第4話
「お姉さん、僕のこと呼んだよね?」
昂の静止が気になり、何も反応しないでいたのだが、彼は一瞬で私の目の前に移動してきた。
そう一瞬で。
もちろん歩いてなんていない。
移動している姿が全く認識できなかった。
私は再び背中に汗流れるのを感じる。
そりゃそうか、ここに池田昂がいるんだもんね。
そうだよね、普通のはずがないよね。
何て迂闊なことをしたんだろう、ついさっきの自分の行動をすぐに反省する。
「僕ね、お兄ちゃんをさがしてるんだ」
まだ舌ったらずな話し方で、目の前に移動してきた男の子は、キラキラさせた目でじっと私を見つめながら訴える。
「でもね、いくら探しても全然見つからないんだ。だから僕、疲れちゃって、今、休んでたの。ねぇ、お姉さんも一緒に探してよ」
すると彼は腰が抜け、座り込んだ状態のままだった私の膝に手を置き、背伸びをしながら私の顔を覗きこむ。
置かれた手は冷たく、私の汗を助長させる。
「ねぇ、良いでしょ?」
にこっとしながら彼は聞いてくるが、何て答えればいいのか正解がわからず、そっと昂の顔を盗み見る。
しかし、彼は何か考え込んでいる様子で、片手で顔を覆い私の目線には気づかない。
「お・お兄さんはここの高校なの?」
とりあえず、昂に気づいて貰おうと、おそるおそる男の子に質問してみる。
「探してくれるんだね!お姉さんありがとう!」
が、男の子はその質問を肯定と捉えてしまったようで、笑顔を更に輝かせた。
探すという事に答えは出さずに、昂が気づくまで返事をうやむやにしたかったが、その目論見は失敗してしまったようだ。
「わ・悪いんだけど、お姉さん、ちょっと時間がなくて。。。もう部活に行かないとならないの。だから、ごめんね?」
自分とは違う存在だとは思いながらも、見ると男の子の屈託のない笑顔に罪悪感が生まれそうで、若干目をそらしながら、やんわりと断る。
「僕を置いてくの?」
しかし彼は私の顔を覗き込んだまま寂しそうな顔をする。
ただ、さっきの昂の反応からもこれ以上関わってはいけないような気がして、なんとか断る方向にもっていきたい。
「ごめんね、きっともう少し休めば、君もまた元気になるから」
するとさっきまで可愛げのあった彼の表情が一気に曇っていく。
「そう、手伝ってくれないんだね。。。なら、もうお姉さんはいらないや」
「痛っ」
私の膝に置いていてた彼の手に子供からは想像もできない力で握られ痛みが走った。
「離せっ、このっ」
昂が男の子の異常な様子に気づいたようで、男の子吹き飛ばす。
一見小さい子になんてことを!と言いたくなるが、状況が恐ろしくて、子供が離れた安堵の方が大きかった。
「立て!逃げるぞ!」
昂はすかさず私の手を取ると、ぐいっと私を引っ張りあげ、そのまま保健室のドアへ走り出す。
「待ってよ、お姉さんは僕の物だよ。僕のお兄ちゃんを探すの手伝ってくれないなら、お姉さんを食べて、僕の元気のモトにしてあげるよ」
「振り返るな」
男の子の恐ろしい言葉に後ろを振り向きそうになる私を制して、手を引いたまま廊下へ飛び出すと、一瞬立ち止まり、素早く保健室のドアを閉める。
そして、またすぐに走り出した。
さっきまでへたり込んでいた体だ
まだうまく走れている気がしないが、必死に体を動かす。
と、同時に後ろでドンと大きな何かがぶつかる音がした。
振り返ると、保健室のドアが衝撃に負けて廊下へ膨らんでいるのが見えた。
すぐにまたドンという音と共にドアがさらに膨らんでいく。
どういう状態かわからないが、きっと中からさっきの男の子がぶつかってドアを壊そうとしているのだろう。
見た目の姿からは想像もできないような力で。
「前向け、今は逃げることに集中しろ」
昂の言葉に慌てて前を向き直し、必死に彼の足についていく。
ドアを横に動かすということはできないのだろうか?
一瞬、私の頭にそんな考えが横ぎったが、
後ろからは、衝撃音が絶え間なく鳴り響き、その疑問はすぐにかき消された。
どちらにしろ、ドアが破られるのも、そんなに時間がかからないだろう。
もしかして、私、相当ヤバイ状況なんじゃ。。。
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