第一章――【不思議の国のアリス】編――

第1部

 魔法技術と科学技術が混在した世界――

 古くから根強く存在する魔法技術と、その中で生じた魔力に恵まれた者とそうでない者との格差が拡大。

 虐げられた魔力弱者達は、新たに魔力を必要としない科学技術を生み出しこれに対抗、魔法主義社会に革命を起こし、自由を求める科学技術派閥と、自分たちの利権を守るためそれを阻止し、更なる制圧をせんとする魔法技術派閥との紛争が各地で頻発していた。

 そんな中、とある魔法学者が遺跡の奥深くから持ち帰ったアイテム【賢者の石】を元に、〔自律的に判断し最適な行動をとる事の出来る人造魔法使い【人型生体魔法】〕が開発される。

 十~二十代の人間の女性を模して造られたそれは、小高い丘の上にあるロッジ風の家の前で、白衣を着た三十台程の眼鏡の男と向かい合っていた。

「いつでも来い」

 常に漆黒のシルクハットを被り、紫の蝶々仮面で顔の大半を覆い隠した人型生体魔法【パンドラ】は、目の前の魔法学者【ゲッコー】に戦闘態勢が整っている事を告げる。

「よし、じゃあいくぞ!」

 ゲッコー博士はそう言うと、用意していたドローンを六機、起動させた。

 三機の飛行ドローンは、反重力システムによって翼やプロペラ無しで空中に浮遊し始め、もう三機の地上ドローンは、まるでモニュメントのような格納状態から車輪の付いた六本の脚を展開し、それぞれ起動したそのセンサーにパンドラを捕らえると、同じく戦闘態勢に移行する。

 パンドラは動力源に賢者の石を使用しているおかげで、魔力は無尽蔵に自身の中から生成されていた。

 しかし無尽蔵の魔力があるだけでは、そこらの魔法使い以下である。

 【魔法】という形に変化及び具現化させて、それは初めて意味を成すものだ。

 ゲッコー博士はその高エネルギーを【波導魔法(フォースマジック)】に転用する事を思いつき、パンドラに教え込んだのである。

 それは、術者の生命の波導を【フォースエネルギー】に変換し、用途に応じて様々な形に形成する事で、あらゆるケースに応用する事が出来るとされている魔法だが、その反面、術者の生命力に威力や精度等が全て左右されてしまうため、基本的に疲弊しやすい劣悪な環境とされる戦場や、局地での長時間の活動に向いてないとされていた。

 だが、常に無尽蔵の魔力が生成されるパンドラは、いわば常に高い生命力が満ちている状態であり、まさしくこの波導魔法(フォースマジック)の使い手としてうってつけの存在だったのである。

 そのパンドラは、魔力を体内でフォースエネルギーに変換すると、それを背部から蝶の羽を形作り具現化し、展開した。

「【フォースウィング】で先に飛行ドローンから対処しにかかったか。いい判断だ」

 フォースウィングを羽ばたかせ、飛行ドローンと同じ高度まで一瞬で飛翔したパンドラを見上げながら、ゲッコー博士は満足そうに呟く。

 接近したパンドラへ、三機の飛行ドローン達はそれぞれ別方向へ散開しながら機体内部より小口径の機関銃を展開し、パンドラへ攻撃行動を開始した。

 しかし当のパンドラはどこ吹く風か、圧倒的な速度で悠々と回避すると、その内の一機をヒラリと舞うゴスロリ服のスカートから空中右回し蹴りを繰り出し、蹴り飛ばす。

 直撃をくらった飛行ドローンが姿勢制御を失い、地面に墜落すると、地上ドローンがその穴を埋める様に機関銃を展開し下から空中のパンドラを狙い撃つ。

 それに対しパンドラは、フォースエネルギーを壁面状のバリアの様な形にした物を左手から展開してこれを防いでみせた。

「うん、【フォースバリア】も問題無し。と」

 ゲッコー博士の安堵もつかの間、残った飛行ドローンの一機が背後からパンドラの隙を突く様に攻撃を仕掛けてくる。

 ところがパンドラはこれに全く動揺する事無く、上昇からのバック転を描く様に回避しながら飛行ドローンの背後を取り返し、掴み取った。

 そしてそれを先程攻撃していた地上ドローン目掛けて勢いよく投げ飛ばすと、今度はフォースエネルギーを球状に形成した物を右手から生み出し、追い討ちを仕掛ける。

 投げ飛ばされた飛行ドローンの直撃を受けて一瞬、動きの止まった地上ドローンにパンドラがそれを勢いよく叩き込むと、地上ドローンは火花を散らしながら大きくひしゃけ、爆発してその動きを止めた。

「成程、【フォースボール】を直接叩き込んだか。考えたな……」

 残っているのは飛行ドローン一機と地上ドローン二機。

 先に地上ドローンを処理しようと考えたパンドラは、フィースウィングを羽ばたかせて更に高度を上げると、両手を使い、フォースエネルギーを胸部中央にチャージさせる。

 チャージされたフォースエネルギーは円形の魔方陣に三日月を被せた紋章を出現させ、更にチャージされたフォースエネルギーによって、三日月から変化した満月が魔方陣を覆い隠すと、それを解放する様にパンドラが両腕を広げ、地上ドローンへ向けて放たれた。

 チャージ中魔粒子による細い光の筋を描いていたそれは、超大型の魔粒子ビームとなり、地面を大きく抉って、目標となった地上ドローン達を跡形も無く消し去ったのである。

「ちゃんと射角に注意して【フォースカノン】を撃ててるね。コレも訓練の成果か……」

 監察を続けるゲッコー博士がパンドラの訓練による進歩を実感する中、パンドラは最後に残った飛行ドローン一機に対してシメの波導魔法(フォースマジック)に入った。

「ムーンライトキック……」

 パンドラが静かに宣言すると、変換されたフォースエネルギーが彼女の右脚に集中していく。

 そこからとび蹴りの体勢に移ると、右脚の足先に満月と蝶が描かれた紋章が出現し、パンドラは飛行ドローンへと狙いを定め、必殺の一撃を放った。

 フォースウィングを羽ばたかせての急降下による飛び蹴りの直撃を受けた飛行ドローンは、一瞬で粉々になり、爆散する。

 そのまま軽くスライディングする形で着地したパンドラは、マントを翻し、ゲッコー博士の方へと向き直った。

「終わったぞ」

「よし、訓練はこのへんにして、後は研究室で私の研究の手伝いをしてくれ」

「了解した」

 戦闘訓練の後にゲッコー博士の屋内研究を手伝うのが、人型生体魔法として生み出されたパンドラの主な日課であり、今日もそれに従ってゲッコーの後をついていく。

 いつも通りの日常が流れる筈であった。




 今日この時までは――


《アリス編――第2部へ続く――》

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