第3部
内部にタイヨウの生体波導を感じ取っていたパンドラは、僅かに警戒しながらもそっと屋敷の方向に足を進める。
『ここですか?』
「あぁ・・・・・・ココだ」
今度こそここで仕留める。そう決意を新たにしたパンドラが正面から踏み込んだその時――
「!?」
突然頭の中に【
直後にズンッと何かを突き破る様な音を聴き、屋敷内に再出現したパンドラが振り返って入り口の戸を開けると、直前にパンドラが足を踏み入れた床から、金属製の鋭利な杭が絨毯の様に敷き詰められた仕掛けが突き出していたのである。
『ふわ・・・・・・トラップですか?』
「そのようだ。恐らく屋敷中に仕掛けられていると見ていいだろう」
『・・・・・・ゴクリ』
「さて」
パンドラはそういって少し思案に耽ると、ライトニングドレスを一旦解除し、通常形態に戻った。
『アレ? どうして解除しちゃったんですか?』
「フレイムでも同じ事が言えるが、屋敷に入ってしまった手前、雷や焔の髪でここが火災になっても我々が困るからな。最も外にいたままであれば、フレイムで放火して文字通り炙り出す事も出来ただろうが」
身の毛がよだつような笑みを浮かべながら、パンドラはアリスの問いに答える。
屋敷の中を、主の想定外のルートで侵攻するパンドラ達を次なるトラップが襲ったのは、それから間もなくだった。
パンドラが【
「ム?」
すると観音開きに開いた天井の中から、無数の円錐状の棘が敷き詰められた板状の罠が落下してきた。
『ヒッ!』
しかしパンドラはこれに動揺する事無く、流れるような所作でフォースバリアを上へ向けて展開すると、この天井トラップを片手で受け止め、押し通る。
重々しい落下音を尻目に、パンドラがその場を後にすると、タイヨウの生体波導が屋敷内の上に向かって移動しているのが感じ取れた。
「向こうか」
『上ですか?』
「あぁ。上の階層に上がるルートを探さなければ。上の間取り図でもあればエフェクトで飛べるんだが」
『どこにでも移動出来る訳じゃないんですね』
【
「移動先がどういう空間かある程度分かっていなければ飛べんよ。逆に言えばある程度分かっていれば詳細まで分からずとも飛べるという事だが」
そう言って屋敷の一階を捜索し始めたパンドラの前にそれはすぐに現れた。
『あ! パンドラさんありましたよ階段!』
「これで上に行ける」
ここでパンドラの注意が完全に階段に固定されてしまったのは彼女の失敗だったといえよう。
「!」
直後に足元の床板が開き、パンドラを底の見えない暗闇へと引きずり込んだ。
『ヒャッ!』
だが瞬時にフォースウィングを展開し、底へ転落する前に空中で静止したパンドラは、浮上して元の位置まで帰還する。
「迂闊だった。ここがトラップハウスなのをすっかり忘れていた」
『何だか落ち着かない家ですね』
アリスが疲労感を滲ませる中、パンドラが階段の前まで辿り着いた時、屋敷は更にパンドラへ牙を剥いた。
「!?」
突然、階段のけこみ板にあたる部分が開くと、そこから間髪入れずに数本のクナイが飛び出してきたのである。
またも【
そしてそこからクナイが止むと同時に、フォースバリアを解除しながら右手で作り出していたフォースボールを階段へ投げつける。
轟音と共に崩壊した階段に再び近づいたパンドラは、その階段の先が天井板で塞がれている事に気づいた。
「コレは・・・・・・この階段自体がブラフか。どうやらこの家の正規ルートは隠されているようだな。トラップにもっと早く気づければいいんだが」
『前に金太郎さんと戦ってた時はもっと早かったような・・・・・・』
「あぁ。どうもリアクトが見せるビジョンは、コンマレベルの直後の物から数秒後のものまでバラつきがあるようだ」
『でも今のところトラップは全て回避出来てますから、この調子でタイヨウさんを追いかけましょう!』
「回避ではない。あくまで〝全て引っかかった上で強引に突破してきた〟だけだ。それに奴の居所は分かっても、そこに至るルートまで分かるわけではない。正規ルートが隠されている以上尚更な」
『侵入者を迎撃するトラップには対応出来ても、そうでない仕掛けは見破れないという事ですか?』
「正確には自分に牙を剥くトラップ以外には、だな」
『パンドラさんにも出来ない事があったんですねぇ・・・・・・』
「これでは埒があかんな。やはり屋敷を破壊するしかないか」
そう言うと、パンドラはタイヨウの生体波導を感じる方角へ向けて、胸部中央に波導エネルギーをチャージしていく。
「あまり破壊すると屋敷が崩れて生き埋めになりかねんからな。あまりやりたくは・・・・・・ないんだが!」
魔方陣から放たれたフォースカノンが、屋敷の内部から大穴を開け、隠れていたタイヨウを呑み込んだ・・・・・・筈だった。
「チッ!」
『どうしました?』
「奴め、命中する直前に避けやがった。追跡を開始する!」
そう口にするや否や、パンドラは即座に自らが空けた大穴に飛び込み駆け上がっていく。
だが駆け上がった先の上の階層に既にタイヨウの姿は無かった。
「どこだ、どこにいる?」
パンドラは再び生体波導感知能力でタイヨウの居所を探る。
「そこか!」
特定したパンドラが生み出した大型フォースボールを撃ち出し、天井に円形のトンネルを形成すると、その中を駆け上がり、更に上の階へ到達した。
「チイッ!」
相変わらず既にタイヨウは姿を消していたが、パンドラはその生体波導との距離がみるみる縮まってきているのを感じる。
そして追い続けたタイヨウの姿を再び目にしたのはそれからすぐだった。
三度目の攻撃で更に上のエリアに辿り着いた時、パンドラとタイヨウの視線が交差する。
「ム、目標を補足。再度戦闘行動に入る!」
「くっ!」
自分の居場所が探知され続けている事に気づいたのか、タイヨウは苦悶の表情を見せると、部屋に仕掛けられていた刀隠しから直刀タイプの刀を取り出し、腰に下げていたククリ刀との二刀流で斬りかかってきた。
だがしかしパンドラは、アリスをスペードブレイダー形態で起動しこれを防ぐと、開いた右手からゼロ距離でフォースボールを放ち、タイヨウを突き飛ばした。
「ぐウッ!」
直撃を受けたタイヨウは壁を突き破って屋敷の外へと飛ばされると、その途中でもう一つの人格であるキタカゼへと姿を変える。
それを追ってパンドラも屋敷の外へ飛び出すと、フォースウィングを展開し、その羽を震わせた。
「墜落した目標を確認。このまま止めをさす、ムーンライトキック!」
右脚に波導エネルギーをチャージしたパンドラは、足先に満月と蝶の描かれた紋章が出現したのを確認すると、フォースウィングを羽ばたかせて急降下する。しかし――
「!?」
空を切り裂く轟音と共に、こちらへ迫ってくるミサイルが見えたパンドラは、急停止すると、ムーンライトキックでそれを受け止める形で迎撃した。
周囲に響き渡る爆発音と共に足先で爆発が起きるものの、ムーンライトキックによる強力な波導エネルギーの奔流のおかげで、パンドラがその爆炎に呑み込まれる事はない。
「これは・・・・・・」
その原因は捜し求めるまでも無かった。
鎧武者型サイボーグの軍勢が平地を敷き詰めていて、その一部にはパンドラが初めて見る乗り物や兵器が点在していたのである。
そしてその奥、崖の中腹にある囲いで設けられた本陣ともいえる場所に、それはいた。
「やはり貴様か、ムーンフェイス・・・・・・」
《北風と太陽編――第4部へ続く――》
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