第4部
再出現したパンドラは、それを確認すると即座に自身の紋章を、そのオニと土、男性の横顔と葉が描かれた紋章へと重ねた。
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『クロスオーバー・・・ドライブ?』
「クロスオーバーとはジャンルの異なる物を混ぜる事だが・・・・・・」
『主殿、ムーンフェイスの奴が来る。ここはひとますオーガドレスとやらの方を試着してみようぞ』
「そうだな。ドレスチェンジ!」
次の瞬間、パンドラの周囲から木々が生え彼女を覆い隠すと、その後急速に養分を吸われた様に枯れていき、最後には風化して消え去ると、その中から新たな姿となったパンドラを顕現させた。
その姿はオニというよりかは、樹木で出来た身体を持つ悪魔と言った方が的確かもしれない。
シルクハットの左右からは大きく前方に向けて湾曲した一対の角、複数の木の幹が複雑に絡み合った筋肉質の両腕と両脚、そしてそれらから伸びる鋭い爪、前腕部は木の手甲の様な物で覆われていたが、顔以外の箇所でおよそ人の肌と呼べる部分は無く、全て大木の外皮で覆われていた。
ゴスロリ服の方は深緑色になっているのがスカートからは確認出来たが、腹部から上にかけてはこちらも大木の外皮が装甲の様に覆っている。
マルチビット先行させて襲い掛かってくるムーンフェイスに、パンドラは即座にフォースバリアを球体状に展開して対応した。
そしてマルチビットからの光線とムーンフェイスのビームサーベルを同時に受けた時、パンドラはオーガドレスの真髄に気付く。
「コレはっ! 身体に力がみなぎっていく・・・・・・受けた攻撃のダメージを回復エネルギーに変換するのか?」
マルチビットの攻撃が止むと、パンドラはフォースウィングを展開して一度距離を取り、再度接近してくるムーンフェイスに対し、右手からフォースボールを生成して撃ち放った。
だが、直撃した筈のフォースボールはムーンフェイスに殆どダメージを与えず、ムーンフェイスは不敵な笑みを浮かべる。
「どうした、ご自慢の新ドレスの威力はその程度か!」
「くっ!」
ムーンフェイスとの取っ組み合いに発展したパンドラだが、パワーの差は歴然としており、みるみる内に押されていくのがパンドラにも感じ取れた。
『パンドラさん頑張って!』
『どうした主殿? 押されているぞ』
「・・・・・・腕に力が入らんっ!」
「そのまま風穴を開けて死ねェ!」
取っ組み合いのまま、ムーンフェイスは胸部中央の砲口から粒子ビームの発射に入る。
「ぐっ・・・・・・このっ!」
腕力ではどうにもならないと感じたパンドラは、ムーンフェイスに膝蹴りを食らわせると、大きくへこんだ腹部に今度は右回し蹴りを浴びせた。
「!」
オーガドレスのパワーの無さに油断しきっていたムーンフェイスは、この蹴りをまともに受けてしまい、パンドラから見て左方向へ盛大に吹っ飛んでいく。
「コレは・・・・・・腕力とは正反対に、脚力は強化されているのか? あの鈍重そうな奴の力を得たドレスとは思えんな。それにこの身体、奴は木属性だったのか?」
『えっ? そんな風には感じませんでしたけど』
『むしろ攻撃からみれば地属性の様に見受けられたがの』
「フム・・・・・・ン?」
遠方に生体波導を感じ取ったパンドラがその方角に目をやると、そこには兵の集団が馬に乗って割れた地面を避けながらこちらへ接近してくるのが見えた。
『アレは! ・・・・・・そんな』
「よく見ておけアリス、アレが人間の執念による意地汚さというものだ」
そう言うと、パンドラは踵から生えていたアンカーのような棘を地面に突き刺す。
すると次の瞬間、まず駆けていた馬が転倒し、転げ落ちた兵共々、瞬く間に萎れていったのだ。
「ホウ、こっちはエネルギードレインか。どうやらこのドレスはエネルギー関連に特化したドレスのようだな。身体中にエネルギーが満ち満ちてくる」
オーガドレスの持つエネルギー吸収能力に感嘆したパンドラは、転倒した兵の更に後方から迫る別の兵に向けてフォースボールを投げ放つ。
ところが、直撃を受けた兵は吹っ飛ぶどころか、更に生気に満ちた様子で攻め込んできた。
「何だと!?」
『どうしたんですか?』
「あの兵の生体波導が強まった。コイツ、フォースボールまで回復魔法扱いか!」
『ハッハッハ、ムーンフェイスの奴がサイボーグで良かったな、主殿』
「笑えるか! このッ・・・・・・」
パンドラは迫る馬とその馬上の兵に対し、腰から先端に棘の付いた鞭を射出して突き刺すと、エネルギードレインで急速に生命力を奪っていく。
「ア・・・・・・アァ・・・・・・」
兵が倒れ込むと、パンドラは兵の命が尽きる寸前で、突き刺していた鞭を即座に引き抜いた。
「・・・・・・お仕置きならコレぐらいで良かろう」
『パンドラさん・・・・・・』
「だが、これではムーンフェイスの奴を撃破するのは難しいな」
『確かに。蹴りだけで倒せる程生易しい相手なら、我等が童話世界も攻め込まれて支配などされぬからな』
「望みの綱は桃太郎自身の魔宝具形態か・・・・・・」
若干の不安に駆られながら、パンドラが桃太郎を魔宝具形態で起動すると、一メートル程の金属製の棍棒の様な武器が二つ、パンドラの両手に現れる。
そして棒の先端から半分ちょっとの範囲を金属板が放射状に囲い、洋ナシのような形状の鎚頭を形成していた。
「コレは・・・・・・メイスか」
『打撃系の武器か。クラヴィティハンマーより範囲は狭かろうが、パワーの要る近接戦闘では重宝しそうだな』
「あぁ。特にムーンフェイスの様な高速で動く敵との近接戦闘ではな。」
パンドラは、既にメインブースターを吹かし再接近中のムーンフェイスへ、カウンターアタックをお見舞いするべく、【
「っっっっぉ重いッ!」
『主殿ッ!』
次の瞬間、金太郎がパンドラのブローチから飛び出し、パンドラの持っていたメイスの片方を奪い取ると、ビームサーベルを展開するムーンフェイスの下半身を殴りつけ。サーベルごと消滅させた。
「!」
突然下半身を失ったムーンフェイスは、重心バランスを崩し地面に墜落する。
「今のは・・・・・・桃太郎が放っていた咆哮と同じ現象」
「いや、それよりも」
「ム? ・・・・・・ハッ!」
金太郎はそこでパンドラの言葉の意味に、今までであればありえなかった現象が起こっている事に気が付いた。
「・・・・・・桃太郎と余が同時に存在している!」
「【
『すごい! 童話主人公が二人も出れるようになったんですね!』
ブローチ内で歓喜するアリスを、パンドラは無言で召喚する。
「わっ!」
「正確には二人以上のようだな」
「要はムーンフェイス相手に、より袋叩き出来るようになったという訳だな」
「そういう事だ」
「主殿。腕力の無いオーガドレスではこの武器は振るえまい。ライトニングにドレスチェンジすれば電気信号の強化で主殿の腕力を強化出来るだろう」
「成程、ドレスチェンジ!」
再びライトニングドレスにドレスチェンジすると、パンドラは金太郎からメイスを受け取り、ツインメイス状態で下半身を失ったムーンフェイスに迫る。
だが、それでもナノマシンの増殖力による再生速度は凄まじく、ムーンフェイスはすぐさま破損した本体の修復を遂げ、マルチビットで反撃してきた。
しかしそれを、反重力波による飛行でパンドラに続いたアリスと、雷魔法を駆使した飛行で続いた金太郎が、それぞれ重力球と徒手空拳で破壊していく。
「主殿、マルチビットは我等に任せよ!」
「パンドラさんは本体を!」
「了解。ムーンフェイス本体の破壊行動に入る」
空中へ逃れたムーンフェイスに、パンドラがフォースウィングを羽ばたかせて飛翔した。
「童話主人公共の複数同時展開が何だというのだ!」
ムーンフェイスは胸部からの大型粒子ビームを放つも、それをパンドラが【
「ぐウッ!」
左腕が消滅したムーンフェイスに、パンドラは左のメイスを振り抜き、続けてムーンフェイスの左足を消去した。
「このォッ!」
「まだまだァッ!」
残った右足からビームサーベルを展開し蹴り込むムーンフェイスに、パンドラは身体を時計回りに回転させて、右のメイスで右脚の蹴り込みを消し止める。
それでもムーンフェイスに退却の選択は無く、【
「サイボーグの癖に馬鹿の一つ覚えの如くッ、私にソイツが通用するかぁ!」
パンドラはそこから【
「こんな物で再生の時間稼ぎなど・・・・・・片腹痛いわ!」
再び【
「消えろォォォォォォォォォッ!」
そして振り上げて胴体を叩き消す事で、ナノマシンによる再生を封じながらムーンフェイスをひとます完全に消し去る事に成功した。
《桃太郎編――最終部へ続く――》
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