2.首なし鬼
進は某井戸から女が出て来るあの映画を幼い頃から一人で見ていた。
単純なファンだった。
その映画の中の登場人物たちは呪いのビデオや呪いの動画やらを見始めると映像をガン見し、誰もテレビの画面などから出て来る女の前髪を切ろうとはしない。その事にずっと違和感を感じていた。
思春期の頃に見たそのシリーズのテレビから出て来る貞子役の女優は美人だつた。ファンになった時期もあったほどで、自分だったら絶対押し倒して・・・という事までと思春期特有な考えかたをしていた時期もあったらしい。
それを現在実行したというのが進の考えだった。それに、畳の床を髪まみれにされたという多少の怒りもこもっていたそうだ。
しかし、進にだって自制心はある。なので貞子(仮)を座らせて滅茶苦茶握手をするという行動に押し倒すだけ押し倒したら移った。ファンとしては床ドンを貞子(仮)にしたかったらしい。
それから、座敷童子の方を向くと呪いのビデオを手に入れ再生した意図を聞いてなかった事に今更になって気づいた。
「座敷童子、何で呪いのビデオなんて持って来たんだ?」
「あー、このビデオデッキが私の前に住んでいた場所の物に似ていたので使ってみたいなぁーって思ったんですよ・・・それに・・・」
座敷童子が少し俯き赤くなる。
「ん?」
「少し試したい事があって・・・」
「試したいこと?」
進は再度座敷童子に確認する。
「実質、この進さんのお家である玄内家宅の結界が変化したと私も聞きました。なので、もしも此処を拠点としてふさわしいものにするのであれば何かしらの策を講じなければいけないと思いまして。試しに呪いのビデオで外部からの妖怪の自発的転移の有無について考えていたんです」
「自発的・・・転移って事は、進くんの家の中に外部の妖怪が召喚される事がそこの地主の許可無しに可能かどうかってことなの?」
沙由香が座敷童子の意図を理解したように座敷童子に再確認した。
「そうです。貞子さんかっこ仮さんに実験に手伝ってもらったという訳です」
その会話に、やれやれと貞子(仮)が長い溜息をする。
「じゃあ、せっかくなので言っておきますけど私の場合はPCのウイルスのように電子機器を移動することだって出来ますよ?」
「ですが、変更される前の結界は一切進さんが許可しないと本当に妖怪の出入りは不可能だったんです。それだったら貞子さんかっこ仮さんでも入る事は不可能だったと思いますよ」
「あっ、座敷童子、転移の術を発生させるにはその土地に一度出向いてそれなりの準備をしないといけないんだ。だから、座標が分かるくらいじゃ到転移からの召喚なんて不可能なんだよ」
「え?進さん!そうなんですか?じゃあ、貞子さんかっこ仮さんはどうなるんですか?」
「私は・・・ギャァ!」
貞子(仮)の背中から飛びついて代わりに進が答えた。
完全に貞子(仮)の反応で完全に楽しんでいる。
「貞子の場合は、要するにそのビデオそのものが召喚術の媒体みたいな役割をしたんだと思う」
貞子(仮)は胴体をひねり髪を勢いよく振り、その勢いで進を隣の部屋の距離ぐらいまで飛ばすと映画さながらにドタバタと四足歩行で進に駆け寄って行った。
その気味の悪さと色んな意味での貫禄に沙由香と座敷童子は再び圧倒される。
ひっくり返る進が体勢を上げる前に貞子(仮)に乗り上げられた。
進は目をキラキラさせながら無邪気な子供のように貞子(仮)をガン見している。
「ぐっ!!」
貞子(仮)に抱きつくと貞子(仮)は重さに負けて進と地べたに落ちる。
貞子(仮)も自分のキャラをほぼ投げやり、あぁーーーっと声を漏らしている。
二人で戯れ始めた。
殆ど髪で隠れ二人のシルエットだけだと何が起こっているのか判断に困る状態が繰り広げられている。
そこにテレビ電話の状態のミツが呆れたように沙由香と座敷童子の二人を急かした。
「二人とも、このままだと~進が貞子ちゃんのモノになっちゃうわよ?事実、昔、玄内家の当主の中には妖怪の間に子供を作っちゃった人だっているんだからー。」
はっ!と我に帰り二人は進と貞子(仮)を引き剥がした。
青白かった肌を赤くして貞子(仮)が照れる。
「こんなの・・・初めて・・・です」
二人は進を諭す。
すると、進は目を丸くして貞子(仮)を見つめるとあっ!と何かを思い出したかのように笑い出した。
「お前、貞子じゃないだろ!今ので思い出した!ずっと前に会ってるし!」
7年前、進は沙由香と夕飯を食べた後に一人でテレビを見ていた。
小学五年生だった進は近所のレンタルショップで借りて来た貞子2を見るつもりでビデオを再生した。
すると案の定、貞子さんがテレビから飛び出して来たのだ。
その後ろからもう一人小さい貞子が後について出て来た。
貞子は独身だったはず・・・と幼い頃の進は考えていたら小さくて幼い貞子が進に向かって近づいて来る。
「えっ、ちょっと・・・待っ!」
近づくまでとしか小さい貞子は聞いておらず勝手が分からず進を押し倒して、とりあえず、髪の毛で包んでみた。
髪の毛の中で二人は幼いながらあっち向いてホイをしたり、ごっこ遊びをしだした。
それを無言で貞子さんは見ている。
小さい貞子はドジだった。
進は髪の毛の中で愛らしい表情を見せる小さい貞子に見惚れているとその瞬間、髪の毛に足を引っ掛けて二人で共倒れしその拍子で・・・。
進の頬に幼い貞子が唇が触れた。
真っ赤になって、お互い距離を置くとただ倒れただけだろうとしか思っていない貞子さんがどこからともなくフリップを出すと進に向かってフリップで会話を試みた。
「君が封化師と聞いて来たーーーそしてこのビデオの大ファンだとも聞いているーーー頼みがあるーーー君の封化師のチカラをつかってーーーこの子を貞子の後継者としてこのビデオに住めるようにーーーしてほしいーーー出来るか?」
「うーーーーん・・・」
考え込む進。進はもちろん鍛錬を幼い時から積み重ねてもいた。しかし、まだ本格的な封化師の仕事をこなすまでには成長をしていなかった。護符や呪符を使った術は類を見ない上達を遂げていたが・・・。
「わっ分かりました。やって見ます」
「やったーー!」
小さい貞子が進に駆け寄って抱きつく。
照れる進に貞子さんが尋ねる。
「どうするーーーーつもりだ?ーーー封化師の子供」
「封印の術の応用ですよ。術で使う封印の術式の物凄く微弱な効果しか出ない護符を使ってその場に留まることを可能にするんです」
「ーーーお、おうーー」
「貞子さん!終わったらサイン下さい!!!」
「ーーー分かった」
封印の護符を並べて進が自らの能力の最大限を尽くして集中する。
されど、まだ子供。
幼い進の体にかかる負担は測りしきれなかった。
どんなに理屈では可能でも幼い技量ではそうもいかない。
護符が宙を浮いて小さい貞子と貞子さんを取り囲み貞子さんの井戸の土地と繋がれている権利を小さい貞子に移した。
「うおおおおおおおおお!!!」
進の身体に限界が来た。
溢れる霊力が瞬く間に消えて進は気を失った。
進の健闘は先代貞子と現貞子となった
無事、術は成功したのだ。
進には長い間その時の記憶は無かった。
チカラの使いすぎによる一時的な後遺症かもしれない。
その記憶が今になって進に蘇ったのだ。
「・・・思い出したんですね!」
「ああ!懐かしいな!」
次は琴美から進に飛びついて来た。
二人は再会を祝していたが、訳の知った沙由香と座敷童子は冷たい視線を進に送っている。
「また、進さんがよその子をたらし込んだんですね」
「正確にはたらし込んでいたってことだけど、この女たらしな進くん」
先ほどの行為について謝罪をなぜか三人に行い、琴美はテレビの中の井戸に超元気いっぱいに手を振って帰って行った。
その真夜中、進が寝ている布団に、ある一人の小さな妖怪が潜り込んできた。
小さな両手で一生懸命布団を持ち上げると進の腕に潜り込んで行く。
進の腕に収まり腕枕を作るとひじを折り曲げて自分の肩の方に引っ張る。
「んあっ!進さん!」
進が寝返りを打ってその妖怪の方に身体を捻る。
声に気づいたのか、進が半分寝惚けて目を覚ます。
「座敷童子!!」
小声で侵入者の名前を呼ぶ。しかし、すぐに口に人差し指を付けられてシーーーッと座敷童子に遠回しに黙れと合図される。
「進さん、いいですか?今から大きな声を出したり私から手を引き抜いたりしたら家中の家具から家電、進さんが隠している大人のお姉さんイヤーン、アッハーンというエロ本を宙に浮かせたり電源を入れたりしますからね!」
進は自分の決して(イヤーン、アッハーンという名前ではないエロ本)を母の少女漫画の奥に隠してあったことを思い出して後悔した。座敷童子も何百年と生きる妖怪としてポルターガイストのような能力を使うのであればプロフェッショナルである。そのまま本を浮かして沙由香の家の窓から中へ投げ込むことだって容易なはずだ。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「このまま・・・」
「え?」
「このまま、その体制で私に腕枕をしてください!」
座敷童子が恥じらいながら進を見ないで言う。
ようはヤキモチというやつだ。
「本当は怖いビデオで夜一人じゃ寝られませんって言って一緒に寝んねしようと思っていたのに!あんな、進さんの婚約者みたいな人が出てくるから・・・」
「ベットに入るが為だけにビデオを借りてくるかよ、フツー!別に琴美は本当にただの友達だって」
「友達なのにあんなスキンシップするんですか?あれじゃあ、セフ・・・」
「ちょい待ちーー!その容姿でそんな言葉言わないの!」
進も自分が家に招き入れた座敷童子に対して、最近遊んであげられなかった事に責任があると思った。
「じゃあ、今度・・・遊んでやるから、あんまり怒るなよ」
「ほっ本当ですかーー!」
「ああ」
何かに気づいたように慌てて座敷童子が進の半胴体と足に身体をくっつける。進の身体に座敷童子の体温と肌の感触が伝わってくる。
「でも、今日はこのまま朝まで一緒です!それに、あのえっちなお本はビリビリに破いておきましたからね!」
「はぁーーー!!!!」
苦労して買ったのだろう。
進は驚嘆する。
「そして今日は白いワイシャツと女の子に興味を持っていただくまで寝かせません!」
白いワイシャツ一枚の座敷童子が進の腕に絡みついてくる。
「進さーーーーーーん!」
***
「おい、進!女でも連れ込んで寝不足か?」
眠そうな進を
「相変わらず、朝からうるさくて、光魔は面倒だな」
「そりゃあ、2章を迎えてしかも久しぶりの更新なのに俺の出番が殆ど無いからに決まってるじゃん!!」
「何言ってるかーーわかりマセーーン」
面倒そうに光魔を受け流す。
そして、なんやかんやで放課後を迎えた。
「進、今日放課後どうせ暇だろ、喫茶店行くから付き合えよ」
「あのお前がタイプっていう女の子のいる店か?」
美妃という光魔のお気に入りのウエイトレスのいるパンケーキが美味しいと評判な喫茶店だ。
「別にいいけど、最近金欠だから
「封化師の人数だって少ないんだからそれなりに貰っててもいいと思うんだけどなー、まぁー、別にいいぜ」
指で生々しくお金サインを振る。
二人は喫茶店までの道を歩く。
しかしその足は突如止まり、踵を返して玄内家の方角に走る。
あまりにも巨大な妖力の塊が玄内家に移動しているのが分かったのだ。
脳内に「ぬらりひょん」という大御所妖怪の存在が浮かび上がる。
人間離れした身体能力を本来持っている愛弦 光魔は「先に行くぞ」と進より先に玄内家へと走る。
目一杯封化師としての力を使って進も人よりは全然速い速度で我が家に向かった。
進が玄内家の道の前の坂に到着すると進の首根っこを掴んで横にある電信柱の影に光魔が連れ込む。
「進、なんでお前の敷地内の門の前に馬鹿でかい図体が立ちはだかってるんだよ!」
「はぁ?」
進は自分の家の門の前で庭を上から見下ろす巨体を初めて見た。
「光魔、アレってなんの妖怪か分かるか?」
「馬鹿を言うな、頭の無い妖怪を判断するのがどれだけ難しいか・・・」
確かに巨大な妖怪には頭部がない。
妖怪は図体の大きさに見合った速度で動くのであれば勝ち目があるが、もしも素早かったら確実に負けると進は考えた。しかし、最低限の情報である名前だけでも正体だけでも知りたかった。
「しかし、進の敷地内には入れないってことは玄内家の許可を得ていないってことじゃないのか?」
すると、その首のない妖怪がしゃがみこんで指を突き出した。
「進!指からビームでも出すんじゃないのか!?」
光魔が進をリラックスさせるためにジョークを言う。
「出すとしたら口から炎だろ!」
「頭ねーんだから口なんか無いだろうが!」
すると、巨大な妖怪の指が玄内家のインターホンを押した。
「「え?」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます