第5部
「来た、【
一度意識を外へ戻したパンドラのほぼ全身を、どこからともなく現れた無数の黒い蝶の大群が覆い尽くし、まるで黒アゲハの様に黒く薄く、しかし超高硬度に構成された装甲が形成された。
「コレは・・・・・・純度と密度を極限まで高めた波導エネルギーを薄い装甲状にしているのか。成程、これなら波導魔法の威力も上がっているだろうが、波導エネルギーそのものも直接触れずに生命の輪まで打ち込めるかもしれん」
【
「ムーンライトっ、インパクトォッ!」
そして高密度の波導エネルギーを纏った拳を、握る事無く掌をタイヨウへと突き出し、それを寸前で止めた。
パンドラの生体波導とも言える波導エネルギーが、塊となってタイヨウの中にある生命の輪に打ち込まれると、タイヨウの身体が拒絶反応による痙攣を起こし始める。
しかし、生命の輪における死の手前に打ち込まれた波導エネルギーは、死へと突き進むタイヨウの命を、パンドラの目論見通り塞き止める事に成功した。
「ウッ! うぐっ・・・・・・うごヴぉjしwqrヴヘェッッッ!!」
本来働くはずの生命ギミックが働かず、生命エラーを起こしたタイヨウは、大量の吐血を経ても尚、痙攣を続ける。
「君と波長の異なる私の生体波導の様なものを打ち込ませて貰った。これで君はどれだけ苦しくとも死ぬ事が出来ない。加えて私がエネルギードレインで君の生命力を奪い続けている、よって生きる事も叶わん。君が降伏しない限り、生と死の狭間で永遠に苦しみに囚われ続ける事になるが、どうするね?」
「・・・・・・・・・・・・」
最早拒否権の無い、脅しにも近い要求じみたパンドラの悪魔の様な申し出に、タイヨウはただそれを受け入れるしかなく、無言のまま二人の青年の横顔、風と太陽の描かれたステンドグラス風の紋章形態へと姿を変えた。
「・・・・・・賢明な判断だ」
パンドラはそう言うと、自身の紋章を紋章形態のキタカゼ/タイヨウへと合わせ、本来の目的を果たす。
*
時を遡って少し前。
童話主人公軍団と鎧武者軍団の戦いは熾烈を極めていた。
鎧武者軍団の数に物を言わせた戦いはいつもどおりだが、今回はそれに加え導入されていた新兵器たちが猛威を振るっていたのである。
コマ型の飛行ユニットに三~四機の鎧武者達が乗り込み、備え付けられた大型バリスタで攻撃する飛行バリスタは、通常のバリスタでは狙えない様な位置や角度への攻撃を可能とし、その特性を最大限に生かし、制空権を完全な物とするべく、童話主人公勢で唯一、単独飛行能力を持っているアリスへ集中砲火を浴びせていた。
「くっ!」
しかし、ここで落とされるようなアリスではなく、四方八方から襲い来る飛行バリスタの矢に対し、周囲にマイクロブラックホール展開する事で、これらを一瞬にして消滅させる。
「これほどの数、それに新兵器まで・・・・・・でもパンドラさんが戻ってくるまで何としても踏ん張らなければっ!」
更に飛行バリスタ数機を相手に、アリスは両手をかざし集中を高めた。
「ふん~~~っ、でぇーいっ!」
そこから反重力エネルギーを放ち、飛行バリスタを弾き飛ばす事で別の飛行バリスタに激突させ、空中で爆散させる。
「ふんぬらばぁ~~っ!」
また、逆にマイクロブラックホールをそれぞれの間に展開し、飛行バリスタ同士を吸い寄せて衝突させる事で、複数を同時撃墜するといった獅子奮迅の大活躍をみせた。
たまたま運よく生き残っていた飛行バリスタも、既に矢を打ちつくしており、補充のため急ぎムーンフェイスの元へ帰還していく。
そして彼の
空中の飛行バリスタと同時に地上から攻めて来る鎧武者軍団に対しても、絶え間なく焔弾を発砲し、大群を次々とスクラップに変えていく。
「フン」
だが、これまでムーンフェイスにのみ採用されていた耐熱装甲を新たに採用した鎧武者達を、以前の様に完全に融解させるには至らなかった。
「チッ」
「火遊びしか能が無いからそうなるのよ!」
「あ?」
「そこで指くわえて見てなっ!」
赤ずきんの戦果に意気揚々と飛び出した桃太郎は、地面に刀を突き刺すと、木属性魔法を発動する。
「一鬼桃千流奥義、
瞬間、地面から無数の大樹が生い茂り、襲い来る鎧武者軍団やAIヘリ、大型トルーパー等と瞬く間に締め上げ、圧壊させた。
更にその範囲を横へ広げ、華樹丸で物理的に防衛線を形成していく。
「へへんっ、ど~んなもんよ!」
「フン、華道家の真似事か花屋なら他所でやってろ」
「カァチィィィン! お礼の一つも言えない位、性根の焼け爛れた女に言われたかないわよ!」
「あぁ有難う。よろこんで燃料にさせてもらおう」
「何ですって! アンタなんかに燃料にされてたまるもんですか、今ココで決着つけたる!」
「望む所だ」
「お主等、ケンカする余力があるなら、余に力を貸せ!」
「あ?」
桃太郎と赤ずきんの絶え間ない口論を止めたのは、押され気味で苦戦中の金太郎だった。
サイボーグである鎧武者軍団に対し最も有効と思われた彼も、ムーンフェイスより流用された避雷針システムの導入により、雷属性魔法による攻撃がほぼ軒並み弱体化もしくは無力化されていたのである。
「悔しいが余の雷ではこやつ等を充分に足止め出来ぬ」
「ハ~イ! 喜んでお貸しさせていただきマース!」
「フン」
「ではゆくぞ!」
そう号令をかけると、金太郎は雷属性魔法でも雷ではなく、電磁波系魔法を周囲一帯へ向けて放った。
するとガトリング砲やミサイルランチャーを手に進軍していた鎧武者達が突然、カラクリ人形の様にカクカクと動きを鈍らせ始め、そこをすかさず赤ずきんと桃太郎がそれぞれの魔法攻撃で確固撃破していく。
「・・・・・・何だ、止められるじゃないか」
「かけている間しか動きを止められんのだ。諸君等の働きが無ければ意味は無い。それに・・・・・・」
金太郎は視線を二人から桃太郎が築き上げた防衛線へと移しながら言葉を続けた。
「少しずつ敵戦力を削ぎ落としているとはいえ、戦力差は未だ膨大。桃太郎が折角作り上げてくれた防衛ラインもいつまで持つか分からぬ。大きく敵戦力を減らしたいのは山々だが、我々だけでは決定打に欠けるのが実情だ。ムーンフェイスの奴が我々の始末にこやつ等だけで充分とあぐらをかいているのが唯一の救いといったところか」
「チッ、手を止めても状況が悪化するだけだ。とっとと動かせ」
「アンタに言われなくても!」
「フッ、そうであるな」
消耗が激しくとも止まる事を許されない童話主人公達が、再び残る力を振り絞ろうとしたその時――
「「「「!?」」」」
四人の身に後方からとてつもないエネルギーの奔流が降りかかり、その体力、気力、それから魔力や身体のコンディション全般における全てを癒していく。
「何だ?」
「何だか漲ってきたーっ!」
「これは、回復エネルギーか」
「きっとパンドラさんです、見なくても分かります」
「そうか、これはオーガドレスの・・・・・・」
「はい、パンドラさんも頑張ってるって事です。私達もパンドラさんが契約を終えて戻ってくるまで踏ん張りましょー!」
「これだけコンディションが回復すれば【
「おぉ、それは良き案であるな! 良し、妙策の褒美として赤ずきん、お主は余と組め。アリスは桃太郎とだ」
「・・・・・・何か引っかかるが、まぁ良い」
「そんなぁ~金太郎様ぁ~~!」
「分かりました! 何としても殲滅してみせます!」
「ウム。では各自、作戦開始!」
金太郎の号令で再び散開した童話主人公たちは、それぞれのペアで【
「王子、来い!」
赤ずきんはそう言って金太郎を呼びつけると、自身はフレイムバスターカノンへと変身する。
まだ全体の一割にも満たないものの、もうその物量は既に、桃太郎の築きあげた華樹丸による防衛ラインを僅かながら突破し始めていた。
「王子ではなくて皇帝なんだが・・・・・・」
苦笑しボヤきながらも、金太郎は呼びかけに応じフレイムバスターカノンを構える。
「クリムゾンシューティング!」
白銀の超大口径から放たれた灼熱の二筋は間違いなく眼前の平原を一瞬で火の海に変えたものの、そのあまりの威力に、構えていた金太郎は反動で後方に吹っ飛ばされてしまった。
「グォォァッ! グッ! ・・・・・・何という威力だ。我が主はこんな物を涼しい顔して使っていたのか?」
岩壁に叩きつけられても尚、意識を保っていられたのは、ひとえに金太郎自身の身体の頑丈さ故だろう。
そして、鍛え抜かれた身体はフレイムバスターかノンを取り落とす事無く、しっかりと射線を維持し続け、押し寄せる鎧武者達を一切の慈悲無く薙ぎ払っていた。
『自分の身体がタフだった事を喜ぶんだな』
だが当然、鎧武者軍団の侵攻はそれだけでは終わらない。
華樹丸を斬り裂いて現れたのは全高三十メートル程を誇る大型トルーパーだ。
「アレは余に任せてもらうぞ」
大型トルーパーに視線を固定したまま、金太郎はフレイムバスターカノンを放ると、そのままロマンダイナへと変身する。
放られたフレイムバスターカノンは、空中で人間形態である赤ずきんに戻るや否や、即座にロマンダイナのコックピットに吸い込まれた。
「
『無論だ』
「ならば最初から
そう言って赤ずきんは、感覚でロマンダイナの両腕の一部を分離させると、拳銃を作り出し、それを構えた。
『ほう! 主より先に我が【変異発光性金属】の特性を使いこなすとはな。ズバ抜けた戦闘勘だ』
二丁拳銃を構えたロマンダイナが、銃口から赤ずきんの焔属性と金太郎の雷属性を合わせた焔雷弾ファイアボルトを放ち、大型トルーパー達を次々と粉砕していく中、金太郎は赤ずきんに賞賛の言葉を送る。
だが、そんな中でも赤ずきんの意識は向かってくる大型トルーパーの集団に向けられていた。
大型トルーパーが持つ武装は実に豊富である。
小型の物であればナイフやバルカン砲から、大型のものならハルバートやバスターソード、陽電子砲やガトリング砲に至るまで、様々な武装を手に、大型トルーパー達はロマンダイナに襲いかかって来た。
「・・・・・・」
一機目のトルーパーを背負い投げすると、そのナイフを奪い二機目のトルーパーの首からのうへ向けて一突き。その二機目が持っていたハルバートを奪って、三機目の両足を回転斬りの要領で一刀両断し、三機目が持っていた手持ち式バズーカ砲を奪って四機目の背部に装備されていた陽電子砲を破壊。そのまま頭部も撃ち抜いて撃破すると、ガトリング砲を手に襲い来る五機目へ向けてバズーカ砲を振り投げ、同時に跳躍。五機目がバズーカ砲を撃ち落とすと同時に頭部へ飛び蹴りを食らわせると、そのガトリング砲を奪って投げられていた一機目と両足を斬り落とされていた三機目をそれぞれ撃ち抜き各個の撃破を終える。
そもそも大型トルーパー達とロマンダイナには決定的な違いがあった。
大型トルーパー達は武装が豊富に存在する反面、機体そのものの機動性や運動性が低い。
それに対し、ロマンダイナは基本的に外部の武装は持たないものの、充分な内部武装に加え、高い機動力と防御力、高度な近接格闘戦をこなせる程の高い運動性能を持っており、その機体性能の差を見せ付ける形となった。
『ブラボー! そなたに格闘戦の覚えがあったとは意外だな』
「銃撃しか出来んガンマンなんぞ、ただの二流だ」
そう言いつつ、赤ずきんは後続の大型トルーパー部隊に対し、ロマンダイナの必殺発動体勢に入る。
「ゴールデンスクリューブロー!」
ロマンダイナの右前腕が黄金の輝きを放つ雷を纏いながら高速回転し始めると、操縦席の赤ずきんが振り抜くと同時に、それはロマンダイナから撃ち放たれ、接近していた五機の大型トルーパー部隊を一撃の下に瓦礫と化し、そこに残ったのは膝から下の両脚のみとなった。
そして最後に残った大型トルーパーの背後に回り込み首元を掴むと、腰に手を当てて持ち上げ、そのまま勢いに任せて大型トルーパーを、ムーンフェイスのいる砦へと放り投げる。
無論、放り投げた大型トルーパーが都合よくムーンフェイスを押し潰してくれるとは思っていなかったが、微動だにせず大型と小型のマルチビットを操り、展開したシールドで大型トルーパーの落下から身を守ったムーンフェイスに、赤ずきんは思わず舌打ちした。
「チッ!」
その一方、アリス&桃太郎組も【
「くっ!」
『お嬢ちゃん、上!』
「はっ!」
桃太郎の警告にアリスが上空を見上げると、そこへAIヘリが三機、こちらへガトリング砲を向けているのが見えた。
「桃太郎さん交代!」
『は? えっ?! ちょッッ!』
訳が分からないまま混乱する桃太郎をよそに、アリスは瞬時にクラビティハンマー形態へと変身し、桃太郎の手に収まる。
『持ってればいいですから!』
「えええええええ?」
その直後、短い重低音が断続的に響き渡り、それと同時に桃太郎の構えたクラビティハンマーから重力球が多数放たれると、弾丸を次々と呑み込み、最終的にガトリング砲そのものをその闇の中に引きずり込んだ。
武装の一つを破壊され、まるで狼狽えるかの様に僅かに後退するAIヘリの動きを桃太郎は見逃さず、立て続けにクラヴィティハンマーから重力球を放ちAIヘリを一機、引きずり落とす事に成功する。
「ッシャア!」
桃太郎が渾身のガッツポーズで喜びを表現する中、後続のAIヘリが七機、アンカーミサイルやガトリング砲の雨を二人へ浴びせにかかった。
「まだまだァ! クラヴィティインパクト!」
桃太郎がクラヴィティハンマーを横向きに構えるとAIヘリ群とアンカーミサイル、ガトリング砲の銃弾を無数の重力球が覆い尽くす。
「でぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」
そしてそこから桃太郎がフルスイングで振り抜くと同時に、覆っていた重力球が外側から何かに押し潰されていく様に潰れていき、爆散した。
「殲滅完了~!」
襲ってきたAIヘリを全て倒し、桃太郎が両手を挙げて喜ぶ中、放られたクラヴィティハンマーことアリスは人間形態へと戻る。
「桃太郎さん、金太郎さん達が!」
「!」
アリスの言葉に、桃太郎がロマンダイナの方向へ顔を向けると、未だ地上を席巻していた鎧武者軍団が、大型トルーパーを投げ飛ばした直後のロマンダイナへ、地面に固定した砲台からアンカーミサイルを射出し、動きを封じていた。
「金太郎様ッ!」
急ぎ助けに行こうと、桃太郎が駆け出したその瞬間、ガトリング砲やミサイルランチャーからの嵐が再び二人を襲う。
「くっ!」
アリスが即座にマイクロブラックホールを多数展開し、決死の迎撃に出る中、敵陣最奥の砦で静かに動きが起き始めた。
《北風と太陽編――第6部へ続く――》
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