第3部
「童話主人公・・やはりか。ならばここで倒す」
そう言うと、パンドラはフォースウィングを展開し、空中高くへと飛翔すると、両手のインストールゲートからマルチビットを複数基現実化し、自身の周囲に配置する。
『空中で戦うのか?』
「地上で戦えば影に身を潜めて奇襲出来る奴の独壇場だ。空中なら影からの奇襲は出来まい」
『!? 彼女が!』
影から現れ出た蝙蝠女こと、童話主人公【ブレーメン】は、次の瞬間、持っていた影の刀を自身へ向けると、それを突き刺し、その身を貫かせた。
その直後、ブレーメンの肌の色が文字通り黒く変色していき、身体全体が肥大していく中、耳が伸びると同時に鼻の穴も拡大していく。
そして尻尾が生えると同時に爪や牙も伸び、瞳が紅い光を放つ翼手目の巨大生物へと変貌を遂げると、鋭い眼光でパンドラを睨め上げ、その大きな翼を羽ばたかせた。
「蝙蝠の姿になったか。空中戦には応じるつもりらしい」
迫るブレーメンから逃げ回りつつ、一定の距離を維持したパンドラは、召喚していたマルチビットでの迎撃体勢に入る。
「さて、持ち込んだとはいっても、この都市自体が奴のテリトリーだ。地の利は向こうにある」
『ではどうする?』
「奴の意識は私に集中している。マルチビットで多角から攻撃させるか」
そう言うと、パンドラはマルチビットのいくつかを散開させ、ビルを盾にしつつ、ブレーメンの視界の外から光線を浴びせかけた。
「後はこっちでも奴の注意をひき続けないとな」
ブレーメンの方に向き直ったパンドラは、胸部のインターフェースシンボルからフォースカノンを放ち、ブレーメンへと直撃させる。
甲高い鳴き声を上げ、のた打ち回りながらビルへの激突を繰り返した末に、ブレーメンは巨大蝙蝠の身体を崩壊させながらとあるビルへと転がり落ちた。
「一気に畳み掛ける!」
絶好の好機と判断したパンドラは、無人のビル内に転がり落ちたブレーメンの下へと、自らも降下する。
地面に力無く横たわる黒い物体から、黒い膜が鱗の様に空中に流されては消えていき、その中から先程まで地上で戦っていた少女の姿が現れると、少女ブレーメンはゆっくりとその身を起こし始める。
「おねーちゃん!」
「!」
その時、突然呼びかけられた方へ視線を向けると、メリーと赤ずきん、そしてキタカゼが駆け付けていた。
「お前達・・何故ここに?」
「もーまつのあきたー!」
「ボクは待ってなって言ったんだけどねぇ・・・・・・」
「我々はインテリアじゃないぞ」
「・・ハァ~~分かった。だがもう少し待て。アレは童話主人公だ。お前達では対処出来ん」
「そうでもない」
「?」
「幸い、一部メンバーの分の武器が支給されてる。これなら奴を倒せるだろう」
そう言うと、赤ずきんは右手にサブマシンガン、左肩にミサイルランチャーを担ぎ、ブレーメンへと引金を引く。
ところが、轟音と共に放たれるミサイルや弾丸が注がれる中、ブレーメンは足元から闇を引きずり出すと、それらを全て飲み込ませ、直後に赤ずきん達の足元の暗闇から吐き出した。
「!」
「【
しかし二人に直撃寸前だったそれらに対し、パンドラは【
「潜るだけでなく、影や暗闇を物理的に操れるのか・・厄介だな」
「あの影を使えなくする方法は無いのか?」
「影を消し去る事は出来んが、弱める事は出来よう。幸いここには光も焔もあるしな」
「! 確かにここは暗過ぎるな」
「少し明るくしないとね」
赤ずきんは愛用の二丁拳銃に持ち替え、キタカゼはタイヨウと入れ替わると、フロア中を爆撃の様な焔属性の銃撃と光属性の閃光弾が満たした。
白一色の世界の中で、エコーロケーションで周囲の状況を感じ取るブレーメンと、生体波導感知能力で生物の位置を特定出来るパンドラのトシュッ、バシッという徒手空拳のぶつかり合う音のみが響き渡る。
だが肉弾戦では決着が付かず、パンドラは【
「・・・・・・・・・・・・」
無言のまま苦しそうにもがくブレーメンに、パンドラは【
閃光が止み、赤ずきん達もその光景に戦いの収束を疑わず、胸を撫で下ろしたまさにそのときだった。
「!」
突然、パンドラの身体が風に舞う砂の如く消え始めると、同時に【
「ぐっ!」
そして、パンドラにとって心当たりのあるこの突然の現象の、まさしく現況ともいえる存在が眼前に姿を現した。
「久しいな蝶々仮面。どうだ? 我等が新兵器【
妙に静かなパンドラに違和感を覚えたムーンフェイスは、パンドラを軽く小突く様に蹴り飛ばす。
「!」
「・・・・・・ウゥゥッ・・グゥルゥウゥ~~~ウhcjgfd」
「パンドラの様子がおかしい!」
「パンドラ?」
「おねえちゃん?」
タイヨウと赤ずきん、そしてメリーもパンドラの異変に気付き、駆け寄っていく。
だが次の瞬間、床にうずくまっていたパンドラの身体がボコボコと膨らみ始め、その場にいたブレーメン以外の全員が即座にそこから距離を取った。
みるみる膨らみ続けたパンドラの身体は、スーツであるヴァルキリーがバラバラに弾け飛び、極限まで太ったかの様な手足が破裂すると、その中から鋭利な甲殻状の昆虫の脚が姿を現す。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
「!」
恐怖に震え呆然とするメリーに気付いたタイヨウは、慌てて彼女の視界を隠し抱きかかえた。
『おいどうした? 一体何が起きている?』
「パンドラが・・・・・・怪物になった・・・・・・」
『何?』
パンドラの変貌は止まる事無く、最大の特徴であった蝶々仮面は砕け散り、中から虫特有の複眼が現れると、鼻だった部分が管となり口元は甲殻で覆われ、辛うじて残っていた胴体も弾け飛び、昆虫としての胴体と超大型の羽が生える。
その全体的な姿は最早、巨大なアゲハ蝶以外の何物でもなく、それは甲高いキュ~ルルルルという鳴き声を周囲に響かせた。
『・・・・・・今のは?』
「・・・・・・・・・・・・」
「・・怪物に成り果てたパンドラの声だ」
《第4部へ続く》
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