最終部
「・・・・・・最重要目的をクリアと撃破対象の消去を確認。作戦行動を終了する」
『ん、んん・・・・・・アタシは一体何を?』
「気が付いたかね?」
メイスから聴こえた妙に低い声に、パンドラは応じる。
『誰よアンタ。てか何でアタシ魔宝具形態になってんのよ?』
「私はパンドラだ。君の世界に侵攻し君を洗脳していた筈のムーンフェイスに生みの親を奪われた。今はその奪還のために童話世界を巡りながら、暴走している童話主人公を封印契約している」
『嘘でしょ。て事はアンタ、アタシのハズカシー格好を見たって事ぉ?』
「・・・・・・恥ずかしい格好というのはあの怪物の姿の事を言っているのか? 我々はそれ以外の姿を見てない訳だが」
『そーよソレよ! ホントのアタシはあんなブサイクじゃないんだから!』
「ホウ、ではどんな格好だと?」
『アタシはこー見えても美形で通ってんのよ』
そう言うと桃太郎は魔宝具形態から人間形態へ形態変化した。
人間の姿を露にした桃太郎は、本人談に違わず中性的な顔立ちの青年で、身長もパンドラより高く(但し金太郎よりは低いが)、体型も少し細身で、どちらかといえば美形であるといえる。
しかし口元には赤い口紅が塗られ、着物に関しては武士のような格好ではなく、まるで明治時代の日本の女学生の様な格好だったのだ。
そしてそれに対してアリスが真っ先に反応を示す。
「え、エエエッ! おぉ男の人ぉ!?」
「何よ失礼ね! アタシは男であり女。人それをオカマと呼ぶのよ!」
「お、オカ? ・・・・・・マ?」
「気を悪くしないでくれ。何せ私含めここにいる全員が初めて見る人種だ」
「ハッハッハ」
「あらぁ~何よスッゴイイケメンがいるじゃない! オニーサン彼女とかいるの~?」
「おらぬが?」
「やだ~! ならアタシなんてどお?」
「まぁ、ソレはともかく、今は主殿の話を聞いてはくれぬか。まだよく事情も分かっておらぬだろう」
「そうねぇ、聞かせてもらおうかしら」
ようやく落ちついたらしい桃太郎に、パンドラが経緯を話した。
「まず、我々がこの世界に辿り着いた時、君は既にあの怪物の姿で暴れていた」
「アレは【オニ】よ。この異世界ではアレをオニと呼ぶの。アタシも若い頃はそのオニを退治する側だったんだけど、そん時呪いも一緒に受けちゃって、それ以来人間とオニの姿をいったりきたりよ。まぁ、今じゃある程度自分の意思で制御出来るようになったけど、あの変な空飛ぶ鎧武者に何かされてから、よく覚えてないわねぇ」
「あれ? でも洗脳されていたならどうしてムーンフェイスと敵対してたんでしょう?」
「おそらく洗脳といっても、オニの凶暴性が上回り、奴を以ってしても制御するまでは及ばなかったのだろう。今回はそれが逆に我々にとって幸いしたわけだが」
「なるほど」
「我々の目的は洗脳され暴走する童話主人公を一度倒す事で封印契約しつつ、童話世界をムーンフェイスの軍勢による支配から解放し、童話主人公を戦力として加えた上で奴の本拠地に攻め込む。そして最終的に奴等を完全に殲滅した上で生みの親を救出する事にある。故に色々と現地の人間とムーンフェイスの邪魔が入ったが、どうにか君の力を借りて事なきを得たというわけだ」
「そういう事だったのね。つまりアタシは助けてもらった側か。なら受けた借りは返さないとネ。この【一鬼桃千流】の桃姉さんがついたからには百人力よ!」
「桃・・・姉・・・」
「頼もしそうな戦闘スタイルだのう」
「アタシこー見えても剣術が得意なの。それも二刀流のネ」
「ホウ、それは豪快な」
「性が二刀なだけに剣術も二刀ってね!」
「ところで君にいくつか聞きたい事があるんだが」
「あらなぁに?」
「そもそも君は何属性の魔法を使うんだ? 君と契約した事で得たオーガドレスは回復魔法しか使えない樹木の身体だった。それに魔宝具での攻撃はオニの君と同じ攻撃現象が起きたぞ」
「あぁ、それなら答えは簡単よ。アタシはそもそも二つの属性を持ってるの。人間の時は木属性、オニの時は土属性ね。それにしても・・・・・・ドレスと【モモノフブレイカー】とで別れたか」
「モモノフブレイカー、それがあの魔宝具の名か」
「モモノフブレイカーは土属性の魔宝具で、物質を原子レベルで分解する能力を持ってるの、固体と液体相手なら敵無しよ」
「原子レベルで分解・・・・・・あの現象の正体はそういう事か」
「分解してたんですね」
「それにオーガドレスは回復だけじゃないと思うわよ。私が相手による木属性魔法の影響を受けなかったり、周りの草木を操れたりするから、オーガドレスでも出来るんじゃない?」
「ホウ、そんな事が」
『オイ、何だその気持ち悪い奴は?』
「カァチィィン! 誰よ今の超絶ムカつく事言ったの!?」
「赤ずきんか。やけに大人しかったじゃないか?」
『あまりに暇だったので少し寝ていた。それで、誰だコイツは?』
「この世界の童話主人公だ」
『何だと? この気色悪い奴が桃太郎!?』
「っキィィ~~何よコイツ! ロクに顔出しもしないくせに生意気な口ばっか利いちゃって! あ、ハハ~ン! さては内弁慶って奴ぅ? その飾りの中からじゃないと物言えないんでしょ?」
『何だと?』
桃太郎の挑発に青筋を立てた赤ずきんが、人間形態でパンドラのブローチ内から出てくる。
「なぁによ、今更出てきちゃって。もしかしてホントの事言われたのがそんなに頭来ちゃった?」
「ほざけ、変体コスプレ野郎が」
「なぁんですってぇ!」
「何だ、図星か?」
「キ~~チョット火遊び覚えた程度の小娘風情が、今ココでメッタ斬りにしてくれるわ!」
「やってみろ剣士もどきが、逆に消し炭にしてやる」
「おやおや、あまり穏やかではないな」
「ちょ、ちょっと、二人ともやめてください!」
「・・・・・・(コイツ等そもそも肝心な事を忘れてるんじゃないだろうな?)」
オタつくアリスと静観する金太郎の前で、爆炎と斬撃が飛び交い、爆風と衝撃が二人の髪と衣服を揺らす中、パンドラは呆れた表情でその争いに割って入った。
二人が激突するそのど真ん中に踏み込んだパンドラは、左右の手からそれぞれフォースバリアを展開し、その攻撃毎食い止めた。
「そこまでだ」
「ぐっ!」
「ヌッ!」
「先に輪を乱したのは君だ、赤ずきん」
「・・・・・・チッ!」
「それと桃太郎、君もこれ以上無駄に騒ぎ立てるような真似はしてくれるな。私は騒がしいのは嫌いだ」
「・・・・・・分かったわよ。久しぶりに人間に戻れてちょっとテンション上がっちゃっただけよ」
「ホッ」
「気苦労が絶えぬな」
やっと治まった争いに胸を撫で下ろすアリスに、金太郎が他人事のように声をかける。
「それともう一つ言っておくが、出発前に挨拶しておきたい相手がいるなら先に済ませておけ。もっとも人里があの様子では、君にそんな相手はいなさそうだが」
「悪かったわねいなくて! このまま出発して問題ないわよ」
「では早速出発しよう。少しでもムーンフェイスより先手に出たい」
そう言うと、パンドラはアリス以外の全員を紋章形態に形態変化させてブローチに戻し、アリスをトラベラーズダイヤル形態に形態変化させた。
「クルーズジャンプ!」
パンドラの前に現れた金縁紅色で彩られた菱形方位針の魔宝具はその針を高速で回転させながらパンドラを飲み込む。
新たに破天荒な仲間を加え、よりゲッコー博士の救出に近づいたパンドラ一行。
彼等が次に辿り着くのは、どんな童話世界か。
《第五章へ続く――》
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