第5部



「パンドラ、聴こえるか? 外宇宙にいる観測隊から、宇宙怪獣共の本隊を発見し、ワープドライブ直前との報告を受けた。もういつこちらにワープアウトしてもおかしくない。いつでも対処出来るよう気を引き締めてかかってくれ」

「いらん心配だ。既に迎撃準備は整っている」

 戦闘宙域の最前線でロマンダイナと共に待機していたパンドラは、そのコックピット内で腕を組みつつ、静かにその時を待ち構えていた。

 一時、長い静寂が宙域を包み込む。

 だが、その静寂は突然の警報によって破られた。

「シメオン星雲より宇宙怪獣出現、ワープアウトしてきました!」

「来たか!」

 その一報に旗艦艦長は勢いよく立ち上がる。

「・・・・・・」

 現れた宇宙怪獣達の生体波導を感知したのか、パンドラも静かに目を開け、組んでいた腕を解き臨戦態勢に入った。

「行くぞ」

『了解』

 ロマンダイナは背部メインブースターと各所のスラスターを同時に吹かすと、宇宙怪獣の出現ポイントへ向けて飛び立つ。

「これより作戦行動に入る。敵トルーパー級をひきつけるぞ」

『了解』

 パンドラは接近するトルーパー級の群れにロマンダイナを突っ込ませると、キタカゼとタイヨウを魔宝具形態でクロスオーバードライブさせる。

 ソーラーボレアスを構え、弓を引くと、ロマンダイナはトルーパー級軍団へと狙いを定めた。

「・・太陽風爆裂弾コロナブラスト

 風属性を纏った光属性の矢の先に球体状の灼熱弾が生成されると、ロマンダイナがその矢を放ち、吸い込まれるようにトルーパー級軍団へ向かった太陽風爆裂弾コロナブラストは、それらを宇宙の藻屑へと変える。

 それを受けたトルーパー級の第二波が、その進路をロマンダイナへ向けたのを確認すると、パンドラはロマンダイナをその下方の宙域へと進め、引き剥がすようにそれらを引き寄せた。だが、

 コックピット内に響く新たな警告音と共に、パンドラはより規模の大きな生体波導が数体混じってこちらへ接近しているのを感じ取る。

「バンガード級!? チッ」

 早速起こった予定外の事態に、パンドラは舌打ちしながらもソーラーボレアスをしまい、フォースカノンの発射体勢に入った。

 ところが、ロマンダイナから放たれた山吹色の高エネルギービームは、バンガード級を焼き切る事無く、その堅牢な身体に弾かれ、光の筋を逸らされてしまったのである。

「! 硬いな・・・・・・」

 どうしたものかと考えあぐねるパンドラに、バンガード級は隠し持っていた巨大な口をガバッと広げ、その中からフォースカノンよりも大規模な光線を繰り出してきた。

「チッ」

 その時、パンドラは出撃前にトーマスから受け取ったマルチビットスカートの存在を思い出す。

「(トーマスが作ったこの武装、ロマンダイナでも使えるか試してみるか・・)」

 パンドラがそう考え、腰のマルチビットを展開しようとすると、ロマンダイナの腰にサイズが巨大化しただけの全く同じユニットが出現し、パンドラの意思に則って散開した。

 そしてそれぞれを連携させ、巨大な一枚のフォースバリアを形成すると、敵バンガード級が放った大規模な光線から身を守る事に成功したのである。

「ホウ、コレは中々。防御は良しと。なら攻撃はどうかな?」

 パンドラはロマンダイナ越しにマルチビットの防御体勢を解除すると、その内の半分を前方へ筒型に配置し、再びフォースカノンの発射体勢を取った。

 再度、ロマンダイナから放たれた山吹色の高エネルギービームは、マルチビットの筒内で一瞬その動きを止めると、薄い光の膜を形成し、次の瞬間、更に大規模なビームとなって、迫っていたバンガード級の身体を貫いたのである。

「これは良い! ン?」

 その時、コックピット内に別方向から迫る敵を示す警告が表示され、パンドラも同時にその生体波導を感じ取った。

「ならば・・・・・・」

 パンドラは展開中の残っていたもう半分のマルチビットを操ると、後方から迫っていた敵トルーパー級の群れを一体ずつ、糸の様に規模を縮小したフォースカノンを用いて、超高速で処理していく。

 一方、パンドラが新兵器であるマルチビットの性能に感嘆していた頃、そこから遠く離れた宙域では帝国軍艦隊の一隻が窮地に陥っていた。

「と、トルーパー級多数接近!」

「撃ち落とせェ!」

「落としきれません・・ぐぁぁっ!」

「ぐぅぅぅぅっ!」

 直後に艦内を大きく揺らした振動に、クルー達は皆顔をしかめる。

「っ、トルーパー級が外壁に多数刺突! 被害甚大です」

「艦内を隔壁封鎖しろ!」

「了解。艦内隔壁封鎖。艦内隔壁封鎖!」

「推進部にも被害拡大。航行不能! 航行不能!」

「ぐぅっ・・・・・・」

 敵が多数跋扈する戦場において全く身動きが取れなくなった事に、艦長は唇を噛み締めた。

 だが状況の悪化はそれだけに留まらなかったのである。

「艦長ォ、バンガード級が本艦に真っ直ぐ接近中です!」

「何イィッ!? この状況でか・・総員退艦しろ! この船はもうじき沈む」

「無理です。先程のトルーパー級の攻撃によって避難艇が発艦出来ません!」

「ぐぅぅ遅かったか!」

 トルーパー級達の突撃によって、まな板の上の鯉と化した艦に充分に接近したバンガード級は、その大きな口をガバッと開けた。

「この・・化け物共がァァァ~~~ッ!」

 断末魔ともいえる艦長の叫びが艦内にこだまする中、バンガード級は多数のクルーが詰まったその船を一口で丸呑みにしたのである。

 だが、パンドラがロマンダイナによる大型フォースボールでバンガード級の一体を倒す頃には、帝国軍側は当初の戦力的窮地を脱し、徐々に戦況が好転しつつあった。

 帝国軍艦隊がどの方面から一番攻撃を受けているかを報告すると、それを受けたパンドラがそこの主力バンガード級を攻撃目標に設定し、艦隊とパンドラが同時攻撃を仕掛ける事で、各個撃破していくという流れがいつしか出来上がっていたのである。

「バンガード級、撃破確認!」

F〇六エフまるろく宙域より更にもう一波来ます!」

「クッ!」

 通信を受け取ったパンドラは急ぎ、ロマンダイナのメインブースターを吹かし、該当宙域へと向かった。

 マルチビットスカートを展開すると、フォーメーションを組ませて同時に小規模のフォースカノンを放ち、それらを空中で合わせて通常規模にまで昇華させ、接近していたトルーパー級の一団を焼き払う。

 そして露払いを終えたその向こうから迫るバンガード級を発見すると、パンドラはロマンダイナのディスプレイを操作し、新たな攻撃対象を定めた。

「攻撃目標設定完了」

「撃てーッ!」

 旗艦艦長の号令で帝国軍艦隊が一斉に火を噴くと同時に、パンドラもマルチビットとロマンダイナからそれぞれフォースカノンを発射し、敵バンガード級をまた一体、葬る事に成功する。

「・・一体撃墜するのにここまでの火力が必要となると、流石にテンポ良くとはいかんか。あと何体いる?」

『ここまで大規模な敵を相手取る時、それは考えない方が良い』

「チッ」

「新たに宇宙怪獣接近! これは・・マザー級と思われます!」

「何ッ!?」

「来たか・・・・・・」

 パンドラ達の前に姿を現したマザー級は、それまで戦っていたトルーパー級を小魚、バンガード級とサメやシャチとすると、まるで鯨の様な規模だった。

「これが、マザー級・・・・・・」

『今までとは比にならん大きさだな』

「だが、倒せない程ではない」

 そう言うと、パンドラはロマンダイナのメインブースターを吹かし、その大王イカの様なフォルムのマザー級宇宙怪獣との距離を詰めにかかる。

「コレだけの規模ならば、少しずつ削いでいく!」

 パンドラはロマンダイナの変異発光性金属で出来た両腕を刀剣状に形状変化させると、マザー級のヒレのような部分から削ぎ落としていこうと斬りかかった。

『だが主よ、敵は全ての源であり、トルーパー級を生み出す存在だ。余り時間をかけすぎると、それ以上に何をしてくるか分からんぞ?』

「了解。攻撃箇所を見極める」

 一度大きく接近したパンドラだったが、マザー級を俯瞰的に見て分析する為、ロマンダイナを横から全体が見渡せ、且つ見下ろせる位置へと持っていく。

 すると突然、マザー級の動きに変化が生じ、鯨でいう生殖孔にあたる位置から、大群とも言える規模のトルーパー級を生み出したのである。

「アレが話に聞いていた能力か。先ずはあの器官を破壊する」

 最初の攻撃位置を定めると、パンドラはロマンダイナを一気に降下させた。

 それを迎え撃つようにトルーパー級の群れが迫るも、数体斬り伏せただけでその殆どをスルーしたロマンダイナは、排出器官を正面に捕らえる。

 一度排出されたトルーパー級が戻ってくる中、マザー級は迎撃を図り、再度トルーパー級を多数排出した。

 だがロマンダイナはそれも構わず、マルチビットスカートを展開すると、トルーパー級の群れを葬った時と同じ様に、二本のフォースカノンを撃ち込む。

 排出されたトルーパー級の群れを飲み込み、穴の中へと注ぎ込まれた高エネルギーの光は、マザー級の体内をまさぐる様に蠢き、それを受けたマザー級は、帝国軍人達がそれまで聞いた事もないような悲鳴を戦場に響かせた。

 だが、それでもこの全宇宙怪獣の最上位種たるマザー級の命を奪うまでには至らなかったのである。

「これでまだ死なんのか」

『何と頑丈な身体よ』

「ならば・・」

 そう呟くと、パンドラはロマンダイナを敵マザー級の正面にまわし、その先端部分に狙いを定めた。

「コレで仕留める。ムーンライトインパクト!」

 元の形状に戻したロマンダイナの右手に、波導エネルギーが急速に蓄積されていき、拳の先にムーンライトキックの時と同じ、満月と蝶の紋章が出現する。

 そしてロマンダイナを接近させると同時に、その右拳をマザー級の先端へと叩き込んだ。

 直後、マザー級は再び悲鳴を轟かせると、その巨体を爆散させ、宙域から消滅したのである。

「ま、マザー級・・消滅・・・・・・敵マザー級宇宙怪獣が消滅しました!」



《Moon-Ark――第6部へ続く――》

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