第4部


「何だコレは・・・・・・一体どうなっている?」

 離れた位置から怪物へと変貌したパンドラだったモノを見上げながら、ムーンフェイスは戸惑いの声を漏らす。

 そのパンドラだったモノは、周囲を見渡すと、尻餅をついた常態のブレーメンをターゲットに定め、歩を進めた。

「!」

 自身が狙われている事に気付いたブレーメンは、後ずさりしながら慌てて影の中に逃げ込もうとする。

 だが、ムーンフェイスによるキャンセラーフィールドによって魔法が無効化されたのは、何もパンドラだけではなく、童話主人公達も使用出来ない訳で、初めての事に動揺した様子を見せるブレーメンに対し、パンドラだったモノは鼻が変化した渦巻状の管を勢い良く伸ばすと、まるで針の様にブレーメンへと突き刺し、自分の側へ引き込み始めた。

「お、オイ?」

「・・・・・・何をする気だ」

 ブレーメンを引きずり込むソレを見たタイヨウ、赤ずきんとシラユキの表情が徐々に険しくなっていく。

 引きずられるブレーメンは、必死に自身に刺さった管を抜こうともがくが、刺さった管はまるで返しでも付いているかの如く、ビクともしないまま遂にその身は虫の様な巨大な腕に捕らえられた。

「!」

 そして次の瞬間、パンドラだったモノは、掴み取った腕でブレーメンの左腕を引き千切ると、それを管の下にある自らの口へ放り込んだのである。

「うッ!」

「くっ!」

「貴様ァ!」

 その異質極まりない光景に、同族を殺されたかの様な怒りを覚えた赤ずきんは、あらゆる銃器をパンドラだったモノへ叩き込んだ。

 しかし、甲殻化したパンドラの身体には傷一つ付かず、代わりに口から放たれた光線によって、回避し切れなかった赤ずきんの右腕が切り飛ばされ、宙を舞う。

「っああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!」

「赤ずきん! ・・・・・・ここに隠れていろ。俺が戻るまで絶対に眼を開けるなよ?」

「うん」

 視界を隠し抱きかかえていたメリーを物陰に隠すと、タイヨウは地面に転がる赤ずきんの下に即座に駆け寄った。

「大丈夫か、しっかりしろ!」

「ううぅっ・・・・・・」

「救援を呼ぶ」

 タイヨウが負傷した赤ずきんを抱き抱えると、元の場所まで後退し、シラユキが氷属性の魔法を使って赤ずきんの患部を覆う。

「・・こちらタイヨウ。緊急事態につき救援を頼む! 赤ずきんがやられた。馬車ごとこっちに寄越してくれ」

『既に向かっている。主の様子はどうか?』

「完全にイカれている。敵味方の区別が付いてない。それと・・」

『それと?』

「・・・・・・ブレーメンを食ってる。」

 険しい表情のタイヨウの視線の先では、パンドラだったモノが、ブレーメンの腕だけでなく脚や胴体までも噛み千切っては腹の中に収めており、既にブレーメンが絶命しているのは明らかだった。

『食う? ・・食しているという事か!?』

「そう言った!」

『何という事だ・・・・・・何としても止めねば!』

 その通信から程無くして、タイヨウ達の下に馬車が到着すると、中から金太郎を筆頭に、桃太郎とウラシマが駆け下りてくる。

「! ヒッ・・」

「何なのコレ? 腕片方無くなっちゃってるじゃない! 」

 赤ずきんの惨状に、さすがのウラシマと桃太郎も動揺をあらわにした。

「・・タイヨウ。状況の詳しい説明を頼む」

「当初、パンドラとブレーメンの戦いは拮抗していた。そこで、赤ずきんの焔と俺の閃光弾で奴の周りの影を可能な限り弱めた事で、パンドラが限りなく有利になり、そのまま決着が付く筈だった。だが、そのタイミングでムーンフェイスの奴が現れ、キャンセラーフィールドとかいうカラクリのせいで、パンドラの身体が徐々に消え始めた」

「ムーンフェイスが!?」

「アタシ、コイツを船の医務室まで運んでくるわ!」

 そう言うと、桃太郎はシラユキと共に瀕死状態の赤ずきんを馬車の中へ運び込み、そのまま馬車ごとムーンアークの方へ戻っていく。

「消えかかったその隙に、ブレーメンの奴がパンドラに近づいて何かしていた。パンドラが化物になったのはその後だ」

「となると、ブレーメンは主を支配下に置こうとして、そのまま予想定外の変貌を遂げた主に食い殺されたという事か。マズいぞ・・このままではこの世界は消滅する」

 パンドラだったモノから眼を離さずに手甲をつけた金太郎は、同じく装備を持ってきていたウラシマ、そしてタイヨウと共に、パンドラだったモノへと攻撃を仕掛けた。

 パンドラだったモノは、それに気付くと再び管を伸ばし、ブレーメンの時と同じ様に金太郎を突き刺そうとする。

 だが、童話主人公一屈強な身体を持つ金太郎はこれを直接手で受け止めた。

「気をつけろ。ソイツは一度刺さるとまず抜けんぞ!」

「そうか・・なら余が破壊しておかなければな!」

 タイヨウの警告を受けた金太郎は、その伸びきった管を手刀で切り取ろうと右手を振り降ろすものの、管はビクともせず、パンドラだったモノの口に光が灯る。

「イカン、避けるのじゃ!」

 ウラシマの呼びかけに金太郎が回避行動を取ったその瞬間、パンドラだったモノの口から光線が放たれ、金太郎をかすめた。

「グッ!」

「金太郎!」

「~ヒッッ!」

「狼狽えるな。大した怪我ではない」

「クッ」

 タイヨウはクナイを構えると、とりわけ一番柔らかそうな羽の部分を狙い、跳躍して斬りかかる。

「!」

 ところが、いかにも斬り裂けそうなその羽は、柔らかくもまるで鉄の様にクナイの刃を通さず、そしてトランポリンの様な弾力でタイヨウ毎跳ね返した。

「ハッハッハッハッハ! コイツは傑作だな! 欠陥だとは思っていたが、まさか童話主人公を食い殺すとはな!」

 ムーンフェイスの高笑いが響きわたる中、パンドラだったモノは、その羽を震わせて鱗粉の様な物を童話主人公達へ散布する。

「何だ?」

「吸い込まん方が良さそうだな」

 金太郎を始めとした童話主人公達は急ぎ鼻から下を覆い隠すが、呼吸器官を持たない機械のムーンフェイスは我関せずといった様子で仁王立ちの体勢でこちらを見下ろしていた。

 だが――

「!」

 突如、ビーッ、ビーッという警告音と共にムーンフェイスの視界をシステムエラーの表示が埋め尽くす。

「なッ!? 何だコレは・・システムエラーだと? ボ、ボディが上手く動かん・・・・・・システムエスケープも出来んだと!? グッ!」

 腹部への衝撃を感知したムーンフェイスは、そこにパンドラだったモノから伸びた管が突き刺さっている事に気付いた。

「ッ、コイツは・・グアァッ!」

 パンドラだったモノは、管を突き刺したムーンフェイスをそのまま持ち上げると、一気に口元へと引き寄せる。

「やめろ! 離せ!」

 全身のスラスターを噴射し、抵抗するムーンフェイスだが、パンドラだったモノは一番前の脚でムーンフェイスを掴むと、強引にムーンフェイスを口の中へと押し込んだ。

「クッ! このっっ・・ウッ・・・・・・グァォアアァfgfc・・grhr・・sfs・・・・・・」

「なッ!」

「・・・・・・!」

「・・ブレーメンだけでなく、ムーンフェイスまで・・マズイ、ともなれば次の捕食対象は・・・・・・」

 金太郎が次に訪れる最悪の事態を思い描く中、それを裏付ける様にパンドラだったモノは改めて童話主人公達の方へと向き直る。

「我々だ、全員退避!」

 直後に突き出された巨大な虫の手による一撃を全員後退して回避すると、キャンセラーフィールドが解除された事で、タイヨウが脚部の付け根を狙いクナイビットを投げ放った。

 だが、クナイビットは狙い通り脚部の付け根に突き刺さりはしたものの、直後にそのままパンドラだったモノの体内へと飲み込まれていく。

「チッ、投擲武器もダメか」

「コレならどうじゃ!」

 ウラシマが魔方陣から水を呼び出すと、それらを球体状に押し固め、パンドラだったモノの頭部を覆い尽くす。

 しかしそれでも、パンドラだったモノは苦しむどころか、狼狽える様子すら見せず、そのまま口から全て飲み干してみせた。

「コレも効かぬのか・・?」

「ならばこの雷の槍で串刺しにしてくれる! 許せ主!」

 金太郎は生み出した雷で長さ数メートル程の巨大な槍を造り出すと、大きく跳躍し、上空からその鋭い切っ先を突き立てる。

 ところが次の瞬間、その金太郎の身体を、パンドラだったモノの長く伸びた管が鞭の様に襲い、金太郎は一瞬にして地面へと叩き付けられた。

「っはァッッ!」

「「金太郎!」」

 苦悶の表情で地面に転がり動かない金太郎に駆け寄ろうとするタイヨウとウラシマだが、直後にタイヨウをパンドラだったモノの管が巻きつき、締め上げていく。

「っアアアアアァァぁぁッッッッッ!」

「タイヨウ!」

 ウラシマは大量の水を魔方陣から呼び出すと、それらで全長十メートル程のタツノオトシゴを作り出した。

 そして、生み出された巨大なタツノオトシゴが、口から高水圧カッターの様に細い水のビームを繰り出し、タイヨウを締め上げている管を斬り落としにかかる。

 それでも、半ば分かっていた事ではあったが、管が真っ二つになる事はなく、パンドラだったモノはその口を再び大きく開け、ウラシマへ向けて光を灯した。

「ぐぅぅッ、逃げろォ、ウラシマァぁぁッ!」

 動けないでいるタイヨウが必死に叫ぶも、ウラシマの耳には届いておらず、赤ずきんの腕を吹き飛ばしたものと同じ光線が、今度はウラシマへ向けて放たれる。

 だが、ウラシマはそれと同時に、新たな水を呼び出して二メートル程のスライム状の防壁を造り出すと、パンドラだったモノが放った光線を限界まで受け止め、別方向へと僅かに逸らしてみせた。

「っっっ~~~~ウゥッ!」

 光線の衝撃に、ウラシマは後方へ吹っ飛ばされ、尻餅をつくように倒れ込むと、そこへ更にもう一度、光線の光が宿っていく。

「ウラシマ~~~~~ッ!」

「・・・・・・ぁ、・・・・・・ぁ、・・・・・・」

 あまりに予想だにしなかった出来事の連続に、完全に思考能力を奪われてしまったウラシマへ、無慈悲にもその光は放たれた



・・・・・・筈だった。



「「「!?」」」

 その瞬間、突如としてパンドラだったモノとウラシマとの間に巨大な黒い球体が現れると、放たれた光線を全て飲み込んだのである。

『な、何だ今のは・・・・・・?』

 そして黒い円が地面に現れると、その中から、あのムーンアークを手に入れた月面帝国の世界への突入時以来、意識を失って眠り続けていたアリスが仁王立ちで姿を現した。

「!」

「おぉ、アリス! 意識が戻ったのか」

 強く打ち付けた全身を弱々しく起こしながらも、金太郎は駆けつけたアリスに表情を綻ばす。

「今大変な事になっているのだ」

「桃太郎さんから全て聞きました。私が何とかします」

 そう言うなり、アリスは先の物よりも小型のマイクロブラックホールを、タイヨウを締め上げている管を分断するように出現させ、あっという間にタイヨウを管から解放してみせた。

 更にアリスは、金太郎達が三人がかりでかかっても太刀打ち出来なかったそのパンドラだったモノから左右の羽、六本の堅牢な脚部を全てマイクロブラックホールによって奪い去り、尚もそれらを再生しようとする所を次々と潰していく。

「・・・・・・スゲェ」

「あ奴、ここまでだったとは・・・・・・」

「・・・・・・」

 唖然とする童話主人公達をよそに、アリスはこれまで使用していなかった隠された能力を露にした。

「アレは・・・・・・」

 アリスが宙に浮遊するとそこを核として重力球が発生し、頭と胴体のみが残ったパンドラだったモノを丸々飲み込むと、一瞬、対消滅の様に空間から姿を消し、そしてその直後、白い球体となって脈打ちながら、童話主人公達の前に再び姿を表したのである。

「コイツぁ・・何だ?」

「まるで繭の様だ」


          *


「はッ!」

 パンドラが次に意識を取り戻した時、そこは辺り一帯の暗闇だった。

「ここは・・・・・・! 身体が無い!? 意識のみという事か?」

「パンドラさん!」

「! アリスか!?」

「はい。眼が覚めた時、パンドラさんの身に何かが起こった事をすぐに感じ取りました。その後桃太郎さんから詳しい経緯も」

「ブレーメンの奴に噛み付かれてからの記憶が無い。一体何が起こった?」

「暴走してでっかい蝶々の化物になってから・・その・・・・・・ブレーメンさんを食べちゃったと聞いています」

「! 奴を食っただと!?」

「はい。そのせいで今いる童話世界が崩壊の危機を迎えています。金太郎さんやウラシマさん、タイヨウさんにも攻撃していましたが、私が間一髪止めました。ただ、赤ずきんさんは既に私が眼を覚ました時には、腕が片方無くなってて・・」

「そうか、復帰早々に君の手を煩わせた様だな。それにその状況では仲間達の信頼をも踏みにじってしまったと言える。これでは彼らが今度も付いて来てくれる事は無いだろう」

「まだ分かりません。少なくともここで戦っていた彼等は最後までパンドラさんが戻ってくると信じていたように思えます。でもそれも結局は戻ってみないと」

「どう戻れと?」

「生まれ変わるんです。人間は自分が犯した間違いを自分でやり直す事が出来ます。これは人間にしか出来ない事だと思うんです。パンドラさんは人間を模した存在で、厳密には人間ではないかもしれませんが、私はここが本当に人間以上の存在になれるかどうかの分起点だと思います」

「君はそれが私に出来ると?」

「人型生態魔法は、あらゆる状況において最適な作戦行動をとれるよう設計された意思を持つ魔法だって、パンドラさんが言っていた事です。本当に最適な行動がとれるのなら、万が一自分がミスを犯した時だってそれが出来る筈です」

「・・成程、いいだろう。生まれ変わる・・いわば〝新しい自分を創る〟という事か。ならば身体創りから入るとしよう。目下私が向かうべき目標は決まりきっている。そしてその道中における障害的要素も魔術無効化機構に留まらない事も分かってきた」

「はい」

「だとするならだ。事が終わった後の活動においても、我々が未だ知らぬ障害的要素に直面する可能性は圧倒的に高い。だが、そのいずれにおいても、もう私の身体が阻まれたり傀儡になるような事があってはならない」

「え~っと、つまりどんな物がきても対応出来る、弱点の無い身体にしなきゃいけないって事ですね。・・でもそれって無理じゃないですか? どんな要素が出て来るか分からないのに、それに対応出来る身体って・・」

「だろうな。今世界に現存する物で創ろうとするなら、だが」

「えっ? というと??」

「可能にする素材が無いなら、創ればいいのだ。【蝶・創・生】でな」

 次の瞬間、粒子状の光を放つ物体が目の前に集結し、人の形を成していく。

「以前は障害となるものを全て跳ね除けていた・・・・・・だが今度の身体で同じ事はしない。跳ね除けるのでは無く、取り込み、学習し、自らの物とする。決まった構成組織を持たず、時、場所、状況や相手に合わせて、自らの性質を、特性を、必要とあらば形状すらも変容させる」

「これが・・どんな状況にも対応を可能にする素材ですか?」

「変幻自在を特性とする万能素材・・【アヴリウム】とでも名づけようか」

「アヴリウム・・・・・・」

「さて、素材はクリアしたとして、ガワをどうするか・・・・・・ヴァルキュリーも悪くは無かったが、私としては前のゴスロリ服の方が馴染み易いな。それに・・」

「?」

「君も元には戻れんのだろう? 私一人のためによくもまぁここまでやったものだ」

「・・私は自分の童話世界を助けてもらった時から、何があってもパンドラさんについていくと決めてましたから」

「まぁ良い。戻れんのなら組み込んでやるまでだ・・・・・・お前もな」

「!」

 アリスがパンドラの意識を向けた先を辿ると、そこにはボロボロに大破したムーンフェイスの姿があった。

「えっっ!? 本気ですか? アイツは私達の世界をメチャクチャにした奴ですよ! 正気とは思えません!」

「では奴をこのまま野放しにするか? まぁ奴も元に戻れるとは思えんが、我々がこの状況を打開してしまえば話も変わってくるだろう。そうなればまだ見ぬ童話世界が奴の餌食になり、それを我々が解放する際も奴の妨害が来る事になる。私としてはそんな面倒な事をここで封じる意味でも取り込んでおきたいがね」

「それは・・・・・・」

「無論、奴を取り込んだ際に、逆に奴に身体を則られる危険性が無いわけではない。だがそれに抵抗する為にも君の力は必要だ」

「・・・・・・・・・・・・条件があります」

「何だ?」

「もし今後、ムーンフェイスによってもよらなくても、パンドラさんが制御不能になった時には・・・・・・自分の手で責任を取って下さい」

「成程・・システムとラップによる自爆プログラムか。確かにそれぐらい仕掛けておいた方がいいかもしれないな」

「・・ここハ、何だ? ・・・・・・身体が動かン」

「ようやくお目覚めか?」

「!? どこだ、どこにイル?」

「目視で探そうとしても無駄だ。私は今、身体を失っているからな。だがそれもここまでだ。お前には私の新しい体の一旦となってもらう」

「何ダと? ふざけるな」

「選択権など、お前には無い」

「や、ヤメロ・・ゥグfd・・」

 直後、パンドラの意思による力なのか、残骸だったムーンフェイスは、一つの眼球へと姿を変える。

「っハッ! 何だ・・何が起きた?」

「お前には私のサポートAIとして新たな右眼・・【機械人形の右眼サイバドールアイ】になってもらう。アリス、君の要素は全体的に取り入れさせて貰うぞ」

「それは構いませんけど、私はどうすればいいんですか?」

「そうだな・・左眼の新しい【魔導人形の左眼マギカドールアイ】になってもらうか。君の重力魔法も使いたいが、スペードブレイダーが使えなくて不便だったぞ」

「す、すみません・・・・・・」

「さて、この身体にまず私が入るとして・・」

 そう言うと、パンドラは先刻自らが造り上げたアヴリウム製の身体に自らの意識を落とし込み、続けて【魔導人形の左眼マギカドールアイ】となったアリスへと手を伸ばした。

「ここに君。そしてお前はここだ」

 【機械人形の右眼サイバドールアイ】となったムーンフェイスを右眼の位置にはめ込むと、パンドラは顔面に新たな蝶々仮面を生成し、不敵な笑みを浮かべる。

 そして頭部のシルクハット、その上にアリスの頭部にあったウサ耳風のリボン、髪、ブーツ、自身を構成するその全てをアヴリウムで作り出すと、髪の毛の一部をアリスと同じブロンドのツインメッシュへ、スカートの一部をアリスのスカートと同じ青色へ、ブーツの色をアリスのと同じこげ茶色へと変色させた。

「身だしなみはこれ位で良いか。さて・・・・・・」

 新たな身体を得たパンドラは、宙に手をかざす。

「そろそろこの暗い場所から出ないとな」

 次の瞬間、かざした右手の先に無数のアヴリウムの蝶が短剣状に集まっていくと、それらがウネウネと動き出し、久しく見ていなかったスペードブレイダーへと変貌を遂げた。

『わぁ!』

 驚くアリスをよそに、パンドラは更にもう一振りのスペードブレイダーを手にすると、山吹色の光刃を展開し、上方向へ突き立てる。



《最終部へ続く》

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