第4部
『相変わらずすごい数です!』
『それだけじゃない。新型兵器もある』
『それも大型の物が多数ときた』
赤ずきんと金太郎の目線の先には、ロマンダイナ程ではないが巨大な人型の《トルーパー》が二十体、無人の《AIヘリ》が十機、更に円状の飛行ユニットの上にバリスタを備え付けた《飛行バリスタが》三十機、そして地上には《AI戦車》と《大型強化外骨格》を纏った鎧武者がそれぞれ五十ずつと、それぞれガトリング砲やミサイルランチャー等の武装を抱えた平地を敷き詰める程の無数の鎧武者の歩兵といった大軍勢が広がっていたのである。
「新兵器のオンパレードだな」
『チョット、アタシやーよ? こんなとこで死ぬのぉ』
「死にたくなかったら力を貸せ。こちらは否応なしに総力戦になりそうだ」
泣き言を言う桃太郎を尻目に不敵な笑みを崩さないパンドラは、ここで【
そこへ飛来してくる生体波導を感じ取ったパンドラが後ろを振り返ると、そこには両腕の羽を羽ばたかせて空中に佇むキタカゼがこちらを見下ろしている。
「あくまで最後までムーンフェイス側に立つか、では容赦なくぶっ殺すとしよう。お前達、そっちの鉄屑共は任せるぞ」
「えっ?」
「了解」
「腕が鳴る」
「終わったら絶対デザートおごらせてやる!」
童話主人公達がそれぞれ戦闘態勢に入った事を確認すると、パンドラは号令を飛ばした。
「作戦開始!」
背後で響き渡る銃火器や大型トルーパー達の駆動音を耳にしながら、パンドラは【
ところがキタカゼは自身を竜巻で覆いつくすと、そのシルエットを瞬く間に変貌させ、回り込んでいたパンドラを吹き飛ばした。
「ぐっ!」
覆っていた竜巻が徐々に薄れていき、その中にいたキタカゼだった筈の存在があらわになった時、パンドラは一瞬言葉を失う。
一言で言えば、それは〝巨大な鳥型の幻獣〟だった。
キタカゼの時にあったクジャク模様は残っていたものの、鳥自体に関しては明らかにクジャクの物ではなく、寧ろハヤブサやタカの様な猛禽類の骨格であり、その嘴やかぎ爪もまさしく猛禽類のそれである。
クジャクの羽模様を持つ両翼、そしてそこから尾状に伸びた器官、巻き毛の尾翼が特徴的な異彩を放っていたが、最もパンドラの目を引いたのはその鋭い眼の間、額にあたる箇所に出現していた新たな眼だった。
「三つ眼の鳥だと? 聞いた事すらないな」
「だろうね。この〝幻獣シームルグ〟は人に見せた事がないボクの究極の姿だ」
キタカゼが変身したその幻獣シームルグはどうやらそのまま人語を話せたらしい。
それだけ言うと、シームルグはゆうに十メートルはある巨体から嵐を巻き起こし、その両翼から無数の羽毛をパンドラ目掛けて一直線に飛ばしてきた。
「風神爆風!」
「ドレスチェンジ!」
それに対し、パンドラは再びライトニングドレスへドレスチェンジすると、雷の速度で一瞬にしてシームルグの懐に入り込む。
「ウッ!」
そしてそこから瞬時に百八十度踵を返すと同時に、雷の髪の毛を、アッパーを打つかの如く打ち上げ、シームルグの下顎にクリーンヒットを与えた。
「グェァアァァァッ! ・・・・・・このっ」
上空へ吹っ飛ばされたシームルグは、追撃のためフォースウィングで飛翔してくるパンドラに対し、両足のかぎ爪からカマイタチ攻撃を繰り出す。
「フン」
降りかかってくるカマイタチに、防げない攻撃ではないと考えたパンドラは、右手から雷属性のフォースバリアを展開し、強引に突破しようと試みた。しかし・・・・・・
「!」
結果から言えばカマイタチ攻撃を防ぐ事自体は出来た。
だが問題はパンドラの展開していたフォースバリアの異変である。
「何だ?」
パンドラが展開していたのは雷属性の、稲妻を纏ったフォースバリアであった。
しかしこれがシームルグのカマイタチ攻撃を受け止めた瞬間、稲妻だけが引き剥がした様に綺麗サッパリ消え去ってしまったのである。
そしてその現象にはシームルグも気づいていた。
「(あれは一体・・・・・・まさか!)」
パンドラ本人がその原因を掴みかねている中、先んじてその原因に気づいたシームルグは、パンドラから距離を取りつつ高度を下げると、周辺の気圧を操り、自身とパンドラを包み込む程の広い空間を作り出す。
それはすなわち宇宙にも等しい、《零気圧空間》であった。
気圧を自在に操るキタカゼ自身はともかくとして、通常の人間ならば瞬時に体内の血液が沸騰し、身体が破裂するところだが、それにもかかわらずパンドラが普通に立ち続けているのは、彼女があくまで〝外見的に人間を模した魔法〟であって内部構造まで人間のものではない故である。
しかし、今この零気圧空間は別の形でパンドラに牙を剝いていた。
「っ・・・・・・コレは!」
パンドラは自分の身体に生じていた異変に目を見開く。
腕が、消えていた。
正確には完全に消失していたわけではなく、長い糸の様に変わり果てた細い稲妻となって、かろうじて腕の形状を維持している。
そしてそれは髪の毛においても同様であった。
根元から近い部分においては火花が断続的に散っており、そこから毛先へいくにつれ、両腕と同じく細い糸の様に弱々しく漂っている。
蓄電ユニットに至っては最早、そこに何があったのか分からない程だ。
「(痛みなど全く感じなかった。斬り飛ばされたり、引き千切られた訳ではないという事か。ならば何かの力にかき消された? いや、かき消される程の妨害を受けているのか。いずれにしてもこの状況下ではライトニングは使い物にならんな)・・・・・・ドレスチェンジ!」
ライトニングドレスのパンドラを燃え盛る焔が包み込む・・・・・・筈であったが、ここでも異変が生じる。
「!」
パンドラを覆い隠した焔は一瞬燃え上がるものの、その後即煙と化し、その中から姿を現したフレイムドレスのパンドラも、焔で出来ていた両腕と髪の毛が細々とした煙という、ライトニングドレスと同様の弱体ぶりを露にした。
「フレイムもか!」
「(しめた、奴は弱っている。ここで止めをさす!)風神爆風!」
目の前の状況をまたとない好機とみたシームルグは、ここで決着をつけるべく、風神爆風とカマイタチ攻撃を同時に放つ。
「コイツがダメならドレスチェンジも無しでやるしかない、ドレスチェンジ!」
地面から生えた木々がパンドラを覆い、枯れて風化した中からオーガドレスへ変身を遂げた姿で現れる。異変は無かった。
「各部位に問題なし。戦闘を継続する!」
自身の身体に、ライトニングドレスやフレイムドレスに起きた様な異変が起きていない事を確認したパンドラは、迫るシームルグの風神爆風とカマイタチ攻撃を、木属性のフォースバリアを展開する事でこれを凌ぎきる。
と、同時に、受けた攻撃を全て回復エネルギーに変換する木属性のフォースバリアの特性によって、発生した回復エネルギーを、離れた地点で奮闘する童話主人公達に送り込んだ。
「チッ、無事な変身があったのか! だったら・・・・・・」
ここで止めをさすつもりだったシームルグは、パンドラが別の姿で戦力を取り戻した事に気付くと、舌打ちをしながら自身を光の繭に包み込む。
次の瞬間、光の繭を燃焼させて中から現れたのは、姿形はシームルグと同じでも、燃え盛る様な橙色の羽毛を持つ、光の幻獣〝フェニックス〟だった。
「アレは・・・・・・」
その姿に一瞬、パンドラが目を見開く中、タイヨウの獣化形態であろうフェニックスは口から光線を吐き出す。
「チッ」
それに対し、パンドラは【
「ウッ!」
自由を奪われたフェニックスは、パンドラのツリーアンカーから逃れる事が出来ず、そのまま地面にその身をこすり付ける事となった。
そこからツリーアンカーを更に伸ばしたパンドラは、アンカーの先をフェニックスの背中に突き刺し、エネルギードレインを始める。
「ウグッ!」
「このまま君の生命力を全て吸い尽くしてやる!」
「ウッ・・・・・・ウグゥアァッ、アアッ、アァ・・・・・・」
瞬く間に生命力を吸い取られ、ミイラのように干からびていくフェニックスを見下ろしながら、パンドラはその生体波導がみるみる小さくなっていくのを感じた。
「(これで最重要案件は解決だな)」
パンドラがそう考えたその直後、力尽きた筈のフェニックスの身体が再び光の繭に包まれる。
「!?」
パンドラの目の前で小さくなった光の繭は、その内部よりうつ伏せに横たわったタイヨウの姿を露にした。
「バカな、生体波導が正常レベルに戻っているだと? 蘇ったとでもいうのか!」
キタカゼとタイヨウの紋章形態が現れると疑わなかったパンドラは目前で起きた現象に驚愕する。
だが、事態は驚愕するパンドラがその意味を理解するのを待ってはくれなかった。
「う、ウゥ・・・・・・」
「! チイッ」
意識を取り戻したタイヨウが、薄目を開けつつ、拳を地面に突き立て弱々しく起き上がろうとしているのを見たパンドラは、即座にツリーアンカーを刺し直し、再度エネルギードレインを試みる。
だが結果は変わらず、地面に伏したタイヨウが光の繭から現れるだけだった。
「どういう事だ! ・・・・・・いや、イカン。感情の高ぶりは視野を狭めるとゲッコーの実験結果にも出ていた。ここはひとつ、今一度彼の生体波導に何が起こったのか、注意深く確かめる必要があるな」
ひとます目の前で起きた事実を冷静に受け止める事にしたパンドラは、三度目の正直でタイヨウにエネルギードレインを仕掛け意識を集中させる。
すると生体波導の奥底にまで深く潜った時、そこに輪の様な構造体が存在するのを、パンドラはここで初めて目にした。
「これは・・・・・・《生命の輪》か。生まれ出た時から死へと向かう生命の動きがリング状に視覚化されている。成程、通常なら一生かけて一周するところを、今エネルギードレインで生命力を吸い尽くしている為に流れが圧倒的に速い。さて、どうなる?」
そしてパンドラは決定的な瞬間を目の当たりにする。
「なッ!」
死を向かえ、存在そのものが消えかけた生命の輪は、その境界を越えると同時に再びその存在を確固たるものとし、命の循環を新たな周回へと突入させた。
「死亡した直後に即蘇生、いや、新たな命となって生まれ変わっているのか! 死と誕生を繰り返していたとなると、この現象も説明が付く。だが、これをどう止める?」
謎の現象の正体を突き止めたパンドラは、その生命の循環現象を止めるため、考えを巡らせる。
「力ずくで止められるようには見えん。だとすると何か別の物であの流れを塞がなければならん。だが問題は何で止めるかだ」
そう言って、パンドラが生命の輪の周囲を見渡すも、当然、そんな都合のいいものはある筈も無かった。
「何かある筈も無いか、となると・・・・・・フム、私の波導エネルギーでも打ち込んでみるか? しかしどうやって・・・・・・いや、そんな事は問題ではないか。ムーンレイ発動!」
紫色に変化した左眼の中で瞳が山吹色に光り、更に十字の輝きを放つと、パンドラの新たな力が解き放たれる。
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《北風と太陽編――第5部へ続く――》
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