第四章――【桃太郎】編――
第1部
パンドラが再び童話世界に降り立った時、そこには一面の草原とそれを囲む森、そして草木生い茂る大きな山がそびえ立っていた。
「・・・・・・今度は敵に囲まれたりはしていないようだな」
出現と同時にフォースバリアを球体状に展開していたパンドラは、生体波導感知能力で周囲に敵影が無い事を確認すると、バリアを解除する。
『ホッ・・・・・・』
「もう少し範囲を広げて人間がいないか探索する。ここがどの童話世界かつきとめるとしよう」
『頑張ってください!』
『・・・・・・』
『朗報を期待しておる』
童話主人公達の声援を受けながら、パンドラは生体波導感知能力の範囲を広げた。すると、
「ム?」
『誰かいましたか?』
「・・・・・・そこの山の麓に人間共が数人いるな。聞いてみるか」
そう言って、パンドラが山の麓へ足を進めたその時――
『『「!?」』』
『ヴぁッ!!』
突然、山の方から天を突く程の轟音が鳴り響き、パンドラが視線を少し上に移すと、山の中腹から土の塊と無数の樹木、そして更に何人かの人間が空中に放り出されていた。
「アレは・・・・・・」
そして中腹から立ち上る土煙の中から、雄叫びと共に黄緑色の巨体を持つ怪物がその姿を現す。
「騒ぎの元凶はアレか」
その怪物に何かあると感じたパンドラは、アリスをクラヴィティハンマー形態で起動し、麓に降り立った怪物へ向かってフォースウィングで飛翔した。
「!? 何だアイツは?」
突然現れたパンドラに、現地民の人間が驚く中、振り下ろされたクラヴィティハンマーは的確に怪物の頭部を捉える。だが、
「!?」
『えっ?』
その感覚にはいつもと違う手応えがあった。
だが初めての感覚ではない。
続けて放った反重力波導も同様の感覚をパンドラの手元に届ける。
『そんな』
「まさか・・・・・・」
そこでパンドラは、魔宝具をクラヴィティハンマーから、赤ずきんのフレイムバスターカノンへと変更し、必殺を放つ。
「クリムゾンシューティング!」
ところが、紫色の焔を纏った粒子ビームは、直撃する傍から怪物に何のダメージも負わせる事無く消失した。
『! コイツは』
『童話主人公・・・・・・』
「ヤレヤレ、今度の童話主人公は人間ですらないのか」
悪態をつきながらも、怪物の正体が童話主人公だと分かったパンドラは、フレイムバスターカノンを紋章形態に変化させてブローチに戻し、ライトニングドレスにドレスチェンジする。
「ドレスチェンジ!」
紫色のゴスロリ服に雷の髪と両腕、そして三つ巴模様の雷で作られた背部ユニットを持つ姿に変貌したパンドラは、童話主人公を視覚的に翻弄するべく、閃光と思しき速度で童話主人公に接近し、死角に入った。
そして三つ巴模様の背部ユニットからチャージした雷を、童話主人公へ向けて放電する。
「ン?」
しかしどうも怪物に痛手を追ったような様子が見受けられない。
「(コレは・・・・・・ダメージとして小規模過ぎる。更に大規模な攻撃にするべきか?)」
そう考えたパンドラは、天候を変化させ落雷攻撃に入る。
突如上空に現れた雷雲により気候が激変すると、辺り一帯が一気にその明るさを落とし、重苦しくなった空気の中を切り裂く様に、雷が童話主人公を打ちつけた。だが・・・・・・
「何だと? (落雷攻撃による対象の損害が確認出来ない。どういう事だ?)」
起きている事態の意味が理解出来ず、パンドラは仕方なくフレイムドレスへドレスチェンジする。
「ドレスチェンジ!」
全身を紫色の焔が包み込み、ワインレッドのゴスロリ服と紫の焔による髪と両手で構成された姿へ変身を遂げたパンドラは、両手から作り出した焔属性のフォースボールを組み合わせ、大型のフォースボールを形成すると、それを童話主人公へ向けて撃ち放った。
「グガァァァウッ!」
「!」
すると童話主人公は先程までとは明らかに異なる反応を示したのである。
「フレイムの攻撃は効くのか?」
パンドラは波導エネルギーを胸部中央にチャージすると、三日月の魔方陣が満月に変化するのと同時に、前方へ焔属性の高エネルギービームを解き放った。
「ガァァァァウ! グァァァァ!」
「流石フレイム! やはり焔は万能だな」
『当然だ。火は大昔から受け継がれる破壊の象徴だからな。奴に対して本当の意味で有効かは知らんが、本来、獣は火を恐れるものだ』
その高い評価を受けた赤ずきんは、内心嬉しそうにそう答えた。
確かに赤ずきんの言う通り、童話主人公は大ダメージを負ったというよりは、何やら嫌がる様子を見せ、パンドラ達の前から逃げ去っていく。
「(奴を追うべきか? ・・・・・・いや、少し勿体無い気もするがやはりこの世界と奴に関する情報が先に欲しい。戦いでは情報が何よりも勝るとゲッコーが言っていた)」
先に諸々の情報を入手すべきだと判断したパンドラは、その場に留まって怪物の退治のためにその場にいた人間達に聞き込みをする事にした。
「もし。大事無いかね?」
「ヒッ! だ、誰だオメェッ!」
「旅の者だ。ここより遥か遠くの地から来た。それよりもあの怪物について知りたい」
「だ、だったらその人達に聞いてくれッ!」
住民の男が方向へ振り返ると、そこには鎧に身を包んだ複数の兵がこちらへ槍を向けて立っていたため、パンドラは同じ質問を兵にぶつける。
「失礼。先の怪物について詳しく・・・」
「動くな! 奇妙な格好をしているが、異国の者か?」
「・・・・・・そんな所だが、それでこちらの質問には答えてくれるのか?」
「黙れ。貴様の問いに答える義務など無い」
「ホウ、なら貴様等を殺して別の人間に話を聞くとしよう。奴がこの世界の童話主人公なのは分かっている」
兵の血も涙も無い返答に殺意を覚えたパンドラは、アリスをスペードブレイダー形態で起動し兵に迫ったが、その直後に兵の口から出た一言によって、即座にその殺意を引っ込める事となる。
「なッ、どこでそれを!? ならば貴様を城に連行する」
「何、城? ホウ、本拠地に連れて行ってくれるのか? 良いだろう。同行するとしよう」
パンドラがそう言うと、後ろにいた兵がパンドラの両腕を後ろで組ませ、縄できつく絞めた。
かくしてパンドラは複数の兵に囲まれ、腕を拘束された状態で(そもそも【蝶・効・果(バタフライエフェクト)】でいつでも脱出出来るので意味は無いのだが)彼等の拠点とする城まで連れて行かれたのである。
―――――蝶々仮面(パピヨンマスク)のパンドラ 第四章 《桃太郎編》―――――
「城主、島神丹王(しまのかみたんのう)様であ~る!」
「オイ、頭を下げろ。我等が主君様だそ!」
「拒否する。私は如何なる権力者に対しても頭は垂れん」
「貴様ッ!」
「良い」
「! ・・・・・・」
ザワつく兵達を一言で沈めると、丹王はパンドラの前方にある椅子へと腰を下ろす。
「話は聞かせて貰った。確かに珍妙な格好をしておるな」
「出会い頭に私の一張羅を珍妙呼ばわりとは、つくづくここの人間は来訪者に無礼だな」
「コイツ、どこまで!」
「よさんか。丹王様の御前だぞ!」
「クッ・・・・・・」
「・・・・・・報告によれば桃太郎の奴を退治したそうだな?」
「桃太郎? それがあの童話主人公の名か。つまりここは【桃太郎の世界】という事だな。確かに私が奴を追い払った。追い払っただけで倒してはいない」
「だが、我が領内から危険を取り払ってくれた。褒美は何がいい? 土地か? 金か? そうだ、我が家来として取り立ててやっても良いぞ」
「全力で拒否する」
「何?」
それまで割と機嫌の良かった丹王の眉間に皺が寄った。
「私は自分にどれだけの能力があるか把握しているつもりだ。誰かの下につくという事は私のその力がそのままソイツの管轄に入る事を意味する。それによって周囲に及ぼす環境は計り知れない。更に自分の力を自分の判断で使用出来なくなる。これは私の開発前提に反する事だ。故に相手が何者であろうとソイツの傘下に下るわけにはいかない」
「ムゥ・・・・・・」
「これ以上話す事が無いのではあれば、これで失礼する。そろそろこの手枷をつけたままでいるのも・・・・・・飽きたんでな」
そう言いながらパンドラは立ち上がると、悠々と【
「丹王様・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
《桃太郎編――第2部へ続く――》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます