最終部



 予想だにしていなかったその一報はパンドラ達にとって寝耳に水だった。

『そんな、ありえないです! 生きた人間が近くにいれば例え地下だろうとパンドラさんが気付くはずです!』

「城に入った段階でそんな生体波導は金太郎以外無かった筈だが?」

「だがこの城が奴等に攻め込まれた時、俺達は確かに見た。鎧武者共に人質にとられた大臣達が地下に連行されていくのを! それがあって俺達は城から撤退せざるを得なかった」

「ホウ、そこまで言うなら地下への出入り口を探してみるとしよう」

 かくしてパンドラとレジスタンス一行による合金城跡の捜索が始まったのである。

 超巨大金属生命体となった金太郎の融解した残骸が辺りに散乱、累積していたため、パンドラはフレイムドレスにドレスチェンジすると、既に冷却され固まり始めていた残骸を再び熱し、どかしたうえで下に何も無いか、一箇所ずつ確認していった。

「ン? これは・・・・・・」

 いくつかの残骸をどかしていく中で、パンドラは残骸の下から、アリババの供述を裏付ける地下への扉を発見する。

『ホントにあった!』

「だが開閉の仕掛けが破損している」

『どうするんです?』

「どう? 当然、こうする」

 そう言うと、パンドラは焔の髪の毛を扉に押し付け、扉そのものを溶かして大穴を開けた。

『わぁ~便利ですねぇ~フレイムドレス!』

「この世界が金属産業主体で良かった」

 そう言いながら地下空間に入ったパンドラは、そこで奇怪な光景を目にする。

「ンン?」

 ある一角から物音がした。

 だが生体波導を感じ取る事が出来ない。

 そして最も不可解だったのが、その一角にはそれを覆い隠す程の大きな布が掛けられていたのである。

「何だこれは・・・・・・?」

 何かが隠されていると感じたパンドラは、その布を取り払った。すると――

「なッ!?」

 そこには人が、アリババが言っていた城の大臣達が囚われていたのである。

「だ、誰じゃ?」

 突然差し込んだ光源に、手で目を庇いつつ、大臣はパンドラに尋ねた。

「救援といった所かな」

「皆! ご無事ですか!」

 パンドラが焔の両手と髪の毛で大臣や側近達が収監された檻を変形させる中、アリババが大臣達に駆け寄る。

「その声は、アリババか?」

「そうです。親衛隊の仲間達もいます。このパンドラという者が我々の国を助けてくれました」

「おぉそうか。そなたが地獄の底へ叩き落とされ閉じ込められたこの国を救い出した解放者か」

 アリババの肩を借りて檻を脱した大臣はパンドラに視線を向けた。

「・・・・・・まぁ、支配と殺戮の限りを尽くした鎧武者共と金属生命体共を殲滅し、操られた金太郎を倒したという意味では、そうだな」

「ならばワシ等からも礼を言わせてくれ。有難う」

「だが、この布は一体何だ? 被せてある間、全く生体波導を感知出来なかったが・・・・・・」

「この布を被せられずっと暗い中におったせいで時間の感覚が無くなってしまった。アレからどれぐらい経ったんじゃ?」

 老人はアリババに尋ねる。

「半年です。半年もお待たせしてしまいました・・・・・・。ホントはもっと早く助け出さなきゃいけなかったのに、俺達が不甲斐ないせいで・・・・・・申し訳ございませんッ!」

 大粒の涙をポロポロこぼしながら謝罪するアリババを大臣は優しく抱きしめた。

「何を言う。お前達は何も悪くない。むしろ良くやってくれた。最後にはこうして解放者を連れて来てくれたではないか」

「ウウッ・・・・・・」

「取り込み中のところ悪いが・・・・・・」

 未だ人間の感情のやり取りを理解するのに程遠かったパンドラは、そこへ割って入る様に口を開く。

「ここで長話をするより、拠点に彼等を運んで治療を受けさせた方がいいと思うがね」

「・・・・・・そうだな。そうだ、馬車を用意してたんだった」

 立ち上がったアリババが再び大臣に肩を貸すと、パンドラはアリスをクラヴィティハンマー形態で起動し、出力を調整した反重力波導で、彼等を地上へと押し上げた。


          *


 その後、レジスタンス達によって拠点へ運び込まれた大臣と側近達は、そこで治療を受ける運びとなった。

 そこでパンドラは大臣に、自分が訪れてからの経緯を一通り伝える。

「事後報告ですまないが、私の目的でもある以上、金太郎の身柄は引き取らせてもらう。もうどのみちここでは居場所があるまい」

「そうじゃの。表向きには国外追放という形にして、あとはワシ等でどうにかしよう」

「俺達もいるし、その辺は心配しないでくれ」

「頼んだ」

『ンッ、ここは・・・・・・』

「お目覚めか? 皇帝殿」

 ブローチの中で意識を取り戻した金太郎に対し、パンドラは皮肉を込めてそう言った。

『そなたは?』

「パンドラだ。君の主といった所かな」

『何? どういう事だ?』

「ムーンフェイスの軍勢に攻め込まれた際、君は洗脳されて金属生命体を作り出し、自分の国を殺戮と恐怖で満たしていたのだ」

『何だと? バカな・・・・・・』

「嘘だと思うなら君の元お仲間達に聞いて見るか?」

 そう言うと、パンドラは空いたベッドに金太郎を人間形態で召喚し、アリババに事の顛末を説明させる。

「何という事だ。余は何という事をしてしまったのだ・・・・・・」

「事が事だけに、対外的に君は国外追放を受けた事にして、私の契約下に入って貰った」

「成程、承知した。それで? 余は主殿のために何をすれば良いのだ?」

「君の世界に攻め込んだムーンフェイスを始めとするサイボーグ軍団だが、彼等を生み出したツクヨミ博士の指示で、ムーンフェイスが私の生みの親を連れ去ったのだ。君にはそれの奪還とツクヨミ博士の始末に力を貸して欲しい」

「フム、ツクヨミなる輩が今回の事態の原因を担っているというのならば、余にも敵対する動機となるか。良かろう。この金太郎、主殿の目的に力を貸そう」

「そう言ってくれて助かる」

 金太郎が敬意の念と共に頭を下げると(国中を満たしていた恐怖支配が無くなった時点で帝国民にとっては衝撃的であったが、皇帝が頭を下げた時点でその場の帝国民には更に衝撃的であった)、パンドラは金太郎を再びブローチの中へと戻した。

「さて・・・・・・」

 目的を果たし、万事解決したかに思われたパンドラであったが、ただ一つ気になる点が残る。

『どうしました?』

 真剣な表情で考え事をし始めるパンドラに、アリスは尋ねた。

「君等も見たろう? あの地下空間で檻を覆い尽くすように被せられていたあの布の事だ」

『あっ!』

『生体波導が遮断されていたというやつか?』

「あぁ。奴は何故彼等を私の探知から隠す必要があった? 何か別の目的への用途があったのか?」

 現地戦力であるアリババ達を押さえ込む、人質としての役割以外に考えを巡らせるパンドラであったが、該当する要素が出てこない。

『彼等はあまり関係ないのでは?』

「!」

 そこに助け舟ともいえる見解を示したのはアリスだった。

「どういう事だ?」

『彼等はきっと捕まっていた段階で、アリババさん達が攻め込めないようにする役目を果たしてたんです。問題はその存在にパンドラさんが気付くのかどうか。それを確かめるためにあの布をかけていたんじゃないでしょうか?』

「という事は、奴等は私の生体波導感知能力の存在に既に気付いていて、それを妨害出来るかどうかの実験だったと。チッ、どこで勘付かれた?」

『だが、勘付かれた所で一体何の問題がある? 奴等は生体波導を持たないサイボーグだろう?』

「いるじゃないか。隠されると私が困り、どこの童話世界にも必ずいる存在が」

『あっ! 童話主人公!』

「そうさ。童話主人公を隠せばそれはそのまま私への妨害になる。奴の狙いは恐らくそれだ」

『だとすると、今後訪れる童話世界のどこで実行されてもおかしくは無いな』

「あぁ。幸いなのは奴が布の効果を確かめる前に撤退せざるを得なかった事だ」

『でもそうなると、なおさら急がないといけませんね』

「そうだな。簡単に一言伝えて、早々に次の童話世界に行くぞ」

『了解しました!』

 旅路を急ぐという結論にたどり着いたパンドラは、これからの帝国についてレジスタンスの仲間達と話し込んでいるアリババへと近づく。

「少し良いかね?」

「ん? 何だ?」

「状況がまだ落ち着いてないところ悪いが、少し旅路を急がねばならなくなってしまった。我々はこのまま次の目的地に向けて出発する」

「出発って、今からか?」

「そうだ」

「随分急じゃないか。急ぎの用って何だ?」

「この国の金属生命体共やサイボーグ共は殲滅したが、それを率いた奴は逃げおおせている」

「さっき言っていたムーンフェイスという奴か」

「如何にも」

「分かった、行け。ただし見送りは期待するなよ?」

「あぁ」

 そう言ってレジスタンスの拠点を出たパンドラは、【蝶・効・果バタフライエフェクト】でメタルグリズリーの遺跡跡地へ空間跳躍した。

「ウム、この能力は何気に便利だな」

『先の戦闘でも大分使い込んでいたな』

『でもパンドラさん、お空飛ぶ段階で十分早いですよね?』

「それはそうだが、アレは目立つからな。それに場所が分かっているならこちらの方が早い」

 【蝶・効・果バタフライエフェクト】の力に満足げな表情を浮かべながら、パンドラはアリスをトラベラーズダイヤル形態で起動する。

「クルーズジャンプ!」

 そして指針を高速回転させた菱形の羅針盤が彼女を飲み込んだ。


 生みの親を取り戻すため童話世界を巡る人型生体魔法、パンドラ。

 次に彼女が辿り着く童話世界では、一体何が待ち受けているのか――



《桃太郎編に続く――》

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