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 3月11日、早朝。この地に暮らしている人々にとっては、様々な気持ちを抱く日になった一日の始まりの頃。俺は、ボーっと家の横の駐車場にとめてあるバイク。「昔気質な勇気の灯アン・オールドファッションド・ブレイブハート」を眺めていた。一年ほど前にこれに乗って大白山おおしろやままで疾駆した縁以来、譲り受け、今では俺のバイクになっている。


 昨日、悠未君が口にした後悔という言葉が胸に過った。


 しいてもう一つ俺の中に後悔があるとしたら、小室崎こむろざきに対して、何もできなかったこと。もう言葉を交わすことができない人間に対しての想いを、改めて意識する人も多い日となるだろう。


 「昔気質な勇気の灯」がどこから来たのかは未だ不明。それでも本当に、このバイクは小室崎が乗っていたものな気がしている。


 一年前の人来坂に向かう途中、雪中で全てを見失った時、確かにこのバイクのライトが道を示してくれた。アレがいったい何だったのか、未だに分からない。


 でももし。時也ときや。お前が助けてくれたんだとしたら。


(ありがとな)


 その時、早朝の駐車場に、ヌっと大きな存在が入ってきた。


 何やら四角い立方体の体に、ぬとーんとした目、鼻、口、大きさは人間の成人男性くらい(横幅はもっと広いが)、全体の色はくすんだ黄色系という、謎の生物?


 さすがにいきなりだったのでビックリしたが、この人? については知っている。


百色ひゃくいろちゃん?」


 近所の商店街のマスコットキャラである。いわゆる、ゆるキャラ。何か震災関係のイベントで、早朝から出回ってるのかな?


 百色ちゃんはぬらりぬらりとこちらに近づいてくると、「昔気質な勇気の灯」をポンポンと二回叩いた。


 続いて、俺に正対して、「がんばれよ」みたいな感じで両肩をポンポンと叩いた。なんか、励まされてるニュアンスを感じる。


 その時である、またまた、チェーンが光を宿した。今度は、黄色である。これは、何かいよいよ不思議な感じになってきたぞ。


 百色ちゃんは、それだけで用は済んだとばかりに、振り返って我が家の敷地内の駐車場から出て行った。


「お疲れ様です」


 立ち去り際の百色ちゃんの背中に、そう声をかけておいた。俺も着ぐるみのバイトはやったことがあるが、あれ、けっこうっていうかかなり大変だからな。

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