ、なんとか大丈夫だったよ」
「心配をかけましたね、私達は無事ですよ」
「よかった~、心配してたんだよ」
2人の無事を確かめたプリシャは胸を撫で下ろしたようだ。
彼女は昔からジークとグリーナを慕っており、家族のような関係である。
「そうか、心配してくれてありがとな」
「プリシャ、ありがとね」
「うん」
2人がプリシャに感謝を伝えると、彼女は無邪気な笑顔を見せた。
プリシャは
すぐに調子に乗る性格が玉に瑕だが、とても愛らしい妹分だ。
「ねぇねぇ、ズメイを倒したんだよね? 後で詳しく教えてね」
「わかった、ご飯とお風呂が終わったらゆっくり話すよ」
「うん! 準備するから2人は休んでてね」
「ありがとうね。ところで、ハリティとお師匠様はいないのですか?」
「数日は帰らないって、2人で出かけていったよ!」
「2人で? 珍しいな……」
「ええ、お師匠様はともかくハリティは心配ですね……」
その後、ジークとグリーナはお風呂に入り、プリシャの手料理を堪能した。お世辞にもあまり美味しくはなかったが、久々の家での食事にジークの心は満たされる。グリーナもホッとした様な表情を見せていた。
「ふぅー。ご馳走様でした。プリシャありがとな」
「ご馳走様です。美味しかったですよ、プリシャ」
「本当? また作るね!」
その夜、3人は悪竜討伐の話で盛り上がった。プリシャが碧い瞳を輝かせて2人の話を聞いている。実力不足で参加できなかったが、彼女も魔法使いだ。いつかきっと活躍の機会はあるだろう。
「凄い! じゃあ、本当に2人だけで倒しちゃったんだ」
「結果的にね、運が良かっただけだと思うよ……」
「そうですね、今回の戦いは紙一重でした」
「それでも凄いよ! 私もズメイ見てみたかったなぁ」
「私は二度と見たくありません……」
「見ないほうがいいよ、本当に怖いからな。俺は漏らしそうになったよ」
「あはは、そんなに怖いんだね」
ジークの弱気な発言に、笑をこぼしたプリシャ。彼女の可愛い微笑みに、ジークは少しドキリとする。彼女は顔立ちが良く美人に育っており、最近では体も女性らしくなってきていた。そんな彼女は、綺麗な金髪を肩まで伸ばした15歳の同い年。ジークの事が好きらしいが、今のジークは彼女を妹として扱っている。これからどうなるかは分からないが。
しばらく会話は続き、気づけばジークとグリーナは疲れたようで眠ってしまった。プリシャは2人にそっと毛布をかけてあげ、長い一日は終わりを迎える。
こうして、ジーク達の悪竜討伐は幕を閉じた。
次回 新章 大貴族への道 ジーク出世編
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