第2部



『それも良いですけど、フォースボールは避けてくださいね?』

「他のはどうか?」

 パンドラはそう言うと左手から焔属性のフォースバリアを展開した。

「これは通常通り使用出来るな」

『じゃあ残りは・・・・・・』

「これだな!」

 同時に氷の棘と息吹を放つ氷像軍団に対し、パンドラは即座に胸部中央へ波導エネルギーを凝縮させ、フォースカノンを放つ。

 紅い焔を纏った紫色の高エネルギービームは、氷像軍団を捕らえると瞬く間にそれらを蹂躪していき、水溜り一つ残さずに融解、蒸発させてみせた。

「フム、フォースカノンも問題無いか」

『となると問題があるのはフォースボールだけですか』

「そのようだな」

 近~中距離をどう対応していこうかと考えながらも、パンドラは危機を救ってくれた少女とコンタクトを試みる。

「助かった。礼を・・っ!」

 だが次の瞬間、【蝶・反・応バタフライリアクト】が見せた近未来ビジョンが、自分を攻撃する少女の姿を見せると、パンドラは瞬時に【蝶・効・果バタフライエフェクト】を使ってその場を緊急回避した。

『えっ? どういう事ですか?』

 突然駆け抜けた極冷気の波にアリスが困惑する中、パンドラは淡々とそれの意味するところを口にする。

「・・・・・・残念だが、彼女も友好的な人物では無さそうだ」

『そんな・・・・・・』

「くる」

 パンドラがそう呟いた直後、再び青白い高エネルギーの波導が放たれると、【蝶・反・応バタフライリアクト】でそれを予知していたパンドラは、左手から焔属性のフォースバリアを展開しこれを阻んだ。

 更にそこから【蝶・効・果バタフライエフェクト】で消失したパンドラは、少女の背後に再出現すると同時に、アリスをスペードブレイダー形態で起動する。

「悪く思うな!」

 そして対象が振り返るよりも速く、その光刃を背中へと突き刺した。だが、

『パンドラさん!』

「っ!?」

 光刃が、背中の寸前で消失していた。

 すぐさま距離を取ろうとするパンドラだったが、少女の方が一瞬速く攻撃態勢に入っており、左手をピストルの様に形作るとその瞬間、ドドドッという断続的な衝撃音と共に、パンドラの右脇腹が凍りつき、そこからサッカーボール程の氷塊が形成されていたのである。

「ぐっ・・・・・・【蝶・剛・筋ストロング】!」

 すぐさまスペードブレイダー形態のアリスをブローチへ戻しながら、焔の髪を操り氷塊ごと凍結した右脇腹を解凍したパンドラは、【蝶・剛・筋バタフライストロング】を発動し、全身にアゲハ模様の薄装甲を身に纏った。

 立て続けに凍結弾を放つ少女に対し、パンドラは駆け抜けてこれを回避すると、一瞬で再度少女の至近距離に迫り、【蝶・剛・筋バタフライストロング】を纏った拳で肉弾戦を仕掛ける。

 腹に食い込ませたその拳で、まず十数メートル後方へ少女を殴り飛ばすと、【蝶・効・果バタフライエフェクト】で先んじて周り込み、少女が地面に墜落する前にもう一撃脇腹へ叩き込み、右側へ更に殴り飛ばした。

 続けて【蝶・効・果バタフライエフェクト】で周り込んで一撃、再度周り込んでもう一撃叩き込む。

 だがここで再び周り込まれる事を予期していた少女は、吹っ飛ばされながらもパンドラが周り込むであろう方角へ凍結弾を放った。

 しかしそれすら【蝶・反・応バタフライリアクト】で予知していたパンドラは、あえてそのまま射線上に再出現すると、上半身を大きく捻って凍結弾を回避し、迫る少女へアッパーを叩き込んで上空へと打ち上げる。

 殴りつけると同時に、フレイムドレスの影響で焔が噴き出すその拳は、一撃ごとに確実に、微小とはいえないダメージを少女へ刻み付けていった。

 そして打ち上げた少女が落下を始める前に、パンドラはフォースウィングを展開すると、少女の位置まで一気に飛翔する。

「ムーンクレセントキック!」

 パンドラの空中右回し蹴りが少女へクリーンヒットし、長らく地面から離れていた少女はとうとう叩きつけられる形で地面と再会を果たした。

「相手が童話主人公であるならここで決着をつける。ムーンボルケーノキック!」

 そのままパンドラは空中で波導エネルギーを右脚へ集中させると、足先に満月と蝶の紋章が出現すると同時にキック体勢に入り、フォースウィングを羽ばたかせて急降下する。

 だが次の瞬間、突き落とされた少女は起き上がると、周囲の冷気を操って猛吹雪を発生させ、一瞬でその場を離脱したのだった。

「! 消えた? 生体波導の反応がかなり遠方に移動している。逃げおおせたつもりか?」

『どうしましょう?』

「無論、追うに決まっている」

 そう言うと、パンドラは【蝶・剛・筋バタフライストロング】を解除しながら再びフォースウィングを展開し、少女の逃げた方角へと飛び立つ。

『でも一気に動ける人達が見つかりましたね。・・皆敵対しちゃいましたけど』

「あぁ。だがあの戦闘のおかげでいくつか分かった事がある」

『何です?』

「一つは、少なくともこの現象下で動ける勢力が、我々含めて三つはあるという事だ。我々と、あの童話主人公と、それから氷像共だ。特にあの氷像共は雑兵クラスだろう。ムーンフェイスでいう鎧武者共と同じだ。裏で使役している奴がいるのは確かだな」

『ほー! 他には?』

「二つ目はあの童話主人公と氷像共の勢力は敵対関係にあるという事だ。つまり奴等が手を組んで我々を始末しにかかる事は恐らくない、三つ巴状態だな。それと、」

『それと?』

「それとあの童話主人公だが、氷像共と同じで氷属性の魔法を使うのも分かった。氷属性の魔法を使用する童話主人公。普段なら住民にでも聞くんだが・・・・・・」

『皆さん、止まったままですもんね』

「君は何か心当たりは無いのか?」

『う~ん、童話主人公は横のつながりが無くて・・・ホールで童話世界間での行き来は出来たのかもしれませんが、そもそもホールの存在自体、一部の人を除いて秘匿されてましたし、交流は全くといっていいほど無かったです』

「チッ、残念だ」

『スミマセン』

 アリスの解答にパンドラが落胆し、二人の間に若干の気まずさが流れたその時――

「!」

 突然、地上からが襲いかかり、パンドラは【蝶・反・応バタフライリアクト】によりこれを寸前で回避する。

「今のは・・・・・・フォースカノンだと?」

『ムーンフェイスでしょうか?』

「違う。奴のビームにこんな高エネルギーの波導は無い。私以外にこの規模の波導魔法を扱う奴がいるのか?」

 地表付近から生体波導を感じない事に違和感を覚えながらも、パンドラはフレイムドレスを解除し発射地点目掛けてフォースウィングを羽ばたかせながら急降下をかけた。

「!」

 すると、発射地点ではないがそのすぐ近くに、緑色の肌を持つ耳長の小人がこちらを見上げながら待ち構えるようにして立っていたのである。

「今のビームは貴様か?(いや、生体波導が無い。先の氷像共と似たような奴か?)」

「如何にも、オイラは拒絶のスニ・・アァ・・ア~・・イーッキシッ! ・・・・・・スニーズだ」

「拒絶の・・スニーズ」

「過去を司るオイラにお前の攻撃は一切届かないぜ?」

「ホウ、それは非常に興味深い。どう届かないのか見せて貰おう、【蝶・剛・筋ストロング】」

 何やら特殊能力があるらしい謎の敵に好奇心を動かされたパンドラは、再度アゲハ模様の高密度装甲を身に纏うと、【蝶・効・果バタフライエフェクト】を使い、一度スニーズの視界から消えた。

 そしてスニーズの右側に再出現すると同時に、パンドラは右手による手刀を繰り出す。だが、

「!」

 妙な違和感を覚えたパンドラは、即座に左手にフォースボールを生成すると、それをゼロ距離で放ち、スニーズを吹っ飛ばそうとした。しかし・・・・・・

「何?!」

 肉眼でパンドラを捕捉してもなお、防御体勢すら取る事無く直立のままだったスニーズは、直撃を受けたにも関わらず、その身体が揺れる事すら無かったのである。

「??」

 既に何らかの異変が起きている事は感じたパンドラだったが、その正体が分からず、反撃を回避する為に一度、フォースウィングを羽ばたかせて距離を取る事しか出来なかった。

「ンフフ、何だもう終わりか? ならばこちらから・・・・・・イッキシッ! ・・いくぞ」

 くしゃみ交じりに宣言すると、鼻をすすりながらもスニーズは斧を手にパンドラとの距離を詰める。

 斧でどんな攻撃を繰り出すのか、【蝶・反・応バタフライリアクト】による近未来予知のビジョンで見ても、別段変わった攻撃を繰り出しているようには見えず、仕方なくどこからでも対応出来るよう、あえて構えない無形の位でそれに応じた。

「・・・・・・・・・・・・」

 容赦なく斧を振り下ろしてくるスニーズに対し、様子見の為ただひたすらフォースバリアでそれを捌くパンドラだったが、斧による攻撃自体はやはり特別変わった事は無い。

「(一体奴の何が私の攻撃を阻んだ?)」

 攻撃を無力化された謎が分からないパンドラは、フォースバリアを解除すると、振り下ろされるスニーズの斧をかわし、スニーズの両腕を掴み取る形でその行動を封じた。

 更にスニーズに対し右脚をかけると、そのまま押し倒してそこへ左膝から全体重を食い込ませのしかかる様に組み伏せる。

「グッ」

「フム、君の行動をこうして封じる事は攻撃にはあたらないようだな」

「・・ヘッ、けどいつまでもそうしていられるかな?」

「何?」

 スニーズの言葉の意味が理解出来ないパンドラだったが、その意味は突然牙を向いて襲い掛かった。

「!?」

 次の瞬間、パンドラの脳内に飛び込んできた近未来ビジョンは驚くべき光景を見せる。

 何も存在していない筈の空間から突如、超高密度のエネルギーによる刃が現れるその一瞬前に、パンドラは乗りかかっていたスニーズから飛び退き、両足先からフォースブレードを展開すると、現れた刃をフォースバリアと併用しつつそれを捌き、難を逃れた。

「今のはフォースブレード・・・・・・」

「チッ、妙に反応のいい奴め」

『もしかして、パンドラさんの攻撃をコピーするとか?』

「いや、それなら《過去を司る》の意味が分からん。第一私はここでの戦闘で今に至るまで一度もフォースブレードを使用していない。そしてフォースブレードが出現した空間にやはり生体波導は感じられなかった。加えてコイツは氷像共と同じ人工物だ。波導魔法は使えん。ならば考えられるのは一つだ」

『それは?』

「〝未来の私が放った攻撃を未来の奴が過去のこの時間へ飛ばした〟という事だ。つまり波導魔法を使うもう一人の謎の存在は未来の私自身という事だな」

「ご名答~! もうバレちまうとは・・・・・・イーッキシッ! ・・まぁオイラ達を狙いに来ただけはあるな」

「狙いに? 貴様を狙う事に何かメリットがあるのか?」

「ヒッヒッヒ! オイオイ、何も知らねぇで戦ってたのか? オイラ達は元々【時の結晶】と呼ばれる秘宝なのさ。いついかなる割れ方をしても必ず七つに別れてその姿を現し、七つ全てを集めた奴だけがその世界での時間の覇権を握る。オイラ達は常に手に入れようとする奴の力を試すのさ」

「成程、コレは大収穫だぞアリス。この現象の正体とその解決方法が同時に分かるとは」

『何をどうしていけばいいか、コレでやっと分かりましたね!』

「容易ではないだろうがな」

「イッヒッヒ、さぁオイラを攻略出来るかな? ッキシッ! 改めて言っておくが、攻撃は全て過去へオサラバだ」

「問題ない。戦闘を継続する」

 そう言うと、パンドラは不敵な笑みを浮かべ、【蝶・効・果バタフライエフェクト】で姿を消すとスニーズの目の前に再出現する。

「うをッ!」

 驚いたスニーズが慌てて斧を振りかざすも、その腕を止めたパンドラは、斧の確保と同時にそのままフォースウィングを展開して浮遊し、身体ごと側転の要領で回転しながら、スニーズより斧をねじり取る事に成功した。

「ぐッ!」

 だが苦い表情を浮かべるスニーズに対し、パンドラは奪い取った斧でスニーズを斬りつけるわけでもなく、ただ佇んでいる。

「ヘッ、何をやるかと思えば。言ったろうが、オイラにお前の攻撃は一切届かないって!」

「そうとも、だから届けてもらうのだ」

「届ける? 誰に?」

「未来の私にだ!」



《白雪姫編――第3部へ続く――》

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